第174話 今度は皆で
柔らかいベッドの中でぐっすり眠るのは、とても気持ちいいよね。
でもそれは、安全な場所だからこそなのです。
どれだけ知識を得ても。
どれだけ経験を積んでも。
どれだけスゴイ力を持っても。
眠ってる間は、何も選択することが出来ないんだよ。
まだ私がリッタと出会ったばかりの頃。
寝てるリッタの部屋にコッソリ入ろうとして叱られた時に、そんなことを言われたのを思い出しました。
あの時は私がリッタに触っちゃうことを心配して、教えてくれたんだんだよね。
でも今は、別の意味もあったんじゃないかって思っちゃうよ。
「そんな危険な所で寝ちゃってるなら、やっぱり助けに行かないとダメだよ」
「ふざけんじゃねぇ。この場の全員が犠牲になっても構わないっていうつもりかぁ?」
「そんなわけないじゃん」
「なら大人しく引き返せ。どっちみち、死神が眠らされたってんならアレへの対処方法なんざ、存在するわけがねぇんだからなぁ」
キルストンさんはどうしても引き返して欲しいみたい。
でも、そんなわけにはいかないよ。
一緒に行きたくないって人は、ネリネから一旦降りてもらった方が良いのかな?
なんて考えてたら、ホリー君が咳ばらいをしたよ。
「対処方法ならあるはずだよ」
「なに?」
「だってこのネリネには、もう一人の解放者がいるからね」
「はっ! このガキの事か? たしかに力は受け継いでるみたいだが、賭けの対象としては弱いぜ」
失礼なことを言われてるのは、私だって分かるんだから!
すぐに文句を言おう。
そう思った私を制止するように、ホリー君が言葉を続けました。
「ハナちゃん。これは泥合戦の続きだ。キミならあれを、どうやって攻めるかい?」
「泥合戦の続き……?」
そっか。
ティアマトの大きさに圧倒されちゃってたけど、そう考えたら色々とアイデアが浮かんで来たよ。
まずは、使えそうなものの確認だね。
リッタの魂が込められた物たちは動かなくなってる。
でも、全部止まっちゃったわけじゃないみたい。
まず、ネリネを背負ってるサラマンダーは動いてるみたいだよ。
それから、万能薬づくりや畑作業を手伝ってくれてるゴーレム達も無事だったみたい。
つまり、リッタの魂宿りの術で動いてた子たちが止まっちゃったんだね。
これはきっと、ゴーレムと魂宿りの術の違いが影響してるのかな?
だったら多分、作業をしてくれてるゴーレム達は私が新しく命令を上書きしてあげれば、水に満たされた街の中でも問題なく動いてくれるはず!
それから、私が魂を込めた万能薬の小鳥たちも使えそうだね。
触れたら眠りに落ちちゃう水で満たされた街に入るなら、万能薬は絶対に必要だし。
街の中の人たちを助けだすなら、ネリネと一緒に入った方が良いかもしれません。
あとは、ティアマトへの対処だけかな。
そういえば、私とリッタへの対抗策って言ってたよね?
「ねぇキルストンさん」
「なんだ?」
「ティアマトって、誰かが操ってるのかな?」
「そりゃそうだろうがよ」
「それってどこから? どうやって?」
「そりゃ、奴らの引きこもってる大聖堂か……」
そこまで言って何かに気が付いたのかな。
キルストンさんは黙り込んじゃったよ。
代わりに、ホリー君が呟きます。
「大聖堂……それって当然、街の中にあるはずだよね?」
「街の中って……ティアマトを呼び出した張本人も死の水槽のなかに居るって言うわけ?」
「その可能性は高そうですね。私が同じ立場でも、そうすると思います」
「どうしてそう思うの? カルミア」
「リグレッタ殿を相手にするワケです。それ相応のリスクは覚悟するのではないでしょうか? それを踏まえての罠を仕掛けていたと考えれば、合点がいきます」
カルミアさんの言葉に、この場の全員が納得したように黙り込みました。
それだけ、プルウェア聖教にとってリッタが脅威だったってことだよね。
戦いたいなんて、リッタも私も思ってないんだけど。
でも仕方ないよね。
私たちが思ってることが伝わらないように、彼らが思ってることも伝わって無いってだけなんだし。
「だとしたら、その大聖堂に打開のカギがあるかもしれないか」
「なぜそう思うのですか?」
ボソッと呟いたホリー君にシルビアさんが問いかけます。
すると、ニヤッと笑ったホリー君が、得意げな表情で告げました。
「罠を仕掛ける時間はたっぷりあったんだ、つまり、死の水槽への対策をする時間もあったと考えるのが普通じゃないかな? お嬢さん?」
「ぐっ」
「そこで張り合う必要あるんスか?」
「ほんと、大人げないわよ兄さん」
呆れてるカッツさんとハリエットお姉ちゃん。
そんな二人を気にすることなく、ホリー君とシルビアさんが睨み合ってる。
でもまぁ、ここまでの話で大まかな目的は見えて来たね。
あとは、リッタの居場所と大聖堂の居場所を確認しないと、作戦も立てられないよ。
「出発しますか?」
「うん! このまま街に行こ!」
「本気で行くのかっ!」
「テメェは黙ってろ」
キルストンさんの下で藻掻くデシレさん。
彼だけは、街に近づいたところで早めに眠らせた方が良いかもしれないね。
そんなことを考えてたら、キルストンさんと目が合ったよ。
「反対しないの?」
「……クソ。癪だが、利用できるってんなら利用させてもらうぜ」
「そっか。よろしくね、キルストンさん」
「うるせぇ。仲良しこよしするつもりはねぇからなぁ!」
「私は仲良くしたいけどなぁ」
私がそう言うと、キルストンさんが舌打ちをしてから呟きました。
「うっとおしい所まで似すぎなんだよ、クソガキが」
「似てる!? それってリッタにってこと!? ふふふ。そうかなぁ~?」
リッタに似てるって言われると、嬉しいね。
でも、浮かれてる場合じゃないよ。
すぐに準備に取り掛からなくちゃだし。
そして私は、おいたんやカッツさんホリー君たちに作戦を話しました。
作戦の名前を付けるなら、そうだなぁ。
リッタおはよう大作戦だねっ。
前は私一人で起こしたけど。
今度は皆で起こしに行くんだよ!
きっと、リッタも喜んでくれるよね。
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