第199話 永遠の命
「彼っていうのは、この国をあたしたちと一緒に作った王様なのデス!」
「このイゼルを作った!?」
「そうそう」
「ってことは、かなり昔の人間ってことじゃないっスか」
「そうですね。デスが、彼はまだ生きていると、私は考えているのデス」
プル姉は何か確信でも持ってるのかな?
凄く自信のある表情でそう言ったよ。
「彼の魂が帰ってきてないから、そう思いたいってだけデスけどね」
「それはつまり、人が死ぬと魂が皆さんのところに帰ってくるということですか?」
「そうデスね。海の水が雨となって大地に降り注ぎ、川を通って帰ってくるのと同じように。魂も世界を循環しているのデスよ」
そうなんだね。
それはさすがに私も知らなかったや。
このイゼルに来たのが初めてなんだから、当然だけどね。
「それじゃあ、今もどこかで生きている可能性があるってことですね」
そういったホリー君の言葉を否定するように、プル婆が首を振ったよ。
「その可能性ももちろんあるんだけどねぇ、そこにいる子たちのように、地上に囚われている可能性も十分にあるのデスよ」
そういってプル婆が指さしたのは、シェードたちでした。
「それは……どういう意味なのでしょうか?」
「その子たちはねぇ。かつてこの街に住んでいた子たちの魂なのデスよ」
「つまり、亡霊ってことじゃないっスか!!」
焦ったかのように席を立ったカッツさん。
カルミアさんも急に冷や汗を流しながら周囲を警戒し始めてる。
亡霊って、そんなに怖いものなのかな?
そんな風には見えないけどね?
「でもまぁ、もし生きてたとしたら800年以上昔の人ってことになるから。亡霊になっているといわれた方が納得はできるかな」
「なんでそんなに冷静なんスか!? わかった、お城暮らしをしてたから亡霊の恐ろしさを知らないんスね!? やつら、寝てる人間の傍にやってきて、凍死させちまうんスよ!?」
「それは胸が痛む話だけど、亡霊が原因っていうより下水に住んでたことが原因だとボクは思うよ」
ホリー君、その正論はカッツさんに大ダメージみたいだから、やめてあげてね。
「話を戻しますが、その王様をあなた方は探しているのですか?」
「うん! そーなの! 彼はね、アイツに騙されてこの国を飛び出して行っちゃったんデス」
「アイツ、とは?」
「魔神レヴィアタン。かつて、私たちと敵対していた海の悪魔デス」
新しい情報が出てきたよ。
魔神レヴィアタン。
海の悪魔ってことは、プルウェアさんと同じようなことができるってことなのかな?
「そのレヴィアタンは、王様を騙して何をしたのですか?」
「アイツはね、彼を追い払ってこの国を海の底に沈めようとしたんデス」
沈めようとしたっていうか、沈められてるよね?
あ、でも、氷の巨人が守ってくれてるから海水に浸かってるわけじゃないのか。
……いやいや、やっぱり沈められちゃってるよ!
「アイツは嫉妬深い奴デスから。私達が作り上げたこの街を許せなかったのデス」
「きっとそうデスね! ほんと、イヤな奴デス!」
「なるほど、だからプルウェアさんたちはこの街を守るために、氷の巨人で街を覆ったんですね?」
「そうデス!!」
なるほどって、ホリー君、ぜったにツッコミを我慢したよね?
私だけじゃないよね? 我慢してるのは。
一瞬、視線が合ったホリー君は苦笑いを見せてくれたよ。
「そこまでしてこの街を守りたかったんですね。だとしたら1つ気になるんですが。その王様はどうして騙されてしまったのでしょうか?」
「それは……」
何か言いにくいことでもあるのかな。
プル姉が言葉を濁らせたよ。
代わりって感じで、プル婆が口を開きます。
「魔神レヴィアタンは『永遠の命』をもたらす果実が、南の大地に存在しているという大嘘を吐いて、彼を騙したのデス」
「『永遠の命』……そうか。その王様は永遠の命を得て叶えたい何かがあった。ということですね」
ホリー君の言葉を受けて、みんな黙り込んじゃった。
でも、そっか。
永遠の命かぁ。
それもつまり、死を恐れてるってことだよね。
どうして恐れるのか。
私だったらきっと、ハナちゃんとかみんなと別れなくちゃいけないことが、怖いかも。
もしかしたら、その王様も同じだったのかもしれないね。
さっきから、プルウェアさんたちは“彼”と一緒に国を作ったって言ってたし。
つまり王様は、プルウェアさんたちと別れたくなかったんだ。
元々、プルウェアさんたちは神様だからね。
王様も同じように、永遠に生きようとした。ってことかな。
ってことは、プルウェアさんたちがこの街を守ってるのは。
彼が帰ってくる場所を、守るため?
うぅ……。
泣けてきちゃうよ。
沈められちゃってるじゃんなんてツッコミ、しなくてよかったぁ。
「その永遠の命をもたらす果実ってのは、本当に存在して無いんスか?」
「存在するわけがないでしょう」
「常識通りならそうっスね、でも、ソラリスたちのこととか見てると、意外にあったりするんじゃとか、思ったんスけど」
肩を竦めてみせるカッツさんを、カルミアさんが呆れたように見てます。
すると、ホリー君が口を開きました。
「あまり可能性は高くないと思うけど。ゼロってわけでもないか……。ちなみにですが、その王様の名前とか容姿とかを教えてもらってもいいですか?」
「彼の名前はライラック。姿は―――」
「ライラックさんっ!? え、あの、不思議な格好をしてるライラックさんが王様なの!?」
「不思議な格好、デスか?」
あ、びっくりしすぎて叫んじゃった。
でも仕方ないよね?
ライラックさんを私たちが知っていることに驚いてるプルウェアさんたち。
そんな彼女に、私たちは今までに関わってきたライラックさんのことを、話したのでした。
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