第183話 利用の先に
オーデュ・スルスの大掃除は、初日の段階で大幅に進みました。
とりあえず、ハナちゃんのおかげで街に入り込んでた魔物は全部対処が終わったし。
プルウェア聖教の信者はソレイユさんが取りまとめてくれてるのです。
あとは、大司教たちの対処をどうするのか考えることと、街中にあふれかえってるゴミの処理をしていかないとだね。
とはいえ、ゴミの処理はゴーレムに任せればある程度進むはずだから、私は主に大司教たちの対処に頭を悩まされそうです。
「ふぅ……教会を探せるのは明後日からかなぁ」
ネリネのお風呂で今日の疲れを洗い流した私は、休憩所で少しのんびりすることに。
ハナちゃんも疲れたみたいだね、ソファに身を投げ出してグデェってしてるよ。
「ハナちゃん、おへそが見えてるよ」
「べつにいーの」
「よくないよ、風邪ひいちゃうかもだよ?」
「だって、短いんだもん」
え?
あ、ほんとだ。
ハナちゃんの寝巻も丈が合わなくなってきてるみたいだね。
そろそろ新しいのを新調したほうがいいかな。
最近、なにかと忙しすぎて身の回りのことにまで気を配れてなかったから気づかなかったよ。
ふふふ、なんだかうれしいなぁ。
ハナちゃんがすくすく成長してるってことだもんね。
おなかはまだまだこんなにプニプニなのになぁ。
「ちょっとリッタ! おなか突かないでよぉ。くすぐったいから!」
「えぇ? ちょっとくらい良いじゃん」
「ダァメ!」
そういって私の手を払いのけたハナちゃんはムスッとした表情のまま体勢をうつ伏せに変えちゃった。
もっとおなかを突いてたかったなぁ。
仕方がないから、尻尾を撫でておきましょう。
尻尾に関しては、撫でることを許してくれてるらしいね。
そのまま私たちのまったりとした時間が過ぎていきます。
そういえば、ネリネの外に作った簡易的なお風呂は、みんなで使ってくれてるかなぁ。
なんて考えてたら、休憩所に意外な人物がやってきたんだよ。
「ここに居やがったか」
「ん、キルストンさん。どうしたの?」
いつものようにムスッとした表情の彼が、ソファの近くまで歩み寄ってきます。
「お前らは魂の居場所を見ることができるんだろ?」
「そうだね」
「なら少し手を貸せ」
「珍しいね、キルストンさんが私たちにお願いするなんて」
「お願いだと? そんなもんじゃねぇ。俺はただ、利用できるものを利用するだけだ」
つまり、私たちと慣れ合うつもりはないってことだね。
これもシルビアさんに言わせれば、素直じゃないって感じになるのかなぁ?
まぁ、キルストンさんを怒らせる必要もないし、今は彼の言い分に従うことにしましょう。
「それで、何をしてほしいのかな?」
「この大聖堂……いや、街のどこかに、誰にも見つかっていない人間はいないか?」
「誰にも見つかっていない人間? 変な言い方するね」
「いいから探せ」
そんなに強く言わなくてもいいじゃん。
まぁ、キルストンさんらしいけどさ。
それにしても、誰かを探してるのかな?
利用できるものを利用するだけって言ってたし、その先には基本的に目的があるはずだよね?
「街全体だね? 私も遅かれ早かれ見て回るつもりだったから、この際見てみようかな」
街にある魂を見て回ること。
それはつまり、ソラリス母さんやイージス父さんの魂を探すことにつながるわけなのです。
イージス父さんはオーデュ・スルスを出た後に解放者になったから、この街に魂は残ってないはずだけどね。
さてさて、どんな感じなのかなぁ?
お、外のお風呂はみんなで使ってくれてるみたいだね。
魔物っぽい動きをしてるのもいないし。
今のところは平和そのものです。
ソラリス母さんの魂は……。
ん?
これは、母さんの魂だよね?
なんだろ、今まで見てきたのとはちょっと違うものが、大聖堂の地下にあるみたい。
たくさんの魂が、1か所に集められてるのかな?
これは明日、調べてみる必要がありそうだね。
あと気になるものは……。
特にないね。
そもそも、まだ見つかってないなんて、どうやって判断したらいいのかわかんないよ。
「ソラリス母さんの魂は見つけたけど、それ以外に怪しいものはないかなぁ。なにか特徴とかないの?」
「特徴……ほとんど動きのないやつはいねぇのか?」
「そんなの、寝てるだけかもしれないじゃん」
「それでもだ」
「動きのない魂かぁ」
もう一度見てみたけど、予想通り街の至る場所に動いて無い魂はいるよね。
そりゃそうだよ。
だってもう夜だもん。
みんなそろそろ眠りに落ちる時間なのです。
「街の建物にも、大聖堂の地下にも、おなじように動いてない魂がたくさんいるよ? これで何かわかるかな?」
疲れのせいかな?
眠気を感じ始めた私は、ぶっきらぼうにそう告げました。
「……おい、今なんて言った?」
あ、怒らせちゃったかな?
「えっと、動いてない魂は沢山いるよって」
「ちげぇ! そこじゃねぇよ!」
そういったキルストンさんは、珍しく小さな笑みを浮かべながら続けました。
「大聖堂には、地下があるのか?」
「え? うん、多分ね」
「なるほどなぁ。まぁ、予想の範疇ではあったが」
「なに? 地下に人がいることがそんなに変なことなの?」
ブッシュ王国ではカッツさんとかラフ爺たちが住んでたし。
ラズガード鉱山では仕事してる人もいたよね。
そんなに変なことじゃないでしょ?
とまぁ、私のその考えは、キルストンさんの返事1つで簡単に覆されちゃうんだけどね。
「あのインテリ小僧も言ってただろ。この街は、頻繁に水没するんだぜ」
「っ!?」
そっか!
水没するのに、地下に住んでたら危ないよね!
それはたしかに、おかしなことだよ。
「やっぱり間違ねぇな。奴らは大聖堂の地下に隠してやがった」
「何を……? キルストンさんは、誰を探してるの?」
そんな私の質問を無視した彼は、休憩所を去る間際に呟いたのです。
「教えるつもりはねーよ。まぁ、勝手に知るんだろうがな」
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