第146話 小さな手
5試合目の開幕早々、ハナちゃんはさっきまでと同じように部隊を2つに分けて来たよ。
戦法を変えるつもりは無いのかな?
だったらまぁ、迎撃方法は分かってるよね。
いや、ダメだ。
さっきまでと同じなんて考えで対応するのは、油断そのものだよね。
これは最終試合なんだし、私もそれなりの心持ちで臨まなねばならないのです。
3試合の流れがほぼ同じだなんて、観客は退屈しちゃうかもだけどね。
大盾部隊と攻撃特化部隊を練り上げた私は、すぐに戦場の整理に取り掛かります。
さっきと同じように、ハナちゃんが居ない方の部隊と私の攻撃特化部隊をぶつけてあげる。
そうすれば、実質ハナちゃんとの直接対決に持ち込めるのです。
別に、頑張ってるハナちゃんを近くで見たいとか、そんなんじゃないからね?
あとは、私に襲撃を仕掛けようとするハナちゃんの様子を、魂の動きで監視してあげれば……。
あれ?
ここで私は、さっきまでとは大きく違う変化に気が付いたのです。
「やるねぇ、ハナちゃん」
小さめに呟いたけど、きっとこの声も彼女には聞こえてるんだろうなぁ。
ニヤニヤ嬉しそうに笑ってる顔が目に浮かぶよ。
あぁ、見たかった。
でも、そんなことを考えてる場合じゃないね。
ハナちゃんの仕掛けたそれは、思ったよりも俊敏に動いてるみたいだし。
「早めに整理したのが裏目に出ちゃったなぁ」
魂を見る目で把握できてる様子によると、私の攻撃特化部隊はあと少しで壊滅しちゃうね。
だって、仕方ないでしょ?
ハナちゃん型のゴーレムなんて、簡単に抑えられるわけないよね。
それも3体くらいは居るみたいだし。
ずっと汎用型のゴーレムしか作って無かったハナちゃん。
きっと、隠れて練習してたんだね。
自分の身体と動きをマネれば良いから、比較的造りやすかっただろうし。
良いアイデアなのです。
私が同じことをしても、運動神経が良いワケじゃないから意味ないけどね。
これぞまさしく、ハナちゃんにしかできない技。
迎撃用のゴーレムを作り変えないと、あっという間に負けちゃうなぁ。
どうしよう?
何を作る?
ここはあれかな?
目には目を、歯には歯をってやつかな。
「私だって、ハナちゃんのことずっと見てきたからね!」
とはいえ、こんな土壇場で作っても質では勝ち目がないのは明白。
つまり、数で押すしかない!
足元の地面を利用して、ハナちゃんを大量に生み出してく。
んー。
もうちょっと頬っぺたにプニプニ感が必要かな?
それと、手はもう少し小さくて可愛いんだよねぇ。
それから、見分けやすくするために髪はショートにしておこうかな。
それからそれから。
……って! そんなこだわってる場合じゃないよぉ!!
でも、変な感じで作るのは嫌だし!
出来上がったハナちゃんゴーレムが壊れちゃうのは、もっと嫌です。
ぐぬぬ。
ハナちゃんったら、私がこうして悩むことまで想定しての作戦なんだね!
やるじゃん。
気が付けば、壊滅しちゃってる私の攻撃特化部隊。
ものすごい勢いで迫り来る3体のハナちゃんゴーレムとハナちゃん本人を、迎え撃たなくちゃ!
幾つか作ったハナちゃんゴーレム(ショートカット)を向かわせてる間に、次の手を考えないと。
「リッタ! かくごぉ!」
「っ!?」
背後から聞こえたハナちゃんの声。
咄嗟に振り返った私は、その声が罠だということに気が付きました。
「しまっ―――」
「貰ったよ!」
声のした方向とは真逆。
つまり、今の私の背中側から、3体のハナちゃんゴーレムが飛び掛かって来る。
大盾のゴーレムは、全然機能してないね。
ただの足場にされちゃってるよ。
なんて考えてる間に、ハナちゃんゴーレム達に羽交い絞めにされちゃった私は。
目の前に飛び出て来たハナちゃんから、泥団子を投げつけられたのです。
「うべぇ」
「あっ! ごめん、顔に当てるつもりは無かったの」
謝るハナちゃんの声に被せるように、試合終了を告げるハリエットちゃんの声が響き渡ります。
負けちゃったなぁ。
でも、すごく楽しかったよ。
ハナちゃんに羽交い絞めにされたし、泥も投げつけられちゃった。
どっちも、初めての経験だよね。
ちょっと前まで、こんなことを一緒に出来るなんて思っても無かったから、涙が出そうだよ。
でも取り敢えず今は、顔を洗いたいなぁ。
あ、そうだ。
良いこと思いついた。
「ハナちゃん、目を開けられないからネリネのお風呂まで連れてってくれない?」
「うん! 分かった!」
そう言って私の手を引いてくれるハナちゃん。
ふふふ。
罠にかかったね。
すぐに彼女の手を強く引いた私は、慌ててる様子のハナちゃんを抱き寄せます。
そして、泥だらけの頬っぺたを、ハナちゃんの頬っぺたにこすりつけました。
「ちょっとリッタァ! 泥が付いちゃったよぉ!」
「へへへぇ~。仕返しだよ」
「むぅ」
「まぁまぁ、一緒にお風呂で落とそうよ!」
「……一緒にお風呂。入る!」
喜んでくれてるみたいで、なによりです。
それにしても、ハナちゃんがここまで出来るようになってるなんてびっくりだね。
驚き以上に、嬉しいって思いが強いけどさ。
私は父さんと母さんに出来なかったことを、成長の証を世界に見せつけてあげなくちゃいけない。
それはつまり、2人を超えるって意味なのです。
そしてきっと、ハナちゃんはそんな私も超えて行っちゃうんだろうなぁ。
希望に似た予感みたいなもの。
それが叶う時まで、ずっと一緒に居たいものですね。
「はやくお風呂行こ!」
「分かってるよ!」
私の手を引く、小さな手。
触れてしまった以上、絶対に離したくない。
当然だよね?
触れたことすらなかったのに、失ってしまった時の苦しみは、想像を絶するものだったんだから。
もしかして、母さんたちが二度と世界を愛せないって言ってたのは、そういうコトなのかな?
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