第130話 不死の宣言
不死の宣言。
他になんて言えばいいか分からないから、そう呼ぶことにしようかな。
私のその宣言は、予定通り戦場全体に届いたみたいだね。
私の様子が見えない場所からは、動揺のざわめきが聞こえて来るし。
逆に、デシレさんとのやり取りを見てた人たちは、完全に沈黙しちゃってる。
クラインさん達にも伝えてなかったから、敵味方関係なく混乱してるみたいだね。
その混乱も、長くは続きませんでした。
宣言の後しばらくしてから、プルウェア聖教軍の一部が、攻撃を再開したんだよ。
でも、皆が混乱してた時間のおかげで、準備は万端なのです。
怪我をした人は、空を覆い尽くしてる小鳥たちが治療してくれるし。
攻撃を指示した人は、シルフィードが風で攫って、私の目の前まで連れて来てくれる。
「こんにちは」
「くっ! 放せ!!」
「ダメだよ。だってあなたは私の許可なく、命を奪おうとしたんだからね」
シルフィードが連れて来る人たちは、軍隊の中である程度偉い人のようです。
中には、プルウェアの加護で攻撃して来ようとする人もいるけど、その攻撃はありがたく頂戴することにしましょう。
この場所での水は貴重だからね。
そうやって集めた水を使って、捕まえた偉い人達を片っ端から眠らせる。
ホントは地面に穴を空けて、その中に閉じ込めようと思ってたけど、眠らせた方が便利なのです。
ありがとう、シルビアさん。
それにしても、シルフィードが連れて来る兵隊は、プルウェア聖教軍の人ばっかりだなぁ。
一部、フランメ民国の人もいるけど。
ブッシュ王国軍に関しては、誰も居ないや。
「えーっと、まだ分かって無い人がいるみたいだから、もう一度言うね。私は死神リグレッタ。この戦場で命を落とすことを禁止します。これはつまり、命を奪うことも禁止だからね? 分かった?」
改めて、そんなアナウンスをした時。
サラマンダーの眼前に、一人の男の人が出てきました。
「あ。キルストンさんだ」
「おい、てめぇ。なにふざけたことを抜かしてんだぁ」
「ふざけてなんか無いよ? 私は本気だもん」
「何が本気だ! これは戦争だ!! 死人が出るのは当たり前だろうがぁ!!」
まぁ、そうなんだけど。
でも、戦争じゃなくても、人が死ぬのは当たり前じゃない?
何をそんなに怒ってるのかな?
「うん。つまり、キルストンさんは、私に文句があるってことだね?」
「あるに決まってるだろ。お前みたいなガキ、怖くも何ともねぇよ!」
「そっか」
躊躇ったりする様子も無く、両手にナイフを構えるキルストンさん。
本気みたいだね。
それじゃあ私も、本気で迎え撃たなくちゃかな。
一旦、右手を万能薬の山から抜き取った私は、サラマンダーの頭に跳び移る。
頭上にはシルフィード・ドラゴンもいるし、キルストンさんの背後は、ノーム・ミノタウロスが取ってくれた。
うん。
これは絶対に勝てるよね。
それにしても、キルストンさん勇気あるなぁ。
こればっかりは、認めるしかないです。
揺らぐことなく、一直線に睨み上げて来る彼。
今まさに、そんな彼が大きく一歩を踏み出そうとした。
その瞬間。
別の人影が彼の目の前に飛び出してきました。
「待って下さいまし!! キルストン! アナタ、何をしているのか分かっているのですか!?」
「あぁ!? うるせぇぞシルビア! そこを退け!」
「退きません!」
シルビアさんが止めに入って来ちゃったよ。
ノーム・ミノタウロスとシルフィード・ドラゴンが、どうしたらいいのか分からずに頭を傾げちゃってるや。
ちょっとだけ待っててね。
「シルビアさん! もしかして、アナタも私に文句があるの?」
「文句はありますわ!! ですが、こんなところで死ぬつもりはありません!!」
「何を言ってんだ! こいつを殺せば、全部終わるんだぞ」
