第141話 意味のある話
「聖女様? それって……どういうことなの?」
「理解、できませんね……」
「別の誰かに対して言ったんじゃないんスか?」
「違うもん。イージスさんがソラリスさんに言ってたの!」
ハリエットちゃんもベルザークさんも、そしてカッツさんも。
みんなハナちゃんの言葉を疑ってるよ。
もちろん、私はハナちゃんを信じるけどね。
つまり、ソラリス母さんは昔、聖女として扱われてたってことだよね。
そこが、本当にプルウェア聖教国だったのかどうかは、まだ確定してないのです。
「みんな落ち着いてください。まだ話は終わっていないはずだ。それでハナちゃん。ソラリスさんはイージスさんになんて返事をしたんだい?」
「えっとね。悪い人になっちゃった私が悪いから。プルウェア様のために縛ってるって言ってたよ」
「プルウェア様……ってことはやっぱり」
「ハナちゃん。それは本当なのですか?」
「ホントだよ?」
本気で驚いてるのかな、ベルザークさんはハナちゃんの返事を聞いて、額に手を当てました。
「し、信じられません……なぜそんな邪教を」
「そう言う自分も、ハナちゃんのことを信じられないって口走ってるっスけどね」
「っ!? そ、それは!! 違うのです!」
何も違わないけどね。
でも、カッツさんの指摘も、ちょっと意地悪な気がするよ。
「ここまでの話を整理すると、ソラリスさんはプルウェア聖教国で聖女と呼ばれる人物だった。だけど、何らかの理由で国中から疎まれるようなことが起きて、逃げ出した? 逃げ出そうと思ったきっかけは、きっとイージスさんってことだよね。ハナちゃん。イージスさんはその後、ソラリスさんに逃げ出そうと提案したのかな?」
ブツブツと呟いた後に、質問を投げかけたホリー君。
そんな彼に返事をするハナちゃんは、ゆっくりと首を横に振ったのです。
「ううん。逃げようじゃなくて、生きようって言ってたよ」
「生きよう、か」
「そのあと、なんかムズかしーこといってたけど、分かんなかった」
「そっか」
「でねでね、一緒に来るって言うイージスさんを連れて、逃げ出したの!」
そこからのハナちゃんは、ちょっとだけ明るい表情が戻った気がする。
教会に居た頃のことは、あんまり楽しい記憶じゃなかったのかな?
それとも、旅が始まってからの記憶が楽しかったのか。
どっちかだよね。
それと、話を聞いてるうちに分かったことがあるんだ。
それは、過去に飛んだばっかりの頃のハナちゃんは、記憶を失ってたそうです。
唯一憶えてたのが、リッタって名前だけ。
ハナちゃんは魂の一部が壊れてたみたいだし、それが記憶に影響してたんだろうね。
ふふふ。
最後の最後まで覚えてもらってたって考えると、ふふふ。
可愛いねぇ。
思わず、頭をワシャワシャしちゃったよぉ。
そんなこんなで、ホリー君達は充分にハナちゃんから話を聞けたみたいだね。
さすがに、焚火で作る焼き魚が美味しそうだった、なんて話は、求めてないみたい。
私としては、興味あるけどなぁ。
寝る前に、じっくり聞かせてもらいましょう。
食事も尽きてきた頃だし、そろそろ解散しようか。
そんな雰囲気になり始めてた中、不意にカッツさんが口を開きました。
「1つだけ、俺から話しておきたいことがあるっス」
「ほう? ここで述べるということは、それなりに意味のある話なのだろうな?」
ペンドルトンさん、ハナちゃんの焼き魚の話を聞いてる時、ホントにイライラしてたもんねぇ。
ハナちゃんに文句言うようなことはしてなかったけど、カッツさんに八つ当たりかな?
