第145話 あの頃の2人
第1試合が終わって一旦ネリネに戻った私達は、ハナちゃんの泥を落としてあげたよ。
汚れたまんまじゃ、次の試合の判定が難しいからね。
汚れが取れたら、お互いに準備に戻ります。
さてさて、ハナちゃんはどんな方法で立ち向かって来るのかなぁ。
成長するハナちゃんを見るのは、すごく嬉しいよね。
そうして迎えた第2試合。
ハナちゃんは特攻を止めてゴーレムと一緒にジワジワと攻めてくる方法を選んだみたいだよ。
そうなれば、私が取る手段は決まっているのです。
大きな部隊を3つに分けて、その内の1つに紛れ込んだ私。
もちろん、残りの2つには私のダミーを紛れ込ませてるよ。
これでハナちゃんは、3つの部隊のどこに私が居るのか、見極めながら戦わなくちゃいけないワケです。
魂宿りの術と、魂を見る目の両方が試されるよね。
私を見つけられたとしても、ダミー部隊を無視するわけにもいかないから、きっと大変でしょう。
案の定、索敵と攻撃と防御を同時にこなさなくちゃいけないハナちゃんは、ダミー部隊の挟み撃ちを受けて負けちゃいました。
「うぅ……強すぎるよぉ」
「ハナちゃん、自分で解決する必要は無いんだからね?」
「でも! 今のはちゃんとゴーレム達と一緒に居たもん!」
「そうだね。それじゃあ、私はどうしてたかな?」
「リッタは……?」
短く呟いたハナちゃんは、何かに気が付いたのか目を見開きました。
そうだよね、私はただ逃げてただけなのです。
逃げながら、ダミー部隊が攻めやすい場所までハナちゃんを誘導したんだけど、そこまで気が付いてくれるかな?
「リグレッタ様、どこでこのような戦法を学んだのですか?」
休憩の途中、そんなことをベルザークさんが聞いて来ました。
「どこって、ベルザークさんも見たことあるでしょ? 雪合戦。父さんと母さんと3人で、冬の間遊んでたんだよ」
「な、なるほど……」
「英才教育って奴っスかね」
「ウチでやってた時は、風と水も使ってたから、もっと激しかったけどね」
なんか、ペンドルトンさんの顔が強張ってる気がするけど、気のせいかな?
次の3試合目、ハナちゃんは私のマネをしたのか、部隊を2つに分けて攻めて来たよ。
3つにしなかったのは、今はまだそこまで制御できないと判断したのかな?
それじゃあ私も、迎撃の準備をしなくちゃだね。
まずはゴーレムの姿を2種類に作り変えて、大きな盾を持った子達を、私の周囲に固めました。
残りの子達は攻撃特化にして、ハナちゃんのダミー部隊にぶつけてあげましょう。
これで、状況が硬直するよね。
そしたらきっとハナちゃんは……。
って、そんな予想をしてるうちに、もうハナちゃんが行動に出て来たよ!
でも、ちょっと遅かったかな。
2か所でぶつかり合う部隊の隙を突いて、勢いよく飛び出して来たハナちゃんが、盾持ちゴーレムの頭上から襲い掛かって来ます。
良い判断だと思うよ。
でもね、私が盾持ちゴーレムを作ったのは、防御のためだけじゃないんだよ?
大きな盾って、目隠しにもなるよね。
「リッタ!! 今度こそっ! あれ!?」
「惜しいっ! もうちょっとだったね!」
こっそり傍に置いてた攻撃特化のゴーレム。
空中で身動きの取れないハナちゃんは、飛び交う弾幕に沈みました。
実は最後のあがきで飛んで来たハナちゃんの泥弾に当たりそうになっちゃったけど、それは内緒にしておこう。
「ホントに惜しかったよハナちゃん。良く自分で特攻しようって思えたねぇ」
「だって、リッタ言ってたもん。全部自分だけで解決できると思っちゃダメだって。それって、役割が大事ってコトでしょ?」
「そうだねぇ。良く気付いたね」
「えへへぇ。でも、盾のせいで中が見えてなかったから、油断しちゃってた。油断もダメなんだよね?」
「分かってるじゃん」
なんか、ハナちゃんの成長が早すぎて、そろそろ負けそうなんだけど。
次の試合は、私も油断禁物だね。
4試合目、この試合はホントに長引きました。
大体の情勢は3試合目と同じ感じだったんだけど、状況が拮抗してから動きが無くなったんだよね。
結論を言えば、この回は経験値の差で私が勝利しました。
長引けば長引くほど、ゴーレムの扱いの差が結果に出て来るのです。
お互いに追加してた増援ゴーレムの量も、私の方が多かったしね。
「疲れたぁ……」
「私もさすがに疲れたよ。それにしてもハナちゃん、一気に強くなりすぎだよ。次は負けちゃいそうだなぁ」
「むぅぅ。本気で言ってるの?」
本気だよ。
でも、ハナちゃんからしたらおちょくってるように聞こえたかな?
これは反省だね。
そして迎えた5試合目。
最後の試合ってだけあって、ハナちゃんも私も、そして観客も熱が入ってるみたいです。
「取り敢えず、これで最後だねハナちゃん」
空もかなり暗くなってきたし、お腹もすいて来たよ。
できれば早く終わらせたいけど、そんな焦りが敗因になるかもだよね。
「リッタ。今度は絶対に勝つよ!」
「ふふふ。そう簡単には負けてあげないからね」
なんだかんだいって、ハナちゃんとの試合は楽しいなぁ。
やってよかったと思えてるよ。
でも、やっぱり手加減はしてあげられないけどね。
「それでは! 5試合目、開始です!!」
ハリエットちゃんの号令と共に、試合が始まります。
ハナちゃん、次はどんな成長を見せてくれるのかな?
今になって分かるけど、母さんと父さんも同じように思ってたのでしょう。
だって、今の私は自覚できるくらい笑えてるのだから。
きっと、あの頃の2人みたいにね。
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