「あぁ……自信に満ち溢れているその姿も、ステキ。ですが!! アタシはアナタを失うわけにはいかないのです!!」
シルビアさんは、本気でキルストンさんのことが大好きなんだなぁ。
気持ちはわかるよ。
私だって、ハナちゃんが死のうとしてたら、全力で止めようとするだろうし。
でも、本人が本気でそれを望んでるんなら、誰にも止める権利なんて無いとも思うんだよね。
そう。
止める権利はないんだよ。
死のうとすることも、死なないでほしいと願うことも。
つまり今、キルストンさんとシルビアさんは、自分で自分の生き方を決めてるんだ。
「邪魔するなって言ってんだろうが!!」
「嫌です!! 絶対に行かせません!!」
「ふふふ。2人とも、仲いいよね」
「なんだと!?」
「あ、ごめんごめん。つい、思ったことが口に出ちゃったよ。でもさぁ。それだけ仲良いんなら、戦争なんてせずに、このまま逃げちゃえば良いのに」
「このまま逃げるだと!? おい、馬鹿にしてんのか!」
「違うよ。駆け落ちすれば良いのにって言ってるの」
「か、駆け落ち!? あぁ……それは……いい響きですわね」
「おい、何ニヤけてんだシルビア!!」
怒ってるキルストンさんに対して、シルビアさんは嬉しそうだね。
やっぱり、お似合いだと思うんだけどなぁ。
キルストンさんの戦意も少し削がれちゃったみたいだし、そろそろ次の段階に進もうかな。
「あのさ、キルストンさん。私がどうしてこんなことを始めたのか、理解してるかな?」
「は? 綺麗ゴトを並べるガキってだけだろうがよ!」
「そうじゃないよ。これでも私、怒ってるんだからね」
「……怒ってる?」
全然そんな風には見えません。
とでも言いたそうに、シルビアさんが肩越しに私を見上げて来る。
これはやっぱり、ちゃんと言いたいことを言って、気持ちをぶつけなくちゃダメみたいだね。
シルフィードの風は、しっかりと声を届けてくれてるから。
不満を全部、ぶつけちゃおう!!
「怒ってるよ! だってさ。皆は私のことを死神だって言って、怖がったりしてるくせに。皆の方が簡単に命を奪ってるジャン!! 変な話だと思わない?」
「……は?」
「キルストンさん、いつもぶっ殺すとか言ってるけどさぁ、命を奪うのなんて簡単なんだよ? 誰だって出来るんだよ? そんな簡単なことで、強がられても、なんにもすごいとは思えないよ!」
「てめぇ」
「話し合いとか分かち合いが難しくてできないから、簡単に戦争とか暴力に頼っちゃってるんだよね? 諦めちゃってるんだよね? それってさ、本気じゃないんだよね? よわっちぃ証拠だよ! おこちゃまなんだよ!!」
簡単な選択を、選んでるんだ。
誰一人として、本気で生きることを選択してないんだよ。
「だから! 命を奪うこと、落とすことを選択肢から奪ってあげる! 今日はまず、この戦場だけだけど、いつかは、全世界から奪うからね!!」
「な……何を言って」
「死ぬ時は寿命だけ。それ以外は許さないから。そうすれば、誰かの言いなりになって戦うことも、飢えることも、盗みを働くことも。必要なくなるでしょ?」
ふぅ。
思ってたこと全部吐き出したら、ちょっとすっきりしちゃった。
少しは、私の考えが伝わったかな?
あぁ……。
なんか、茫然って感じだね。
2人だけじゃなくて、戦場全体が静かになっちゃったよ。
でも取り敢えず、今の所は誰も文句はなさそうだから。
このまま今日はどちらの軍隊も引き返してもらおうかな。
なんて考えてた時。
微かな騒めきが起こりました。
場所は、フランメ民国軍後方。
ハナちゃん達が居る場所の近くです。
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