第137話 勢い任せ
前から知ってはいたけどさ、ハナちゃんって結構器用なんだよね。
蘇って、解放者になったばっかりのはずなのに、ある程度は術が使えるみたい。
ソラリス母さんとイージス父さんのこと、それから、私のことを見てたからかな?
そんな彼女に、万能薬の小鳥さん量産任務を任せても、問題はなさそうだよね?
これで、ライラックさんに落とされた小鳥たちの補充もできるはずです。
「そうなると、あとは私のお仕事かな」
ハナちゃんの助けを受けられる今、もう誰にも私達を止めることはできないはず。
ううん。邪魔なんてさせないからねっ!
なんて意気込んでみたけどさ。
ライラックさんは、私が動き始めるのを見た途端に、そそくさと逃げて行っちゃったよ。
まぁ、片腕を切り落としちゃったし、賢い判断なのかもしれないね。
でも、結局ライラックさんは何がしたかったんだろ?
私を焚きつけて、戦争を続けさせようとしてたように見えたけど。
それが本気なら、そうするに至った理由が何かあるはずだよね?
……ハナちゃんを失った私が、全部どうでも良いやって考えたみたいにね。
ライラックさんが飛んでった後、戦場に静寂が訪るまで、それほどの時間は掛からなかったよ。
敵も味方も、いろんな意味で戦意を失ってくれたみたいなのです。
誰も居なくなった戦場で、不死の環境を作り続ける意味はないよね?
というワケで、私たちも無事にネリネに帰って来たんだけど。
まぁ、静かにお茶って感じにはならないよねぇ。
「説明をして頂こうか?」
「待てよ。話をするのはオレッチが先だぜ。悪いがアンタは後だ、ペンドルトン王子」
「ま、まぁまぁ、2人とも落ち着いてよ」
ネリネのテラスで睨み合うクラインさんとペンドルトンさん。
2人が色々と混乱してるのは分かるけどね。
ちなみに、いま私達と一緒にテラスに居るのはこの2人と、ベルザークさん、それからカッツさんだね。
他の人には席を外してもらってるよ。
それから、ハナちゃんは疲れが出たみたいだから、早めに部屋に戻って休んでもらってる。
本当に、色々なことが起きたからね。
正直、私にも理解できてないこととか飲み込めてないことが沢山あるのです。
だからこそ、今は冷静に、落ち着いて、頭の中を整理しなくちゃいけない。
間違って喧嘩になんかなったら、面倒くさいもんね。
「それじゃあまず、クラインさんから。どうぞ」
「おう。オレッチが聞きたいことは1つだけだ。リグレッタ、お前まさか、この世界から死を消そうとしてるのか?」
「ううん。さすがの私でも死は消せないよ。でも、誰かが誰かの命を奪う権利は、全部返してもらおうかなって思ってるよ」
「それが、どれだけ難しいことなのか、分かって言ってるんだよな?」
「難しいからこそ、それを選んでるつもりだけど」
「……そうか。それなら、オレッチからは特に言うことはなさそうだな」
なんか、フワッとした感じの回答しかできてない気がするけど、納得できたんだね。
それなら、気が変わる前に次の話題に進んでしまいましょう。
私も疲れてるからね、早めにお風呂に入って、休みたいのです。
「それじゃあ、ペンドルトンさん。どうぞ」
「あの獣人の娘は―――」
「ハナちゃん、だね」
「……ハナ殿は、なぜ蘇ることが出来た? それから、どうやって、解放者になったのだ?」
これはまた、まっすぐで分かり易い質問だね。
でも、答え方が難しい質問でもあるのかなぁ。
ハナちゃん本人がこの場に居ないから、ホントの所を知る人が居ないワケなのです。
つまり、私はこの質問に推測で応えるしかないんだけど。
幾つかの疑問を、解消するくらいは出来るかもしれないよね。
「というワケで、まぁ、誰かからその質問は来るだろうなぁと、私も思ってたよ。そこで、カッツさん。あの指輪、リンをどこで見つけたのか教えてくれるかな?」
「そ、そういうことっスか。どおりで、場違いな話し合いに呼ばれたワケっスね」
小さくため息を吐いた彼は、簡単に事情を話してくれました。
ベルガスクから弾き飛ばされた後、無事だったことに驚きだね。
「とまぁ、こんな感じっス。だから、俺はあんまり詳しくないっスよ。むしろ、クライン様の方が知ってるんじゃないっスか?」
カッツさんのその言葉で、全員の視線がクラインさんに集まります。
「そうだな。あの指輪はソラリスが送りつけて来たもので、正直オレッチも、完全に忘れてたものだ。覚えてたことといえば、時が来れば、指輪を受け取りに来る者が現れるってことくらいだったぜ」
「雑だよね」
「雑なのはソラリス達の方だろっ!」
そう言われれば、確かにそうかもしれないね。
あれだけ可愛がってたのに、自分たちの手で神樹ハーベストに送り届けなかったんだね。
何はともあれ、母さんたちはハナちゃんの魂を回復させるために、神樹ハーベストで眠りにつかせたってことだね。
それはなんとなく理解できたんだけど。
そもそも、どうしてそんな過去の時代に、ハナちゃんの魂が存在してたのかな?
今ある情報じゃ、何も分からないよね。
長い年月をかけて回復したハナちゃんの魂を、私がハナちゃんの身体に入れ直すことで、彼女は蘇った。
その際、私の魂とハナちゃんの魂が深く触れ合ったせいで、ハナちゃんも解放者になった。
イージス父さんのこともあったワケだし、変な話じゃないよね。
ペンドルトンさんに回答するなら、こんな内容になるんだけど。
これで納得してくれることを祈りましょう。
回答を聞いて考え込むペンドルトンさん。
出来ればこのまま、追加の質問は無しでお願いします!
心の中で、そんなことを念じてると。
ハナちゃんが階段からヒョコッと姿を現しました。
「ん。ハナちゃん。どうかしたの?」
「リッタ……あのね」
「うん」
「一緒に寝よ?」
「寝る!! お風呂入ってすぐに行くから! ちょっと待っててね!」
「うん。でも、良いの?」
「良いんだよ!」
良いよねっ!?
勢い任せで皆の顔を見渡した私は、すぐにお風呂に向かいました。
仕方ないよねぇ~。
ハナちゃんのお願いなんだもんっ!
一緒に寝たいって言うんだからさぁ。
会議なんてしてる場合じゃないでしょ!?
終始、ニコニコしてたベルザークさんが、任せて下さいとばかりに大きく頷いてたから、きっと大丈夫!
だ、大丈夫だよね?
ん~~~。
まぁ、全員大人なんだし、私が心配する必要ないよね。
そう思うことにした私は、いつもより念入りに身体を洗いました。
思いだしたくもない黒歴史だけど、一度ハナちゃんから臭いって言われたことがあるからね。
もう二度と、あんな心の傷は負いたくないのです。
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