第158話 森に奏でて
強烈な痛みが太ももから突きあがって
でも、私には万能薬があるからね。
これくらいなら大丈夫なのです。
それよりも、デシレさんったらネリネに穴を空けたってコトだよね!?
許すまじっ。
「ちょっと!! ネリネを壊さないでよ!!」
このネリネは、私だけで作ったわけじゃないんだから!
まずはテラスを突き破ってる触手みたいなものを、全部掌握しちゃおう。
そう思って、太ももから飛び出して来てるそれを握った私は、すぐに違和感を覚えました。
だって、一瞬で溶けて消えちゃったんだもん。
テラスを貫いてた突起物も全部無くなってる。
「あれ!? どうなってるの?」
「リグレッタ様! 奴は水の鞭を操っているのです!」
水の鞭?
ってことは、デシレさんもプルウェアの奇跡ってヤツを使えるんだね。
で、わざわざ何本も水の鞭を作り出して攻撃してきたってワケだ。
器用だなぁ。
で、そんな鞭を私に奪われたくないから、使い捨てたってことだね。
おかげで傷口を洗う必要は無いみたい。
「ありがたいけど、なんかちょっと嫌だなぁ」
テラスから見下ろすと、デシレさんはすでに沢山の水の鞭を作り終えてるところでした。
そりゃそうか、ここは霧の森だからねぇ。
材料は大量に浮かんでるのです。
「リグレッタ様! ここは私が!!」
「あ! ちょっとベルザークさん!!」
私が止める間もなく、彼はテラスから飛び降りて行っちゃったよ。
大丈夫かな?
さっきの感じだと、デシレさんは完全に私への対策をしてきてるよね。
おまけに霧の中での戦闘。
結構苦戦するかもしれません。
「さて、どうしたもんかなぁ」
「リッタ! 大丈夫?」
そういってハナちゃん号と一緒に降りて来たハナちゃん。
直後、そのタイミングを狙ってたかのように、水の鞭が動きました。
「くるよ! ハナちゃん!! しっかり捌いてね!!」
「ん!」
さすがハナちゃんってところかな、私なんかよりも瞬発力がある彼女は、言われるより前に対応を始めてるよ。
まぁ、対応っていっても足元から襲い来る鞭の先端を避けるだけなんだけどさ。
シンプルがゆえに、逆に難しいのです。
このままよけ続けてても、ネリネがどんどんボロボロになってくだけだなぁ。
つまり、いま私たちが取るべき行動はほぼ決まり切っています。
「ハナちゃん! ベルザークさんに続いて下に降りるよ!」
「分かった!」
「カッツさん! 私達は一旦ネリネから降りるから、皆のことを頼むね! あと、万能薬の準備をしておいて!」
「了解っス!!」
それだけ告げた私は、ハナちゃんと一緒にテラスから飛び降りました。
って!!
降りながら見えたんだけど、サラマンダーのお腹に沢山穴が空いてるジャン!!
お腹のあたりに空いた穴から、ちょろちょろと水が零れてるし!
止めさせたら、絶対に修理を手伝ってもらわなくちゃ!!
風に乗って降下しながらそんなことを考えてた私は、沢山の鞭が差し向けられてるのを目にしました。
「ハナちゃん! 吹き飛ばせる?」
「だいじょぶ!!」
威勢よく返事したハナちゃんは、大きく息を吐き出しました。
すると、猛烈な突風が迫り来る鞭を飛沫にして吹き飛ばしてしまいます。
まぁ、その突風の煽りを受けて、私たちも吹き飛ばされそうになったんだけどね。
「ごめん!」
「これくらいなら大丈夫だよ!」
まだまだ練習の途中だからね。
鞭を吹き飛ばせただけで十分です。
「次は気を付けるね!」
「いいね! その前向きさは大切にしたほうが良いと思う!」
「うん!」
やっぱり、ハナちゃんは自慢の娘だよね。
私がハナちゃんのことを娘と呼んで良いのかは、置いておきましょう。
「リッタ! はやくおいたんを助けてあげようよ!」
「ん? そうだった」
先に降りて行ったベルザークさんは、既に満身創痍の状態で襲い来る鞭を捌き続けてるみたい。
水の鞭は想像よりも切れ味があるんだね。
どうやってるのかは分かんないけど、岩の身体を持ってるサラマンダーを貫くくらいだから、当然かな。
そんな攻撃を受けながらも、致命傷を避けて応戦できてるベルザークさんは、やっぱりすごいよね。
おかげで、デシレさんは私たちだけでなく彼にも意識を割かなくちゃいけないみたい。
逆に言えば、ベルザークさんだけじゃデシレさんを制圧することは難しそうなのです。
「それじゃあハナちゃん、この状況で私たちは何をするべきかな?」
「……」
私のそんな質問を受けて、ハナちゃんの表情が一気に変わったよ。
その表情はあれだね、泥合戦のときに何度も見たそれですね。
「おいたんを手伝うべき……でも、私たちが入って行っちゃダメ」
「どうして?」
「間違って、ぶつかったら危ないもん」
「それじゃあ、どうする?」
「ゴーレムを―――」
「作ってる時間はありそう?」
「ない。だから、代わりの物を使う!」
代わりの物かぁ。
何を使うつもりなのかな?
使える物を探すように周囲を見渡したハナちゃんは、ハッと何かに気が付いて、笑みを浮かべました。
「ねぇリッタ、久しぶりに唄が聞きたいな」
「へ? どういうこと?」
「リーフちゃんの唄、聞きたい」
「あぁ~。そういうことだね。良いよ。ハナちゃんの頼みなら、私の唄をこの森に奏でてあげるよ!」
「私も一緒に歌う!」
へへへって笑うハナちゃん。
初めてこの唄を聞かせてあげた時って、もうかなり前だよね。
まさかこんな感じで一緒に歌うことになるとは思ってなかったよ。
ちょっと緊張するけど、これは良い思い出になりそう。
なんかテンション上がって来たヨ!
そんな私とハナちゃんのテンションに中てられたのかな?
霧の森の木々が、騒めき始めたのでした。
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