第32話 土いじり
森の外と連絡を取りたいベルザークさん。
カルミアさんと一緒にお風呂に入りたいハナちゃん。
2人のお願いを叶えられる方法を、私は知ってる。
簡単だよね。
お家ごと、森の外まで移動できれば良いんだよ。
そうしたら、手紙を出さなくても話ができるし、招待すれば、一緒にお風呂も入れるよね。
でも、さすがに準備無しでそんなことできないから、私は今、『ひでんのしょ』と睨めっこしているのです。
「えっと。クマさんに脚になってもらって、エントさんが家とクマさんを固定して、それからハナちゃん号に家を支えて貰えば、なんとかなりそうだね」
「ふむ……色々と聞いたことのない単語が並んでいますが、それらは解放者の使う秘術のようなものなのでしょうか?」
「うん。まぁ、そんなところだよ。中身は見せれないんだけどね」
「そうですか……本音を言えば、読ませていただきたいところですが、ガマンすることにしましょう」
ベルザークさん、ちょっぴりガッカリしてるね。
まぁ、見せてもマネできないと思うんだけどさ。
父さんが、見せるなって言ってたし、大人しくガマンしてもらおう。
「冬の間に準備できることは、何があるかなぁ」
寒いから、外に出なくてもできることが良いよね。
でも、それだと出来ることが限られちゃうんだよなぁ。
「リッタ、何かお手伝いする?」
「ありがとうハナちゃん。でも、今の所は大丈夫だよ。なにかあったら、お願いするね」
「うん! 任せてっ」
「私もお手伝いしますので、何なりと仰ってください」
「ベルザークさんもありがと。それじゃあ、取り敢えず、川から大きめの石を運んできてくれない? できれば、私よりも大きなヤツ」
「……この寒い中をですか?」
あれ?
「鍛練だとか言って、やってくれると思ってたけど、さすがに嫌だった?」
「もちろん嫌ですよ。そもそも、嫌とかそういう話の前に、そんな大きい岩、持ち運べるわけないですよね?」
「そんなにムキムキなのに?」
「その通りです」
ムキムキは否定しないのね。
でもそっか、岩は準備できそうにないかぁ。
正直、岩を使ったクマさんの準備が、唯一の懸念点なんだけどなぁ。
私は以前、肉狩ゴーレムの術を使って、クマさんを作ったことがある。
でも、その時造ったクマさんが原因で、キラービーの皆に迷惑をかけちゃったんだよね。
そのクマさんの大きいバージョンを、今回作る必要があるワケなのです。
家を背中に乗せて運んで貰うわけだからねぇ。
つまり、今度は失敗できないのですよ。
「なんとか練習だけでもしておきたいんだけどなぁ。今度失敗したら、家ごと全部ひっくり返っちゃうかもだし」
「……あの、リグレッタ様? その不穏な呟き、止めてもらえますか?」
「あ、ごめん。でも、実際に起きかねないんだよねぇ。だから、練習しておけば、失敗もしないと思うんだけど」
エントさんを沢山作って、蔦とか根っこで固定をしてもらえば、多少は大丈夫なんだろうけどね。
念には念を入れたいところです。
「それは、岩でないとダメなのですか?」
「ん? いや、別に岩じゃなくても良いけど」
「それでしたら、庭の地面自体を使うことはできないのですか?」
「地面……たしかにそれでも良いね。うん。それでやってみよう」
地面の方が岩よりも柔らかいから、難易度は下がっちゃうけど。
まぁ、練習だからね。
そうと決まれば、一度やってみよう。
ちょうど、雪も弱まってるみたいだしね。
暖かい格好をして外に出る。
そうして、適当な場所の地面に触れた私は、意識を集中した。
足元の地面に、自分の魂を注ぎ込んで、意のままに動かす。
思ったよりも集中力がいる作業だね。
うぅぅ……。耳元に冷たい風が吹きつけて来るよ。
早く終わらせたい。
そんな願望に、私の頭が支配されかかった時、不意にベルザークさんが声を掛けてきた。
「リグレッタ様。地面の中に、固い部分と柔らかい部分があったりしませんか?」
「え? そんなこと……」
ん。言われてみれば確かに。
私の思い通りに動かしやすい場所と、全然動かない場所があるね。
「ホントだ。場所によって動かしやすさに違いがあるよ。これは、固さの違いってことだよね?」
「恐らくそうだと思います。では、その固い部分を地面の上に掘り出すようなことはできますでしょうか?」
「ん。やってみるね」
両手から更に沢山の魂を注ぎ込んで、私はイメージした。
浮かび上がっておいで。
良い子だから。
怖くないよ。
なんてね。
地面に語りかけても、仕方が無いよね。
意思の疎通はできないけど、その分、地面は素直に言うことを聞いてくれました。
そうして姿を現したのは、大きな岩。
そっか、川まで取りに行かなくても、地面の中に埋まってるのを探せばいいんだね。
それにしても、ベルザークさんはどうして、こんなことを知ってるのかな?
疑問を込めた視線を送ったら、ベルザークさんは小さく笑いながら教えてくれました。
「私の故郷では、貧しい土地を開拓して畑にすることが多いので、土いじりは得意なんですよ」
「そうなんですね。ちょっと見直しましたよ」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
苦笑いするベルザークさん。
なにはともあれ、これで練習は出来そうだね。
クマさんの二の舞は避けられそうで、良かったよ。