第196話 ようやく対面
ホリー君の求めに応じる形で、私は海底で見た碑文について話しました。
「滅亡した楽園イゼル……正直、ボクは聞いたことがないなぁ」
「俺も無いっスね。まぁ、この都市とかオーデュ・スルスで見た色々が無かったら、興味すらなかったと思うけど」
「イゼルという都市も気になりますが、囚われの女神というのも気になりませんか?」
「そうだね。単純に考えるなら、その女神っていうのはプルウェアのことになるんだろうけど……問題は、どうしてプルウェアが囚われてるのかが分からないってところかな」
ホリー君たちと一緒に考えてみるけど、答えは見つかりません。
こればっかりは、情報が少なすぎるから仕方ない気がするけどね。
「そもそも、囚われてるって、どうして神様が囚われるんスか?」
「いや、それを私に聞かれても知りませんよ」
「理由については見当もつかないね。でも、逆に考えれば、女神プルウェアを捕らえた何者かが存在してるってことになるわけだ」
「そうですね……ということはっ! いま、オーデュ・スルスの街を襲っている魔物は!」
「うん。その何者かが差し向けてるって考えるのが妥当かもしれないよ」
ま、全部推測でしかないんだけどね。
そう言って肩を竦めて見せるホリー君。
彼とカルミアさんの推測には、納得できるものがあるよね。
そっか。
プルウェアさんは誰かに囚われちゃってるのか。
だから、オーデュスルスの街にはいなかったわけだね。
神様を捕らえちゃう存在って、何者なんだろう?
どうして、そんなことをしたんだろう?
知りたいことだけがどんどん増えていっちゃうなぁ。
「プルウェアさんに直接会って話ができれば一番早いんだけどねぇ~」
そんな願望を口にしてみたところで、都合よくいくワケないんだけどさ。
せめて愚痴ぐらい言ってないと、気が済まなくなっちゃうよ。
とりあえず、今の私たちにできることといえば、この街を調べてみることくらいかなぁ。
でも、結構大きな街だし、さすがにハナちゃん達の救援に行くのが優先な気がするよ。
そう思った私が、改めてホリー君に提案をしようとしたとき。
カッツさんが部屋にある窓の方を指さしました。
「ちょ、ちょ、ちょっと見るっスよ。シェードたちが、何かを指さしてるっス」
ホントだ。
さっきまで私に怯えて震えながら壁に張り付いてた彼らが、窓のそばに集まって外を指さしてるよ。
「外に何かがあるって言っているのでしょうか?」
カルミアさんの言葉に、一人のシェードが頷いてくれたよ。
「何があるのかな?」
「化物が近づいてるってことじゃないっスよね!?」
「落ち着いてくださいカッツ。今はリグレッタ殿がいるので、魔物も迂闊に近づいては来ないはずです」
「そうだね。もし近づいてくる魔物がいるとしたら、そいつはよっぽど自信があるタイプか、恐れを知らないタイプだよ」
「あはは。ねぇホリー君、ちょっと失礼じゃないかな?」
「そうだぞ! それに、もしそうだったら、のんきに話なんかしてられないっスよ」
私とカッツさんの言葉を聞き流すように窓に駆け寄ったホリー君は、しばらく窓の外を眺めた後、諦めたようにこちらを振り返ります。
そして、そばにいたシェードに尋ねたんだよ。
「もしかして、女神プルウェアの居場所を知ってたりするのかい?」
ホリー君の問いかけを聞いたシェードたちは、一斉に頷いて見せた後、同じ方向を指さしました。
「まさか、私がプルウェアさんの名前を出したから、反応したってこと?」
「どうやらそういうことみたいだね」
「女神の居場所を知ってるって……一体何者なんスか、お前らは」
呆れた様子のカッツさん。
もちろん、シェードたちからの返事はないね。
「居場所を知ってるっていうのなら、案内してもらおうか」
「はい、向かいましょう」
「罠とかじゃないっスよね?」
「ほらカッツさん。案内してくれるシェードさん達に失礼でしょ」
「でもリグレッタ! これでもし罠だったら」
「その時は、私がなんとかするから」
そんなこんなで私たちは屋敷を出て、シェードたちの案内の元、凍えながら歩を進めました。
寒い。
もう足の指先の感覚がなくなってきたよ。
地上に戻ったら、すぐにでもお風呂に入りたいね。
その前に、ハナちゃん達のお手伝いが必要かもだけどさ。
「ここは……もしかして城だったのかな」
案内の末に辿り着いた大きな門は、ホリー君の言う通りお城に見えるね。
でも残念ながら、その建物はほとんど崩れちゃってて、門を抜けても寒さに満たされてたんだよ。
崩れかけの壁とか天井が落ちてこないか、ちゃんと警戒しておかなくちゃ。
「マジで危ない場所っスね」
「みんな私から離れすぎないようにしてね。何かあったとき、守れないから。あ、でも、近づきすぎも危険だよ?」
ややこしくてごめんね。
まぁ、三人はもう十分すぎるくらいに理解してくれてるはずだから、大丈夫だよね。
そうして、まだ崩れてなかった階段を2つほど登って、私たちは目的の場所にたどり着いたのです。
縦長の大きな部屋。
屋根は崩れちゃってるみたいで、見上げると大きな氷の女性の顔を見ることができます。
この部屋にたどり着いた時、私は思わず頭上を見上げちゃったんだよね。
だって、頭上に見えるのと同じ顔の女性が、部屋の中で氷漬けにされてたんだもん。
部屋の壁を覆うほどの巨大な氷塊。
そんな氷塊から上半身だけをせり出すような体勢で固まってる。
見た目の年齢は、カルミアさんと同じくらいかな?
祈りを捧げるように、胸の前で手を握ってるよ。
「彼女が……女神プルウェア?」
「街を抱えてる氷の像と同じ顔ですね」
「よく見るっスよ。氷の中。囚われてるのは一人じゃないみたいっス」
カッツさんに言われて気づいたけど、確かに、壁を覆ってる大きな氷の中にはまだ人影が見えるね。
でも、氷の中は曇ってるみたいで、正確な姿までは見えないや。
「とりあえずは、表に出てる彼女を助けようか」
皆の賛同を得て、私は術を使うことにしたよ。
燃える魂。
氷を溶かすなら、やっぱり火だよね。
青白い灯りとともに、仄かな温もりをくれる炎を、氷に近づけます。
すると、大きな氷塊が勢いよく溶け始めました。
そんなに火力は強くないはずなんだけど。
まぁ、溶けてくれるならそれでいっか。
なんて考えてるうちに、氷から解放された女性が倒れこみます。
すかさず、受け止めようとしたカルミアさん。
でもね。
次の瞬間、カルミアさんに受け止められた女性は、水になって飛び散って消えちゃったんだ。
「んなっ!?」
とんでもないことをしてしまったっ!
って感じで唖然としてるカルミアさん。
ふふふ。
焦ってるね。
でも、焦る必要はないと思うんだ。
だって、魂はちゃんと残ってるみたいだし。
なんなら、飛び散った水を操り始めてるみたいだからね。
そうして、大量の氷を溶かした私は、ようやく対面できたのです。
「あなたが、女神プルウェアさんで、間違いないですよね?」
そう尋ねた私に、彼女は―――。
―――彼女たちは、ニヤッと笑って見せるのでした。
面白いと思ったらいいねとブックマークをお願いします。
更新の励みになります!!