第133話 死神の役目
「あれは、邪龍ベルガスク!! ってことは、ライラックさんが居たの!?」
全然気づかなかったよ。
魂を見れば気づけたはずなのに。
隠れるのが上手なんだね。
って、今はライラックさんに感心してる場合じゃないかな。
「ごめんねキルストンさん。それからシルビアさんも。私ちょっと、行かなくちゃいけないみたいだから」
「はぁ!? おい待て! このクソガキがぁ!!」
そんな悪口言う人のお願いを、聞いてあげる必要は無いでしょ?
それよりも今は、邪龍ベルガスクの相手をしなくちゃなのです。
きっと彼は、不死の宣言に対して不満を持ってるはずだから。
私がこの戦場の皆に対して、不満をぶちまけたんだからね。
彼の不満を聞き届けるくらいは、してあげなくちゃ。
平等じゃないでしょ?
ノームとサラマンダーをその場に残して、シルフィード・ドラゴンと一緒にベルガスクの元に向かう。
どんな文句を言われるのかなぁ?
なんて考えてた私は、異変に気が付いたのです。
「あれ? 何か持ってるような?」
何か、というより、誰か?
え、ちょっと待って?
あれって、もしかして、ハナちゃん?
それに、ベルガスクの足の付け根辺りにカッツさんっぽい人もいるような?
「話を聞こうと思ってたけど、その前にやらなくちゃいけないことがありそうだね」
ハナちゃんに怪我とかさせてたら、許さないからっ!!
「ちょっとライラックさん! ハナちゃんに何したの!!」
「リグレッタ。これは仕方のないことだ。キミは本来の役目を思す必要がある。そのためであれば、吾輩はこの命をささげても構わない」
「何言ってるの? そんなことより、ハナちゃん怪我してるんでしょ? 今から治療するから、邪魔とか―――」
「やはりキミは、まだ状況を理解できていないようだ」
そう言った直後、ベルガスクは口から業火をまき散らしました。
私の所までは届いてないけど、近づこうとしてた小鳥たちが散らされちゃったね。
「うあっち!! 熱いっスよ!! くそっ! 早く抜けろよ!!」
「カッツさん! 大丈夫!?」
「俺は大丈夫っス!! それより、ハナちゃんが!! さっき、ベルガスクに踏みつけられてたっスよ!!」
「いまなんて言ったの!? 踏みつけられてたぁっ!?」
信じらんない!!
「シルフィード!! まずはハナちゃんを解放するよ!!」
「そう簡単に引き渡すと思わないことだ!」
そう叫ぶベルガスクは、再び業火を放つ。
放たれた炎は、瞬く間にシルフィードドラゴンに吸収された。
そりゃそうだよね?
風のドラゴンなんだもん、炎が効くわけないジャン。
そのまま追撃を仕掛けようとするシルフィード。
でも、なんか、変だね。
ベルガスクは全然動揺してないし、むしろ、炎と雷を纏ったシルフィード・ドラゴンを迎え入れようとしてるような……。
「っ!! 待って!! シルフィード!! 今、近づいちゃダメ!!」
「気を付けることだな、リグレッタ。命は簡単に奪えるのだろう?」
やっぱり!
ライラックさんは、炎を纏ったシルフィード・ドラゴンにハナちゃんを放り込むつもりだったんだ。
そんなことされちゃったら、ハナちゃんは命を落としちゃう!
ギリギリで気づけて良かった。
でも、どうしよう。
このままじゃ、手も足も出せないよ。
シルフィード・ドラゴンを解除する?
でもそうしたら、戦場全体の情報収集と小鳥たちの制御が疎かになっちゃうし。
そうだ、小鳥たちがいるじゃん!
元は万能薬で出来てる小鳥たちなら、ハナちゃんに触れても大丈夫!
あとは、ベルガスクの邪魔を掻い潜れるような子に変えてあげれば、良い話だよね?
「ハナちゃん!! 絶対に助けるから! もうちょっと待っててね!」
「ではその間に、吾輩は下の人間どもを皆殺しにしてやろう!」
「はぁ!? ちょっと、さっきから何が目的なの!?」
「死神が、死神の役目を果たすことだ! リグレッタ、君が果たさないと言うのであれば、吾輩が代わりを務めてやろう」
そんなの、余計なお世話なんだけど!?
もうっ!
意味が分かんないよ。
死神の役目って何のこと?
もしかして、命を奪えって言ってる?
