第22話 折り鶴の加護
短い金髪と、鍛え上げられた身体。
それだけを見れば、彼は騎士なんだろうと思うところです。
だけど、先日ウチにやって来たカルミアさんと、この彼には大きな違いがあるんだよね。
満身創痍になって倒れてた彼は、鎧を身に纏っていなかった。
カルミアさん達と会ったから知ってるけど、この森は外の人たちにとって危険な場所なんだよね。
それなのにどうして、この人は鎧も着ずに森に入って来たのかな?
おまけに一人だし。
あれかな?
元々は沢山の仲間がいたけど、道中ではぐれちゃったって感じかな?
それなら、納得できるかもだね。
なんて私が考えてると、ベッドの上に寝たままの男の人が、声を掛けてきた。
「私の名はベルザーク。いやぁ、お二人のおかげで、命拾いしました。感謝いたします」
「ベルザークさん。もう喋っても大丈夫なんですか?」
「はい、これくらいなんともありません」
「いや、死にかけでしたけどね?」
「ははは。そうでしたね」
なんなんだ、この人は。
でもまぁ、喋ってても痛そうな顔とかしないし、大丈夫なのかな?
それに、話し方も丁寧だし、変な人ではなさそうだよね。
「ハナです。よろしくおねがいします」
「ハナさん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「私はリグレッタです。ベルザークさん、色々とお話を聞きたいんですけど、大丈夫ですか?」
「えぇもちろん。私も伺いたいことがありますので」
小さく頷いて見せるベルザークさんに、私はいくつか質問してみることにした。
「えっと、ベルザークさんはどこから来たんですか?」
「私はこの森の北にある国、フランメ民国より、解放者様を探してここまで来ました」
「フランメ民国……」
カルミアさんとは違う国だね。
実は他の国の人も森に入って来てたりするのかな?
まぁ、それをベルザークさんに聞いても、知らないよね。
「ベルザークさんの仲間はどこに居るんですか?」
「私の仲間、ですか?」
「はい。実は少し前に東の……えっと」
「ブッシュ王国?」
「そう、それです。その国からも人が来たんですよ。その人たちは大人数で森に入ってたので。ベルザークさんも同じなのかなぁと」
「いいえ、私は1人で森に入りました」
1人で森に入って、鎧も着ずにここまで辿り着いたの?
それって、結構凄いことなんじゃないかな?
私も、森の東の端までは行ったことあるけど、北には行ったことないし。
「よく無事にここまで来られましたね」
感心しながら、思わずそう呟いた私に、ベルザークさんは小さく頷きながら応えてくれた。
「えぇ。それこそ、リグレッタ様のご加護があったが故です」
「私? 私はただ、ハナちゃんと一緒に家まで運んだだけですよ?」
「そんな謙遜をなさらないでください。この地まで私がたどり着けたのは、間違いなく、リグレッタ様のお導きがあったからでございます」
私、そんなこと何もしてないんだけどなぁ。
でも、ベルザークさんが嘘を吐いてるようには見えないし。
考えても分からなさそうだし、面倒だから直接聞いてみよう。
「どうして、私が導いたと思うんですか?」
そう問いかけると、ベルザークさんは穏やかな笑みを浮かべた。
「私の首に提がっているペンダントを、取ってください」
まだ手を動かすことができないらしいベルザークさん。
そんな彼の胸元にあるペンダントに、私が触れるのは危険だよね。
「ハナちゃん、お願いしても良いかな?」
「うん!」
そんな私のお願いを聞いてくれたハナちゃんが、ベルザークさんの胸元からペンダントを取り出してくれた。
それにしても、随分と大胆に腕を突っ込んで取ったね。
さすがのベルザークさんも、ちょっと困惑顔だったよ。
「はい。リッタ」
「ありがとう」
テーブルの上に置かれたペンダントを、私は手に取ってみる。
「開けてください。リグレッタ様であれば、問題ありません」
ベルザークさんの言ってることは、いまいち分かんないけど。
取り敢えず、ペンダントの中身を見てみよう。
中には何が入ってるのかな?
ちょっとワクワクするよね。
なんて思いながらペンダントを開けた私は、意外な中身を見て、思わず小さな声を漏らしちゃった。
「え? これって……」
「やはり、言い伝えは本当だったのですね」
やっぱりベルザークさんが何を言ってるのかは分かんないや。
でも、中に入ってた“それ”のことは、私も良く知ってる。
折り鶴。
森の外の物を取り寄せる時に、私達が使う術の1つだ。
大体いつも、折り鶴が持ち帰ってくるのは、植物の種が多いんだけどね。
そんな折り鶴を、どうしてベルザークさんが持ってるんだろう。
そんな疑問を視線に込めて、彼を見た私。
すると、ベルザークさんは小さな微笑みを浮かべながら、告げたのです。
「私はフランメ民国のクレイン教会からやってまいりました。司祭のベルザークです。この度は、我らをお導き下さっている解放者様、リグレッタ様をお迎えに上がるため、はせ参じました」
「ん? え? お迎え? すみません、良く分からないんですけど」
「混乱されていることは承知しております。ですので、1つずつ説明をさせていただきたい」
そこで言葉を区切ったベルザークさんは、長々と話を始めました。
話について行けなかったのかな、ハナちゃんはベッドに顔を埋めて寝ちゃってるよ。
そんなこともお構いなしに、話しを続けるベルザークさん。
なんか、回りくどい言い方をしてるけど、まとめるとこんな感じみたい。
この折り鶴のおかげでベルザークさん達の先祖は国を作ることができた。
さらに、貧しい北の地で生活できているのも折り鶴のおかげ。
おまけに、この森をたった一人で突破できたのも、この折り鶴があったおかげ。
「ホントかなぁ……これにそんな力があるとは思えないんだけどなぁ」
「またまた、ご謙遜を」
私が何を言っても、謙遜だって言ってくる。
なんていうか、変な人だよね、ベルザークさんって。
なんにせよ、外の世界に影響を与えちゃったのは、私だけってわけじゃなさそうだ。
うん。それが分かっただけでも良いのかな。
これで胸を張って、花火を打ち上げてよかったと思えるし。
「リッタ……お腹空いた……」
「そうだね。私も頭を使ったから、お腹空いちゃった。ベルザークさん、お話の続きは、ご飯の後で良いですか?」
「私に構う必要などありません。あ、ですが、お茶を頂ければありがたいです」
「分かりました。じゃ、ハナちゃん。支度しようか」
「うぃ~!」
駆けてくハナちゃんの後を追って、私もキッチンに向かう。
ところで、お客様に出せるようなご飯、あったかなぁ?