第17話 事態は深刻です
カルミアさん達を森の外まで送った翌日。
この日、私はとても深刻な危機に陥ってしまったのです。
それは、朝食を終えた私とハナちゃんが、畑の手入れに向かおうとしていた時のこと。
ハナちゃんの発言から、始まりました。
「ねぇ、リッタ」
「どうしたの? ハナちゃん」
「これ、ちっちゃくなっちゃった」
少しだけしょんぼりとした表情で、お気に入りのシャツを持ってきたハナちゃん。
ちっちゃくなっちゃった。って言うのは、シャツのお話だよね?
まぁ、ハナちゃんは育ちざかりだから、洋服のサイズが合わなくなるのは仕方が無いことだと思うのです。
「そっかぁ。それじゃあ、私のおさがりを引っ張り出してこなくちゃいけないね」
「リッタのおさがり?」
「うん。私が小さい頃に着てたお洋服だよ」
「リッタが着てたの?」
「そうだよ。ちょっと待っててね、洋服棚から引っ張り出して来るから」
そうは言ってみたものの、ハナちゃんは私の後について洋服棚までやって来た。
そりゃそうだよね。
どんなお洋服か、気になるだろうし。
そのまま、ハナちゃんが好きなのを選んでもらおうかな。
「おほぉ。いっぱいあるね!」
「だねぇ。私のお母さん、洋服を作るのが趣味だったから、沢山あるんだよぉ。ハナちゃん、どのお洋服が好きかな?」
「これ!」
いい返事だね。
それに、赤いワンピースを選ぶなんて、センスあると思うよ、ハナちゃん。
私も小さい頃、このワンピース気に入ってたなぁ。
「可愛いよねぇ。私もそのワンピース好きだったよ。ハナちゃん。それ以外にも、畑仕事をするときのためのズボンとシャツも持って行こうか」
「それはねぇ。これとこれ!」
畑仕事は汚れちゃうからね。
ワンピースを着て作業するのは、もったいないよ。
まぁその辺はハナちゃんも理解してるのかな。
無難な作業用のズボンとシャツを手に取ったハナちゃんは、その場で着替えを始めちゃった。
ちなみに、ハナちゃんはこの家に来たばかりの頃、自分で着替えることができませんでした。
だから、シーツやお玉、スプーンとかフォークにまで手伝ってもらいながら、着替えをしてたっけ。
成長したねぇ。
私はとても嬉しいよ。
自力で着替えをするハナちゃんを横目に、私は少し散らかってしまった洋服棚の整理をする。
ふぅ。
そういえば、私もそろそろ新しい洋服を作ってみてもいいかもしれないね。
ハナちゃんと同じとまでは言えないけど、私も少しは成長してるはず。
そう、母さんみたいな、大人の女性に……。
「全然大きくならないんだよねぇ……どうしてかな?」
慎ましやかな私の胸。
うぅぅ……自分で言ったんだけど、ちょっと自信なくしちゃうなぁ。
ううん。大人のレディはきっと、そんなことでウジウジ悩んだりしないはずだよね!
「気にしない気にしない! 私はもう、子どもじゃないんだから!」
「どうしたの? リッタ」
「何でもないよ~。ささ、着替えたなら、畑にレッツゴー」
「れっつご~!」
意気揚々《ようよう》と、私達は畑に直行する。
そして、いつも通り、草取りをしようとしゃがみ込んだその時。
悲劇が、起きたのです。
バリッ!
そんな、聞き慣れない音が、私の足元から聞こえてきたんだよね。
何かを踏んじゃったのかな?
と思って足元を見ても、何もないんだよ。
一瞬、その場で考えた私は、それが何の音か自分では気づけなかったんだ。
でも、ハナちゃんに言われて気が付いたのです。
「リッタ、おパンツ見えてるよ!」
「ふぇぇっ!?」
驚いて、恐る恐るお尻に手を当ててみました。
そしたら、確かに変なのです。
作業着として使ってたオーバーオールのお尻に、亀裂が入ってる。
当然、おパンツも見えちゃうよね。
恥ずかしさのあまり、私はその場にしゃがみ込んじゃいました。
正直、畑仕事なんてやってる場合じゃありません!
ずっとその場にしゃがみ込んでいたかったけど、そう言うわけにもいかないから。
私は家の中に入って、母さんが使ってた裁縫セットを探したのです。
それを使えば、オーバーオールの修復ができると思ったから。
ですが……糸が、無かったのですよ。
「というワケで。ラービさん。私は今、糸が欲しいんです!」
事態の深刻さを受けて、私達は今、キラービーの巣に来ています。
これはもう、ラービさんの助けが必要ですからね。
「深刻な危機と言うから聞いてみれば……」
「深刻ですよっ! ねぇ、ハナちゃん」
「そうだよ! しんこくだよ! おパンツ見えちゃうもん!」
「だからケツの所に、大きなワッペンを貼っているのか」
「そ、そんなマジマジと見ないでよっ!」
お花のガラのワッペンは可愛いけど、ずっとこのままってわけにはいかないよ。
偶然見つけたほんの少しの糸で、四隅を縫い付けてるだけだからね。
簡単にはがれちゃうのは、分かり切ってるのです。
「それにしても、糸か……」
「はい。『ひでんのしょ』には、仕立て人の術が載ってたから、裁縫自体は出来るけど、肝心の糸が無いんです。何か心当たりとか無いですか?」
母さんが裁縫をしてたと言うことは、どこかから糸を調達してたはずだよね!
糸を作る術は見当たらなかったから、きっと何か私の知らないことがあるんだよ。
そんな私の期待に応えるように、ラービさんが1つ提案をしてくれたのです。
「それなら、アラクネと話をするのが良いかもしれんな」
「アラクネ?」
「あぁ。ここからさらに西に向かうと、大きな深穴がある。その穴を住処にしている、蜘蛛の魔物だ」
「蜘蛛……の糸! そう言うことですね! ありがとうございます! ラービさん」
これで、この窮地も無事に脱することが出来そうだね。
良かったよ。
「この程度であれば、構わん。その代わりと言ってはなんだが、今度の花蜜交換の時、花の量を少し多めにしてもらえないか?」
「お安い御用です! それじゃあ、早速向かいたいと思うので! 今日はこの辺でサヨナラです」
「あぁ、そのワッペンも良いと思うけどな」
「恥ずかしいから見ないでって言ってるのにぃ!」
「ばいば~い」
「またな、ハナ」
そんな別れの言葉を交わした私達は、そのまま西に出発したのでした。




