第14話 森の異変
キラービーのラービさんと一緒に、森の中にいるという人間の元にやって来た私達。
そこで見つけたのは、石化の呪いで動けなくなった女騎士でした。
女騎士。
女騎士だよっ!
本に出て来る騎士さんって、男の人って印象が強かったから、ちょっと驚いちゃった。
でも、女騎士もカッコいいね。
彼女は呪いのせいで動けなくなってたみたいだから、シーツにお願いして、そのまま私の家まで運んで貰った。
ラービさんはかなり警戒してたけど。
まぁ、大丈夫でしょう。
石化の呪いも、『ひでんのしょ』1冊目の48ページに載ってる万能薬を使えば、簡単に治せちゃうしね。
ついでに、幾つか怪我もしてるみたいだから、傷薬も作っておこう。
塗るのはもちろん、ハナちゃんにお願いしなくちゃだね。
そして、女騎士さんの呪いが解けるのを待った私達は今、キッチンのテーブルを挟んで腰を下ろしてる。
「はい、紅茶です」
「え、あ、ありがとうございます……」
全身に身に纏ってる甲冑と、ウェーブの掛かった茶髪が特徴的な女騎士さん。
彼女は少しだけ呆けたあと、テーブルに出された紅茶に視線を落とした。
私、何か変な対応でもしちゃったかな?
「あの、何か変でした? すみません、私、ハナちゃん以外の人と話すのが初めてなので、あ、父さんと母さんは別ですけどね」
「いえ、変なところがあるとか、そういうことじゃありませんので……」
ないの?
じゃあ、どうしてそんなに動揺してるのかな?
まぁ、話を聞きながら様子を伺った方が良いかもだね。
私とハナちゃん、そしてラービさんを見比べてる女騎士さん。
彼女もあんまり人と話すのに慣れてないのかな?
森の中に一人で居たし、そうかもしれないね。
そうだ、こういう時はまず、自己紹介をするべきだったよね。
「えっと。私の名前はリグレッタ。お姉さんが知ってるかは分からないけど、解放者です。死神ですって言った方が通じるのかな?」
「リグレッタ……? あ、失礼しました。私はブッシュ王国騎士団所属のカルミア・エリクソンと申します」
え?
私の名前に疑問を持ってたよね?
私の名前って、変なの!?
いいや、それは気のせいだよね。
気のせいだってことにしよう。
その方が良いに決まってる!
なんて考えて一人で唸る私に、ハナちゃんが首を傾げながら問いかけてきた。
「かうみあ・えいうそん?」
「カルミア・エリクソンさんだよ、ハナちゃん。ごめんなさい。ハナちゃんはまだ長い名前を言い慣れてないみたいなので」
「いえ、大丈夫です」
ふふふ。言い間違えるハナちゃんも可愛いなぁ。
カルミアさんも首を傾げたハナちゃんを見て、ちょっとだけ表情を緩めたから、同じ気持ちだよね。
ハナちゃんのおかげで、ちょっとだけ場が和んだよ。
その間、私はラービさんの自己紹介を待ってたんだけど……。
ラービさん、どうして自己紹介を始めないのかな?
「あの、ラービさん? 自己紹介は?」
「……なぜ人間に自己紹介をしなければならないのですか?」
「っ!? キラービーが喋った!?」
カルミアさんが急に立ち上がるからびっくりしちゃったよ。
っていうか、あれ?
キラービーって言葉を話さないのが普通なの?
実は、ラービさんって、かなりすごいキラービーだったり?
その辺は、あとでこっそりラービさんに聞いておこうかな。
「えっと、ラービさんが自己紹介する気が無いみたいなので、私が代わりにするね。彼女はラービさん。もう知ってるみたいだけど、キラービーっていう蜂の魔物だよ」
「……そ、そうなんですね」
「ハナはハナだよ! 5歳なの!」
「ハナちゃん、5歳だったの!? どおりで可愛いんだなぁ」
「は、はぁ……」
「……」
ダメだ……。ハナちゃんの年齢に驚いてる場合じゃないね。
ラービさんとカルミアさんの仲が悪すぎる。
やっぱり、人間と魔物だからかなぁ。
でも、今日会ったばっかりなんだよね?
どうしてそんなに険悪な雰囲気になっちゃうんだろう?
実は前からの知り合いだったり?
ううん。それは違うかな。
ラービさんは人間が森の中に入って来てることに驚いてたし。
考えても無駄かなぁ。
険悪な状況をどうにかできるとは思えないから、今はとにかく、カルミアさんに事情を聞いた方が良いよね。
「と、ところでカルミアさん。カルミアさんは、どうして森の中に居たの? この森の中に人が入ることなんて、ほとんど無いと思うんだけど」
「それは……」
そんなに難しいことを聞いたわけじゃないんだけど、カルミアさんは口ごもってしまう。
すると、ラービさんがしびれを切らしたみたいで、背中の羽をブーンと鳴らしながら、カルミアさんに詰め寄り始める。
「人間の分際で、彼女の質問に答えないつもりか!?」
「ちょ、ちょっとラービさん! そんな無理に聞く必要は無いですよ」
「だが」
私とカルミアさんを見比べるラービさん。
穏やかじゃないなぁ。
もうちょっとゆったりとお茶しながらお話したかったんだけどなぁ。
なんて考えてると、少し怯えた様子のカルミアさんが、ゆっくりと口を開いた。
「わ、私達は、この森に起きた異変を調べるために、森に入っていたのです」
「いへん? って、なぁ~に?」
「変なこと、って意味だよ」
「ヘンなコト! ふぅ~ん」
ハナちゃんは興味がないみたい。
でも、私は興味があるな。
この森の住人として、森の異変は他人事じゃないからね。
「で、その異変って、何があったんですか?」
「2か月ほど前になるのですが。その、この森の東から、大きな花火が上がったのです」
ん?
「そして、その花火の出所を調べに行ったところ、森の近くにあったはずの集落が、壊滅していました」
「あ~」
「私達は、その集落を壊滅させた何者かの正体を探るために、森に入ったのです」
頬っぺたが引きつってるのが、自分でも分かるよ。
多分、カルミアさんも私の様子がおかしいことに気が付いたよね。
それを現すように、彼女は1つ深呼吸した後、私に問いかけてきた。
「あの……もしかして、なにか心当たりがあったりしますか?」
「えっと……そうですね。花火に関しては、私で間違いありません」
ごめんなさい。
まさか、人間達にも見られるなんて、考えてませんでした。
ってことはつまり、森に人間を招いてしまったのは、私ってこと?
そのせいで、ラービさんが慌てて私に報告をしてきたってことだよね?
クマさんに引き続き、またラービさん達に迷惑かけちゃったよ。
どうしよう。
またお詫びの品を準備しなくちゃだね。
でも、もう一つについては、ちゃんと否定しなくちゃだ!
一旦心を落ち着けるためにお茶を啜った私は、一つ息を吐いて、弁明を始めたのでした。




