第26話 厳しい判定
「何者だっ」
剣を構えながら、2人に詰め寄ろうとするカルミアさん。
身構え方とか、さすがは本物の騎士だよねぇ。
サマになってるよ。
そんな彼女に牽制された白と黒の2人は、カルミアさんを睨み付けながら足を止めた。
「あ? お前に用はねぇんだよ。さっさとそこをどきやがれ」
「そうそう。用無しだから。はやくアタシ達を通した方が身のためよ。死ぬのは嫌でしょう?」
2人にはカルミアさんの威圧が効いてないみたいだね。
テントのなかに居た騎士達に囲まれても、顔色一つ変えてないから、よっぽど自信があるのかな。
「えっと、カルミアさん。その人たちは私に用があるみたいなので、私が」
お話を聞いてみるよ。
そう言おうとしたところで、カルミアさんの隣に並び立ったベルザークさんが、口を開いた。
「リグレッタ様。このような下賤の者共に耳を貸す必要はありません」
「なんだと? おい」
「失礼な男ですね」
「失礼なのはお前達の方ではないのか? リグレッタ様に対し、奇襲を仕掛けるなど。言語道断だ」
そう言って、2人に向かって身がまえるベルザークさん。
どうでも良いけど、カルミアさんとベルザークさんが並んで構えると、ちょっとカッコイイね。
ホントにどうでも良いね。
身構えたベルザークさんを見て、ほくそ笑む黒い男の人。
どうしたのかな?
「ははぁ~ん。分かったぞ。さてはお前、クレインのクソ坊主だろ?」
「……それが何か?」
「はぁ~~! やっぱりな! 俺はお前らが一番気に喰わねぇんだよなぁ」
「クレインの……?」
黒い男の人はベルザークさんのことが嫌いなんだって。
それに、クレインって聞いたカルミアさんが、小さく呟いてた。
あぁ。なんかもう、ワケわかんなくなってきちゃったなぁ。
テントの奥に居るブッシュさんも、難しい顔してるし。
これがいわゆる、もめ事ってことなんだね。
そんな場所に、ハナちゃんがいるのは危ないかなぁ?
なんか、カルミアさん達の威圧もヒートアップして行ってるし。
このままじゃ、みんな暴れはじめちゃいそう。
「リッタ……みんな、なんか怒ってるよ」
「そうだね。怖い?」
「ううん。だいじょぶ」
「ホント?」
「ホント」
「どうして?」
「だってね、ラービさんが言ってたんだよ。リッタと一緒に居れば、何も怖くないよって」
ラービさん?
ハナちゃんに変なこと吹き込んでない!?
まぁ、これくらいなら別にいいけどさぁ。
まだまだ、私が知らないだけで、色々と話してる気がするな。
でも、たしかに。
ここはお姉さんである私が、ハナちゃんのことを守ってあげなくちゃだよね。
「しょうがないなぁ」
「な・に・が、しょうがないのですかっ!」
おっと、ハナちゃんとの会話に夢中になってて、黒と白の2人のことを忘れかけてた。
危ないね。
取り敢えず、新しく飛んで来たナイフは、箒が防いでくれたみたいだし。
私は、白いドレスのお姉さんの相手をしようかな。
「リグレッタ様! その女、水の魔術を使います!」
「この筋肉坊主がっ! よそ見してる余裕があるのかよっ!」
「くっ! リグレッタ殿! ここは私達に任せて、今すぐお逃げください! 本日の会談の続きは、また後日、お願いします!」
いつの間にか、テントの中に充満してる霧に紛れながら、ベルザークさんとカルミアさん、そして黒いお兄さんが戦ってる。
それにしてもあの黒い男の人、2人を相手にナイフだけで立ち回ってるのは、すごいよね。
そんな3人を横目に、私の方に跳躍してきてるのが、白いドレスのお姉さん。
ベルザークさんの言葉を信じるなら、このお姉さんがテントの中に霧を満たしたのかな?
