第140話 自分で自分を
「それじゃあハナちゃん。キミが過去に行ってから何があったのか。聞かせてもらうことは出来るかな?」
「うん」
短く一言、肯定したハナちゃん。
だけど、皆の視線が注がれてるからかな、ちょっと緊張してるみたい。
静かに、私の袖を握って来たよ。
ダメだぁ。
こんなの、ニヤケちゃうって!
落ち着くんだよ、私。
今は、ハナちゃんの話を聞かなくちゃなんだから。
「大丈夫? ハナちゃん」
「大丈夫だよ」
「ホリー兄さん。質問形式で話を聞いてあげた方が良いんじゃないかしら?」
ハリエットちゃんは、ホントに気が利くよね。
そういうコトならと、手にしてたメモを幾つかめくったホリー君が、質問を開始しました。
「それじゃあ、順を追って聞いて行こうかな。ハナちゃん。過去で一番初めに見聞きしたのは何だったかな」
「一番初め……えっとね、お祈りを聞いたよ」
「お祈り?」
「うん。ソラリスさんが、お祈りしてたの」
母さんがお祈りしてた?
それはなんていうか、あんまりイメージできないなぁ。
「一番初めに、ソラリスさんと会ったんだね。その場所はどこだったか、分かるかな?」
「きょうかいって言ってた。あのね、キラキラの窓があって、綺麗だったよ」
「きょうかい……キラキラの窓」
「教会。ということでしょうか」
心当たりでもあるのか、ベルザークさんがそう言いました。
教会って、なんだろうね。
「イージスさんはいなかった?」
「うん。イージスさんはね、もう少し後でソラリスさんを助けてくれたの」
「なんか、良く分かんないっス。教会って、もしかしてソラリスはプルウェア聖教国に居たってコトっスか?」
「奴らに捕まっていた。という可能性はありそうですね」
推測を口にするカッツさんとベルザークさん。
でも、2人の推測をハナちゃんが否定しました。
「ううん。捕まってなかったよ。皆、ソラリスさんと仲良くしてたもん」
「え? プルウェア聖教国で、解放者が平和に暮らしてたってことっスか?」
カッツさんだけじゃなく、みんな驚いてるね。
さすがに私も、びっくりだよ。
だって、今までに見て来た懐古の器からは、想像できないんだもん。
「もしかして、ハナちゃんが初めて会った時のソラリスさんは、まだ解放者じゃなかったとか?」
「う~ん。初めから、綺麗な白い髪の毛だったと思う」
「それじゃあ、はじめっから解放者だったってことね」
ハリエットちゃんの言う通りだね。
この白い髪の毛は、解放者の証みたいなものだし。
じゃあどういうコトなんだろ。
解放者って、プルウェア聖教にとっては敵なんじゃないのかな?
「とりあえず、話を進めよう。ハナちゃん。ソラリスさんと会ったときは、既に指輪の中にいたのかな?」
「うん。迷ってた私を見つけて、指輪の中に迎えてくれたんだよ」
「やっぱり、解放者の術っぽいっスね」
カッツさんの言葉に賛同するように、ホリー君は頷きながらブツブツ呟きました。
「魂だけ過去に飛んだハナちゃんを、解放者のソラリスさんが見つけて、魂宿りの術で指輪に定着させた。うん。今の所、違和感はないかな」
違和感は無いけど、疑問が無くなったわけじゃないよね。
そもそも、どうして過去に飛んだのかとか。
どうやって母さんの元に辿り着けたのかとか。
まだまだ分からないことだらけです。
「それで、そのあと何があった?」
「その後……」
「兄さん。聞き方が雑すぎるよ。ここはボクに任せてよね」
「……分かった。任せよう」
好奇心に駆られてるホリー君は、怖いもの知らずだね。
ペンドルトンさんも、こうなったホリー君には弱いのかな?
大人しく引き下がってるよ。
「ハナちゃんはそれから、指輪としてソラリスさんと一緒に居た。これは合ってるかな?」
「うん」
「分かった。じゃあ次に行こう。その後、何かが起きて、ソラリスさんは皆から追われる身になった。これは合ってる?」
「合ってる」
「そっか。その『何か』って、どんなことだったのかな」
「分かんない」
「それは、どうして?」
ホリー君の問いかけに、しばし口を噤むハナちゃん。
思い出してるのかな、テーブルの下で掌を握りしめた彼女は、意を決するように口を開きました。
「ソラリスさんはね、毎日どこかにお出かけしてたの。そのお出かけに、私は連れてってもらえなかったから、何をしてたのか、分かんない」
「お出かけ? それは一人で行ってたの?」
「ううん。お部屋にね、誰かが迎えに来てたよ」
誰かって、誰だろ?
こればっかりは、ハナちゃんも知らなさそうだよね。
「でね、あの日もいつもどーり、迎えが来たんだけど、その日だけ、私をポケットに入れて、部屋の外に連れてってくれたの」
「その日……その後、何があったのか、聞いても良いかな?」
「うん。ソラリスさんがね、部屋を出る前に教えてくれたんだ。今日でお別れだねって。それが嫌だったから。連れていって欲しいってお願いしたんだ」
今日でお別れ?
まるで、今生の別れみたいな言い方だよね。
でも、あながち間違いじゃなかったのかも?
懐古の器でも、母さんは大渦に身を沈めようとしてたし。
「お部屋の外に出たら、皆の怒ってる声が聞こえて来て、ソラリスさん、泣いてた。怖いよって言って、泣いてたんだよ」
「どういうことなの?」
「まるで、生贄みたいっスね」
生贄。
母さんが、生贄だった?
なんだか、思ってなかった感じの話になってきたような。
「生贄か……そう言えば、いつかの懐古の器で、ソラリスさんが世界のことを愛せないって独白してたっけ」
「なるほど、奴らのやりそうな所業ですね」
納得したように頷くベルザークさん。
確かに、愛せないって独白はしてたけど。
本当にそうなのかな?
死神が生贄って、なんか変じゃない?
「すみません、ちょっと話がズレちゃいました。ハナちゃん、続きをお願いするよ」
「うん。その後ね、泣きながら歩いてたソラリスさんに、近づいて来る人が居たの。それが、イージスさんだったんだよ」
「ここで父さんが登場するんだね」
「うん。私はポケットの中に居たから、声しか聞こえなかったけど。イージスさんがソラリスさんに言ったの」
そこで言葉を切ったハナちゃんは、皆に聞こえるように、はっきりとした声で言うのでした。
「聖女様、なぜあなたは、自分で自分を縛り付けているのですか?」
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