第190話 果てしなく
風の道を使って調べた結果、新しく見つかった道は3本あったんだよね。
1本が、フレイ君が見つけた北の道。
もう1本がハナちゃんの見つけた南の道。
そして最後が、祭壇から西に向かって伸びてる西の道。
早速、全部の道に水を満たしてみたんだけど、何も起きなかったのです。
そうとなれば、もう一つの可能性を探るしかなくなるよね。
というわけで私たちはいま、街の北部に移動しています。
ソレイユさん曰く、北の道と南の道が示してる場所には、それぞれ礼拝堂があるんだって。
大聖堂は限られた司祭達しか入ることを許されてなかったらしいからね。
一般の街の人たちは、北と南の礼拝堂でお祈りしてたみたいだよ。
「北の礼拝堂の床にも、おんなじ文様があるの?」
「あまり意識して見た記憶はないのですが、あったと思います」
「ってことは、また階段が出てくるかもだね! 何があるのかなぁ?」
「それは行ってみてのお楽しみだね、ハナちゃん」
尻尾をぶんぶんと振って興奮してるハナちゃん。
今はネリネのテラスにあんまり人がいないからいいけど、気をつけなくちゃだめだからね?
っていうのは後で注意しておきましょう。
正直、私もワクワクしてて指摘できないのです。
それにしても、ネリネはホントに大人数の移動に向いてるなぁ。
あっという間に北の礼拝堂に着いちゃったよ。
道中、街の人たちを沢山驚かせちゃったみたいだから、ソレイユさんに後でフォローしておいてもらおうかな。
とまぁ、そんなことを考えながら礼拝堂に入った私は、すかさず足元に視線を落とします。
「やっぱり、ここにも模様があるね」
「でも、大聖堂内の礼拝堂とは描かれてるものが違うみたいだ」
「ってことは、この迷路を解けば、また階段が出てくるんスかね? そもそも、地下はあるんスか?」
そういうカッツさんの視線が私に注がれてるのは、暗に地下に誰か人がいないか確認してくれってことだよね?
ふふふ。
そんなこと言われなくったって、すでに確認済みだもんね。
「この下には誰もいないみたいだよ。地下があるかどうかは、もっとちゃんと調べてみないとわかんないけど、それよりは迷路を解いて水を張ったほうが早いかな」
私の考えに反対する人は誰もいないみたいなので、さっそく水を張ってみましょう。
今までの感じだと、中央にある祭壇から部屋の端まで到達できる道を探す必要があるんだけど……。
どうやら今度は、勝手が違うみたいです。
「これは……ドラゴンかな?」
「どうかな? ボクにはでっかい蛇にも見えるけど」
「ティアマトじゃないの? プルウェア聖教の切り札みたいな感じだったわけだし」
「その可能性もあるね」
シルフィードが一筆書きで描き出した大きな絵を見て、頭をかしげてるホリー君とハリエットちゃん。
気になるのはわかるけど、そろそろ水を注いでいいかな?
大聖堂の地下を開けた時と違って、今回は大量の水が必要だしね。
溝からはみ出さず、かといって途切れさせることのないように水を満たします。
すると、予想してた通り、祭壇が音を立てて動き出したよ!
「リッタ! 階段だよ!」
「だねっ! ここには何があるのかな?」
警戒をしながら地下に向かいます。
当然だけど、人がいる気配は全然しないね。
かといって、荒らされてたりするわけでもないから、きっと最近まで人の出入りはあったようです。
「ここは……何かの研究施設って感じだね」
薄暗い中を物色してると、ホリー君が不意にそんなことを呟いたよ。
「研究って、何の研究をしてたのかな?」
「わからないけど……魔物の鱗とか枯れた植物とか、それに、これはたぶん魂じゃないのかな?」
「え?」
地下には誰もいない。
それはさっき私自身が確認したから、ここに魂は無いはずなんだけど。
でも確かに、ホリー君が見せてくれたそれは、間違いなく魂っぽいものでした。
小さめの叡智の水盆みたいな入物の中を、2つくらい魂が漂ってる。
「リッタ、これ、魂じゃないの?」
「魂だと思う……けど、視えないね」
「リグレッタ様。もしかしたらここは、プルウェアの奇跡を研究していた場所ではないでしょうか?」
「なるほど、それならいろいろと説明がつくかもしれないね」
「ごめんホリー君。よくわからないから説明してもらってもいい?」
「単純な話だよ。プルウェア聖教はリグレッタたちへの対抗手段を手に入れるために、研究をしてたんだ。今、この魂を見ることができないっていうのも、その研究の成果かもしれないよ」
なるほどね。
あれ?
っていうことは、この場所には私が気づいてないだけでいろんな魂があるかもしれないってこと?
それはなんていうか、ちょっとむず痒い感じがするね。
色々と興味深い場所だったワケだけど。
結局、北の礼拝堂地下ではそれ以上の発見はありませんでした。
というわけで、次は南の礼拝堂に向かいます。
北の礼拝堂と同じく、ネリネで南の礼拝堂にたどり着いた私たちは、同じ感じで地下への入口を見つけました。
3回目にもなると、みんな慣れたものだよね。
ちなみに、南の礼拝堂の床に描かれたのは、大きな建物です。
建物っていうよりは、街なのかな?
大波と嵐に襲われてる感じの描かれ方をしてるから、ホリー君なんかは何か意味があるんじゃないかって訝しんでたね。
そんなこんなで南の礼拝堂の地下に降りた私たちは、そこで予想外のものを目にしたのです。
「これは……蜃にそっくりじゃない?」
「生きてはいないようですが……たしかにそっくりですね」
カルミアさんすごいなぁ……触ってるときに動き出したらどうしようとか思わないのかな?
さすが騎士ってことだね。
その他にも、こっちの地下にはケルピーの死骸とか、懐古の器で見たエメスとかが保管されてたよ。
そしてもう1つ、ここには大量の鱗が保管されていたのです。
この鱗、凄く沢山あるけど何の鱗なんだろ。
こんな感じで南北の礼拝堂地下を調べ終えた私たちは、大聖堂に戻りました。
理由は簡単、最後の1つの道を確かめるため。
なんだけどね。
この道を見つけるのは簡単にはいかなさそうです。
西の道。
それは祭壇から西の壁に向かって伸びてる道のこと。
つまり、大聖堂から西に進む必要があるんだけど。
そっちには、海しかないんだよね。
「この地図、間違ってるんじゃないの?」
そういうハリエットちゃんとは対照的に、床をジーッと観察してたホリー君。
「他の2か所は合ってたワケだから、間違いないと思うんだけどなぁ」
「とりあえず、怪しい場所を調べてみるしか無いっスねぇ」
「怪しい場所はもう、調べつくしていると思うのですが……」
ソレイユさんの言うとおり、街の中で調べれそうな場所はもう無いように思えます。
街の中かぁ……。
じゃあ、街の外を調べてみる?
って言っても、範囲が広すぎるよねぇ。
西なんて海なんだから、行こうと思えば果てしなく行けるんだし。
そもそも、海に道なんて無いワケで……。
あれ?
海に道はない。
けど……入口はあったんじゃない?
どうして気づかなかったのかな?
私たちはもう、それを目にしてたじゃん。
これは皆に共有したほうがいいよね。
そう判断した私は、すぐに口を開きました。
「みんな、もしかしたらなんだけど……叡智の水盆がある部屋の水の壁って、入口だったりしないかな?」
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