よく見たら、周囲に居た騎士のほとんどが、ぐっすり寝てるジャン。
あ~、この霧。吸った人を眠らせる効果があるっぽいね。
それは結構便利かも。
でも、効果がない人もいるのか。ベルザークさんもカルミアさんも、ピンピンしてるし。
「同じような術、『ひでんのしょ』に載ってたかなぁ? 帰ったら、探してみようっと」
「帰ったら? まだ帰れると思ってるのですか!? だとしたら、解放者ってのは、とびきりのおバカさんですねっ!」
そう言いながら私の右側面に位置取った白いお姉さんが、両手を私に向けて来る。
何かしてくるみたいだね。
彼女の掌から、沢山の水が溢れ出て。
大きな水の塊になった。
あれ?
もしかして、このテントの中に充満してる霧って……。
「全部お姉さんの汗だったんですか!?」
「なっ!? ち、違うわよっ!!」
「え? 違うの? じゃあ、この水はどこから出て来てるんだろ」
「ふざけているのですかっ!」
ふざけてなんかないんだけどなぁ。
掌から出て来る水って、どう考えても、汗でしょ?
汗じゃないって言うなら、何なのかな?
まぁ、それは後で詳しく聞こうっと。
「これでおしまいよっ!」
お姉さんが叫ぶと同時に、蓄えられた大きな水の塊が、こっちに向かって放たれた。
丁度いいや。これを借りよう。
霧を集めるのは、ちょっと時間が掛かりそうだったしね。
飛んで来た水の塊を、右腕で受け止めた私は、すぐに魂宿りを使う。
「分身ちゃん。出番だよ~。あ、今回はお風呂じゃないからねぇ。とりあえず、白いドレスのお姉さんを眠らせてくれるかな?」
「分身ちゃん!? 何が起きてっ! きゃあ、こ、こっちに来るな! この! 水が、水がぁ!!」
「なっ!? シルビア!?」
白いドレスのお姉さんは、シルビアさんって言うみたいだね。
彼女は、分身ちゃんに全身を覆われて、ぐっすりと眠りに落ちちゃってる。
「それじゃあ、次はお兄さんの番だね。分身ちゃん、お願い。あ、カルミアさんとベルザークさんは、分身ちゃんに触らないようにお願いしますね」
「このっ! ふざけんじゃねぇ! こんなところで、俺……ら……が……」
威勢よく私に飛び掛かって来たお兄さんは、あっけなく分身ちゃんに捕まっちゃった。
もしかして、私に触れたら死んじゃうってこと、忘れてたのかな?
まぁ、分身ちゃんのおかげで触られることは無かったけど。
スヤスヤと並んで寝てる2人。
気持ちよさそうだね。
そうこうしてると、テントの中の霧がスーッと晴れて、騎士達も目を醒まし始めた。
どうやら、テントの外にいた騎士達も、眠らされてたみたいだね。
ブッシュさんも寝てたのかな?
ちょっとお髭の形が崩れちゃってる。
ふふふ。すこし面白いな。
なんて、そんなことを考えて私が笑いを堪えてると、傍で大人しく様子を見てたハナちゃんが、突然拍手をし始めた。
「リッタ! すごいね! かっこよかったよ!」
「え? そうかな? まぁ、私は大人のレディだからね。これくらい簡単なんだよ」
「簡単なのっ!? すごいや……つよしっだね」
つよしかぁ。うましの派生かな?
なにはともあれ、誰も怪我が無くて良かったよ。
「リグレッタ様。さすがでございます。御見それしました」
「いやいや、ベルザークさんとカルミアさんも、かっこよかったですよ。ね、ハナちゃん」
「う~ん。ちょっとだけ」
「っ……」
……結構厳しい判定するね、ハナちゃん。
充分、かっこよかったと思うけどなぁ。
カルミアさんが、悔しそうな顔してるよ?
って言うか、ベルザークさんはもう少し悔しがろうよ。
なんで満面の笑みなの?