第136話 ふれあうフタリ
カッツさんから受け取った1羽の折り鶴。
その折り鶴に、私は見覚えがありました。
見覚えがないワケ、ないよね。
色々とありすぎて、すっかり忘れちゃってたけど。
これは、ハナちゃんから私に宛てて書かれた手紙を、持って飛んでった子だよ。
目の前で渡すのは恥ずかしいからって言うハナちゃんのために、ちょっと遠回りをしてもらってたんだっけ。
……遠回りしすぎだよ。
震える手で、袋の中の紙片を取った私は、あの子らしいメッセージにくぎ付けになっちゃう。
『りったへ ずっと、ずっと、一緒にいよーね はなより』
ガマンしたくても、涙が止められないよぉ。
私も、ずっとずっと一緒に居たかった。
いたかったのに。
視界が涙で歪んじゃう。
単純明快なこの手紙から、別の意味なんて読み取れないよ。
何か意味があるのかもしれない。
そんな淡い期待を抱いてしまうのは、きっと、カッツさんの言葉のせいなのです。
『あの子が簡単に諦めると思ってるんスか!』
そうだよね。
私が、簡単に諦めてちゃだめだよ。
この手紙に、ハナちゃんの想いが込められてるかもしれないし。
そう思って、念のために意識を集中した私は、見覚えのある魂を目にしたのです。
それは、折り鶴が持ってた袋の中。
小さな、何か。
「これは……リン?」
袋の中にあったのは、ソラリスとイージスが持ってた指輪のリン。
そんな指輪の中に、母さんの魂が込められているのです。
ううん。
違うね。
母さんの魂が、また別の魂を取り囲んでるんだ。
「させぬぞ!!」
「シルフィード、お願い」
ライラックさんったら、野暮だよね。
これから、懐古の器を使おうとしてるのに、邪魔しようとするなんて。
でも、シルフィード・ドラゴンとサラマンダーが援護してくれるおかげで、ゆっくりと観ることが出来そうです。
『リン。これからアナタには長い間眠ってもらわなくちゃいけないの』
懐古の器を発動して、初めに聞こえてきたのは、ソラリス母さんの声。
今回は、映像は無いみたいだね。
母さんの言葉にリンが返事をすることなく、話が進んでいきます。
『アナタの魂は、とっても長い旅をしたせいで、ちょっと疲れちゃってるみたい。だから、回復させるために、お休みしなくちゃだめなのよ』
ちょっとだけ寂しいのかな、母さんのため息が聞こえて来る。
『正直、回復しきるまでにどれだけの時間が必要かは分からないわ。それでも、良いのね? 私としては、もう少し一緒に暮らしていたかったけど。うん、そうね。探してる人が居るんだもんね』
クスッと笑った母さん。
きっと、寂し気な目で、リンを見つめてたんじゃないかな?
『分かった。それじゃあ、始めるよ? リン。私はいつだって、アナタの傍にいるから。それから、いつかきっと、あなたの探し人が。リッタさんが、現れることを。私も祈ってるからね』
「リッタ……?」
聞き慣れた呼び名。
それは、ハナちゃんが私を呼ぶときの名前で。
母さんや父さんが、呼ぶことのなかった、呼び名。
ふと目を落とせば、ハナちゃんの思いが込められた、手紙がそこにある。
指輪の中の母さんの魂が、私の中に雑じり込んでくる。
そして残されたのは、小綺麗な指輪と、そこに込められた小さな魂。
頭を過るのは、父さんの事。
母さんの力で蘇った彼は、解放者になった。
でも、迷うことなんて無いんだよね?
だって、ハナちゃんは、ずっとずっと望んでくれてたみたいだから。
横たわってるハナちゃんに、膝枕をしてあげる。
そして私は、手にしていた指輪を、彼女の左手の薬指に填めました。
指輪に残されてた小さな魂を、彼女の身体へと移します。
どうしてかな。
初めてのコトなのに、違和感を感じないよ。
いつもの魂宿りの術より、しっくりくる感じ。
まるで、水を得た魚のように、ハナちゃんの身体に入り込んでく魂
直後、彼女の茶色い髪の毛が、一気に白く輝きを放ちだしたよ。
心なしか、顔色も良くなってきてる気がする。
どれだけの間、ハナちゃんの顔を覗き込んでたのかな。
気が付けば、私の涙を受けた彼女の鼻先が、ムズムズと動いたのです。
「ハナちゃん……」
「ぅん……リッタ?」
まるで寝起きの子供だね。
眠たそうな目を擦って私を見たハナちゃんは、驚きと共に、自身の頬っぺたを触り始めます。
「これ、夢?」
「そうだよね。私も、そう思っちゃいそうだよ」
「触ってるのに、夢じゃないの?」
「触れてるからこそ、夢じゃないでしょ?」
「ホントだ、夢じゃないよ」
「うんうん。夢じゃないんだよ。ホントなんだよ」
ハナちゃんが、私の頬っぺたをプニプニしてくる。
お返しに、私もハナちゃんの頬っぺたをプニプニしちゃおう!
膝枕から起き上がったハナちゃんは、ふらつきながらも、私に抱き着いて来たよ。
これ見よがしに、私もギューッとしちゃってもいいよねっ!?
っていうか、しないとだよねっ!?
フワフワな尻尾も、ピクピク動く耳も、全部愛おしいよ。
こんなに小さくて可愛いハナちゃん。
あぁ。
ホントに良かった。
ホントーに、良かったよ。
きっと私は、間違った選択をせずに済んだんだ。
この子と出会ったことも、森から出たことも、皆と一緒にここまで来たことも。
だってそうでしょ?
今、こうしてハナちゃんと一緒にいれるのは、私だけの選択じゃないのです。
皆に、感謝しなくちゃだね。
と、ここまでハナちゃんの事しか気にかけてなかったけど、なんか、周りの雰囲気が変だよ。
なんていうか、殺気立った感じが無くなってる。
もしかして、皆もハナちゃんの可愛さに心を打たれたのかな!?
なんて考えてたら、ベルザークさんの声が聞こえてきました。
「リグレッタさまぁぁぁ!! ハナちゃぁぁぁん!!」
うん。号泣しちゃってるね。
思わず呆れた私は、ふと、隣に立ってるハナちゃんと顔を見合わせる。
途端、ハナちゃんも私も、笑いが込み上げて来たんだよ。
仕方ないよね。
だって、よくよく考えたら、ついさっきまで私たちも号泣しながら抱きしめ合ってたんだから。
あぁ~。
恥ずかしくなってきたっ!
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