第152話 可愛いあだ名
全員がお風呂から上がって、しばらく休憩室でぐうたらしてたら、突然ホリー君による作戦会議が始まりました。
彼曰く、「みんなぐうたらしすぎだよ!!」とのこと。
まぁ、いつもお風呂から上がったらみんなぐうたらしてるもんね。
日ごろの習慣って恐ろしいや。
唯一、ホリー君の視線を気にして居心地悪そうにしてたのは、カルミアさんだけだもん。
まぁ、きっと彼女も近い内に慣れてくはずです。
「まずは分かってることを整理しよう。この霧は風でどっかに追いやることが出来ないね。他に気付いたことがある人はいるかな?」
「はーい! 周りには誰も居ないよ」
ハナちゃんの言う通り、周囲の魂を探ってみたけど誰も居ないんだよね。
だから、プルウェア聖教軍からの襲撃も無いと思って良さそうなのです。
「それから、今の所この霧は普通の霧ですね。慟哭の岬でリグレッタ様を眠らせてしまった時のようなことは、起きていません」
「今後もそうならないことを願うばかりっスね」
「カッツ。このような場で不吉なことを言うな」
「良いんだよカルミア隊長。彼の発言も1つの気づきだとボクは思う。いつだって最悪な状況を想定しなくちゃだし」
「それは……失礼しました」
「俺には謝らないんスか?」
「っ。すまない」
「ふむ、苦しくないっスよ」
「ぐぬぬ」
カルミアさんに謝罪させたことがよほど心地よかったのか、カッツさんは得意げな表情してるね。
まぁ、そんな表情を向けられたらムカつくよね、カルミアさん。
「カッツさん。あんまりカルミアさんをイジメちゃダメ!」
「分かってるっスよ」
「かたじけない、ハナ殿」
ハナちゃんのおかげで穏やかに話が落ち付いたので、ホリー君が話を続けます。
「とりあえずはこれくらいかな? 他にある人はいないね? それじゃあ、ボクなりに考えてみた作戦を言うよ。って言っても、毎度の如くリグレッタの力に頼るしかないんだけどさ」
「何をすればいいの?」
「単純な話だよ。進みながら岩の柱を建てて行けば、道しるべができるよね?」
「それじゃ上手く行かないと思うっスよ」
ホリー君の言葉を遮ったカッツさん。
皆の視線が集まったところで、彼はその理由を話し始めたよ。
「道しるべなら、俺達の足元に居るドデカいトカゲが「サラマンダーだよ」……サラマンダーが、大量の足跡を付けてるじゃないっスか」
「そうか。確かにそうだね」
「この湖の畔に来る途中、俺は何度かサラマンダーの足跡らしきものを前方に見つけたっス」
ってことは、このネリネは霧の中を行ったり来たりしてたってこと?
ホントにどーなってるんだろ、この霧は。
「なぜ見つけた時に言わなかった?」
「見つけた足跡が問題だったんスよ。進行方向の違う足跡が3つも4つも重なってるんだから、どれを追いかければいいか分からないっスよね?」
「この森、どうなってるのよ。なんだかちょっと不気味よね」
ハリエットちゃんの言葉を皮切りに、なんかみんな黙り込んじゃったよ。
どうしよう、ちょっと怖くなってきちゃったかも。
一生ここから出られなかったらどうしよう!
そうだ、森そのものが無くなれば、怖がる必要ないよね。
「リグレッタ様、急に立ち上がられてどうしたのですか?」
「うん。ちょっと森ごと霧を全部消し飛ばして来るから、皆はここで待っててよ」
「発想が破壊神っスね!」
「リッタ、ちょっと落ち着こ?」
「それはさすがに最終手段として取っておこうよ。リグレッタ」
破壊神て言われた!
増えるならもっと可愛いあだ名にして欲しいよね。
まぁ、これは私の自業自得だけどさ。
でもそっか、破壊神かぁ。
よくよく考えたら、不死の宣言を達成するためにはもっと難しい問題にも直面するんだもんね。
こんなことで、自棄になってちゃダメなのです。
「でも、やろうと思えば森ごと吹き飛ばせるのか?」
そう聞いてきたのは、フレイ君。
赤毛をかき上げてる彼は、興味深そうに私とハナちゃんを見比べてる。
私にできるってことは、ハナちゃんにもできる事なのか?
ってな感じのことを考えてそうだね。
「まぁ、シルフィード・ドラゴンに頼れば出来るかな」
「あの時のドラゴンかぁ」
フレイ君のいうあの時ってのは、きっと邪龍ベルガスクと戦ってた時のことだね。
「そうそう。あの時みたいに空高く舞って、大きな嵐を起こせば……」
簡単にやり方を説明しようとした私は、そこでふと気づきます。
今の私たちには、解放者が二人いるじゃん。
ってことは、空の上から道案内する私と、私の後を追いかけるハナちゃんって感じで、ネリネを誘導できるんじゃない?
私はすぐに、思いついた案を皆に伝えました。
それならきっと、大丈夫だよね。
というワケで、一人でネリネを離れた私は、ハナちゃん号に乗って空高く舞い上がったのです。
一応、ネリネのテラスとハナちゃん号をロープで結んでおきました。
万が一はぐれたり、危険が迫ったりしたらすぐに合図を送れるからね。
長さが足りなかったから、家中のベッドシーツをかき集めることになったけど。
そうして、霧の上に顔を出すことに成功した私は、久しぶりにお日様を目にしたのです。
「思ったよりも日は高かったんだね。そんなことより、南はどっちかなぁ~」
辺りを見渡した私は、すぐに南を把握することが出来ました。
北にある不眠の山が良い目印だったのです。
それにしても、濡れるなぁ。
風も強いから、結構寒いし。
早く森を抜けてしまいましょう。
そう思って、ネリネを見下ろした瞬間。
遥か下の森の中を動いてる2つの魂に、私は気が付いたのです。
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