結局、ライラックさんもそれが望みなの?
あれ?
でも、それじゃあ、どうしてハナちゃんをまだ生かしてるのかな?
「良く分かんないけど、それはまたあとだねっ!!」
口に炎を溜め込みながら、急降下をし始めるベルガスク。
その動きに気付いた地上の兵隊さんたちが一斉に逃げ始めたけど。
このままじゃ間に合わないかも。
お、そうでも無いかな?
状況を把握したのか、サラマンダーがベルガスクの落下地点に向けて走り出したみたい。
ノーム・ミノタウロスも後に続いてくれてるから、もしかしたらこのままベルガスクを地面に拘束できるかもだね。
ホントに優秀な子たちだぁ。
でも、まだ油断しちゃダメだ。
逃げ惑う兵士達。
そんな彼らを上手に避けながら、駆けるサラマンダーが立ち止まって頭上を見上げた瞬間。
急停止したベルガスクが、高度を保ちながら広範囲に炎をまき散らしました。
戦場の空を埋め尽くす熱気。
普通だったら、舞い降りるその熱気で、大勢の人が命を落としてたはずだよね。
でも、サラマンダーのおかげでそんな事態は避けられたのです。
「へぇー、そんなこともできるんだね!」
サラマンダーが大きな口で、舞い降りて来る熱気を吸い込み始める。
そんな様子にベルガスクが一瞬怯んだ瞬間。
構えていたミノタウロスが、手にしていた巨大な戦槌を勢いよく放り投げたのです。
惜しい!!
もうちょっとでベルガスクの翼を貫けそうだったのに!
ヒラリと躱したベルガスクは、高度を落としすぎたと判断したのかな?
また高度を上げ始めたよ。
でもね。
私が何も準備せずに見てたわけないジャン?
ノーム・ミノタウロスが、丁度いい感じの物を届けてくれたし。
「シルフィード!! 戦槌を!!」
そう叫んだ私は、小さな竜巻に絡めとられる戦槌に目掛けて、飛ぶ。
そして、傍に集めておいた小鳥と共に、戦槌を掴んだのです。
ベルガスクは飛ぶのが速すぎて、近づくのは難しい。
それに、ハナちゃんを掴んでるわけだから、まずは手を開かせる必要があるよね?
だったらさ、そもそも、腕ごと切り落としちゃった方が、手っ取り早いのでは?
気付いたのなら、後は実行に移すだけ。
上昇することに気を取られてる今がチャンスです。
回転する戦槌に小鳥たちを混ぜ込んで、巨大な鎌に作り変える。
そうして竜巻の回転力を活用しつつ、私は巨大な鎌をベルガスクの腕に向けて振り下ろしたのです!
「よいしょぉ!!」
「うがぁぁぁぁぁぁ!!」
思ったより切れ味が良かった。
腕を切り落としちゃったのは申し訳ないけど、今はハナちゃんが優先だね。
痛みで暴れてるベルガスクを無視して、落下する彼の腕に向かう。
よく見たら、反動でハナちゃんは手の中からはじき出されてるみたいだね。
落っこちちゃう前に、助けないと!
加速してハナちゃんの元に向かう私は、手にしてた鎌の柄で大きめの鳥を作る。
この鳥に、ハナちゃんを拾ってもらおう。
もう、すぐそばに迫った彼女を見て、私は安堵の息を吐いた。
……ホント、全然学ばないよね。私って。
苦しそうに顔を歪めてるハナちゃんに、なんとか安心してもらおうと、ニッコリ笑いかけたその瞬間。
落下してるハナちゃんのさらに下から、ベルガスクの尻尾が振り上げられてきたのです。
まるで、落下するハナちゃんを、もう一度空高くまで打ち上げようとするように。
そんなことをされたら、彼女を追いかけて急降下してた私に、ぶつかっちゃうじゃん。
触れちゃうじゃん。
「ダメ!! シルフィード!!」
何とかして!!
そんな言葉を叫ぶ余裕もない。
全力で、避けなくちゃ。
触れちゃダメ!
近付いちゃダメ!!
離れなくちゃ!!
距離を取らなくちゃ!!
ハナちゃんの命を守るために!!
一瞬で私の頭の中を駆け巡った思考は。
何の役にも立ちませんでした。
胸を打つ強い衝撃と共に、甘い匂いと、柔らかな感触が、私を包み込む。
「リッタァ……」
微かな、そんな短い声を遺して。
彼女は……ハナちゃんは……。
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