また喧嘩が始まっちゃうよ。
なんて心配をした私は、その必要がないことに気が付きました。
「大事な、話っス」
いつになく真剣な顔のカッツさん。
「それで、話というのは?」
促すホリー君に応えて、カッツさんは話し始めました。
「ライラックの事っス。奴の目的を、今一度考えた方が良い気がしてるっス」
「奴の目的? それは重要な話なのか?」
「少なくとも俺は重要と思ってるっス。特にリグレッタ、あの宣言を実行に移すのなら、避けては通れない壁になると思うっスよ」
あの宣言。それは確実に『不死の宣言』の事だよね。
そう言われたら、真剣に聞かなくちゃだよね。
「カッツさん、詳しく聞かせて貰っても良い?」
「俺、ここにやって来た初日に、奴と酒場で話したっス」
「なんだとっ!?」
「兄さん、落ち付いて」
「カッツ。その情報、受け取り方によっては密偵だと取られてもおかしくないぞ」
怒りと一緒に声音を抑えてる様子のカルミアさん。
それでもちょっと怖いよ。
さすがは騎士ってコトかな?
でも、カッツさんもそういう対応には慣れてるみたいで、小さく肩を竦めるだけでした。
「そうっスよね。俺もそう思ってたから、ずっと黙ってたんスよ。そういう悪知恵はあるっスからねぇ」
でも、だからっス。
短く、そう結んだ彼は、この場の全員の顔を見渡して言いました。
「奴はあの日、俺に言ったんスよ。リグレッタがプルウェア聖教国の奴らを全員殺してくれるって、嬉しそうな顔で」
「……そんなこと、私は」
「するつもりがないっスよね? それはこの場の全員が知ってるっス。でも、それを知った奴は、何をしたっスか?」
ハリエットちゃんを狙って、私の宣言の邪魔をしようとした。
でも、カッツさんとハナちゃんに邪魔されちゃって、ハナちゃんが……。
「そうか。たしかに、色々と引っ掛かることがありますね」
「ホリー兄さん? なんのこと?」
考えを巡らせるみんなに説明するように、ホリー君は続けます。
「ライラックは、戦争を続けさせようとしてた、ってことだよ」
「ホルバートン様。奴はプルウェア聖教国の手先です。ということは、あの状況で戦争を継続させようとするのは、特に不思議ではありません」
「そうだね。だけど、リグレッタに求めるものが、カッツの言うそれだったとしたら、どこに属しているかなんて関係ない話だろ? カルミア隊長」
「それは……」
たしかに、フランメ民国の人が同じ考えを持ってたとしても、私の『不死の宣言』は邪魔でしかないよね。
「そもそも、リグレッタに敵対していたから、ライラックはプルウェア聖教国の手先だと勝手に思ってたけど、それもどうなのか怪しくなってきたとボクは思うよ」
「そうっス。奴はプルウェア聖教国に対する強い恨みを持ってるように見えたっス」
「そういうことか……」
ベルザークさんの呟きの後、重たい沈黙が広がりました。
なんだか、気が重たくなるなぁ。
そんなことを考えてた時、隣に座ってたハナちゃんが、袖をちょいちょいって引っ張って来たのです。
「どうしたの? ハナちゃん」
「リッタ。これからどうするの?」
「う~ん。どうしようかなぁ」
悩む私を見て、ハナちゃんは告げるのです。
「私ね、教会に行きたい」
「え? 教会って、プルウェア聖教国にあるって話だよね? 危ないよ?」
「うん。でも、行きたいの。ダメ?」
「そっかぁ~。そんなに行きたいなら、仕方ないよねぇ」
「ちょっとリグレッタ様!? さすがにそれは!」
ベルザークさんは反対みたいだね。
でも、上目遣いで『ダメ?』とか言われたら、断る選択肢は無いんだよ?
「ここまで来たことだし、プルウェア聖教国にあるっていう教会まで行ってみようか」
「やったぁ!」
「まじっスか」
「……はぁ」
みんな心配そうな顔してるけど、大丈夫だよ。
なにも準備しないで進むわけじゃないんだからね。
油断はしちゃいけない。
でも、挑戦しないのもダメなのです。
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