第127話 破壊と変化の力
「せーのっ!! ひっぱれ~!」
戦争が始まってから3日目のお昼ごろ。
神樹ハーベストの中には、私の声とエントさん達の枝が擦れる音が響いていました。
森の中、エントさんと私に取り囲まれてるネリネ―――もとい、ガブちゃん(仮)の姿。
なんだか、見た事のあるような光景だよね。
まぁ、それもそのはずです。
同じことを、前にもやったことがあるんだから。
前回は、ハナちゃん達と造り上げたネリネを載せる作業だったけど。
今回は、載ってるネリネを降ろす作業だよ。
ここのエントさんは、私が作ったエントさんよりも背が高くて大きいから、作業は簡単になってる。
ミシミシと軋むネリネを、そーっと持ち上げたエントさん達は、そのまま地面に降ろしてくれました。
なんだかんだ言って、ここまで長い道のりを歩いてくれたガブちゃん(仮)には、感謝しなくちゃだよね。
きっとネリネ自体も痛んでる部分とかあるはずだから、ちょっとメンテナンスをしておこうかな。
なんてことを頭の片隅で考えつつ、私は作業を手伝ってくれたエントさん達に、大きく手を振ります。
「ありがとー! 助かったよ! 今度、良い土壌があったら持ってくるね!」
ガサガサって枝を振りながら去ってくエントさん達。
きっと楽しみにしてるって意味だよね?
さぁ、エントさん達が森の中に戻って行くのをボーっと眺めてる場合じゃないのです。
ここからが、私のお仕事なんだから。
「サラマンダー。こっちにおいで」
そう言う私の元に、フラフラと歩いてきたサラマンダー。
神樹ハーベストの中で居心地の悪さを覚えてそうだね。
そんな彼は、不眠の山からハナちゃん達を載せて飛んでくれた子なのです。
あの時は本当に助かったよね。
でも、途中で気が付いたんだ。
サラマンダーの身体は、もうボロボロなんだよ。
足を引きずってるし、尻尾の先端も切られちゃってるし。
全身の鱗も剥がれまくっちゃってる。
それでも、火炎砲として利用価値があると思われたのかな?
所々《ところどころ》を補強するように、金具とかが取り付けられてるんだ。
きっと、痛いよね?
だって、少し動くだけでも、痛みに耐えてるようなもどかしさが見て取れるし。
「キミに、新しい身体を準備するから。ちょっと待っててね」
ホントはお風呂とかに入れてあげたいけどさ。
生憎、ドラゴンが入れるような広いお風呂は準備できないかな。
このあたり、本当に水が少ないからね。
いつか一緒にお風呂を作って、入りましょう。
並び立つサラマンダーとガブちゃん(仮)。
彼らの身体をそっと撫でつけた私は、込めてた魂を回収しました。
回収した魂を練り合わせる。
その過程で、私は胸の内に湧き上がってくる想いを混ぜ合わせることにしたよ。
サンクトリア砦で見た、溶岩みたいな感情。
ドロドロでグツグツで、燃え上がるようなその感情は、きっと彼も共感してくれるはずだからね。
この戦争で私がやりたいことに、全力で取り組むためには、必要な要素だと思うのです。
「さて、魂の方もだけど、身体の方も作らなくちゃだよね」
これから作るのは、サラマンダーの身体。
ホントを言えば、同じようなドラゴンの身体にするのが良いんだろうけど。
翼に関しては、同じように作れる自信が無いよ。
形は出来るんだろうけどね。
実際にこの巨体で飛べる形を作るのは、また別問題ってわけなのです。
最悪の場合、ただのお飾りになっちゃうもんね。
でも、良いアイデアはあるんだよ?
要は、ガブちゃん(仮)みたいに地面を歩ける身体にしてあげればいいんだよね。
つまり、トカゲみたいな身体はどうかなと思ってる。
「ガブちゃん(仮)の身体を元にして……かっこよく作り変えてあげれば……こんな感じかな?」
ドラゴンっぽさを少しでも出せるように、頭に角を付けてみたり。
鱗はちょっと光沢を出せればいいよね。
うん。良い感じのトカゲが完成!
これならきっと、サラマンダーも喜んでくれるはずだよ。
「よし。それじゃあとは、魂宿りの術だけかな」
仕上げに、じっくりと練り込んだ魂を宿すだけ。
でも、ここでひと手間が必要なんだよ。
『ひでんのしょ』5冊目の39ページに書かれてるサラマンダーの作り方は、他のページよりも注意点が多く書かれてるのです。
「まぁ、わざわざ火の中に手を突っ込まなくちゃだから、普通はやらないよね」
危ないから、エントさん達には離れて貰ってるし、ハナちゃん達も呼んでないんだよね。
無駄に心配させるのも、悪いからさ。
「火は破壊と変化の力……かぁ。楽しみだね」
あらかじめ準備してた焚火に火を起こす。
そう言えば、久しぶりに火打石のウッティを外に呼んだ気がするよ。
ネリネが完成してから、ずっと風呂釜の所で頑張ってくれてたからなぁ。
あとで、何か不満とか無いか聞いておこう。
「よ、よし。それじゃあ。やるぞ。ちょっと熱いだけ、うん、ちょっとだけなハズだよね? 万能薬もあるし、大丈夫。大丈夫……」
分かってても、やっぱり躊躇しちゃうな。
でも、やらないとダメなのです。
「っ!」
意を決して、練り込んだ魂と一緒に右手を焚火に突っ込む。
この痛み、前に戦った邪龍ベルガスクを思い出すなぁ。
そう言えば、ライラックさんはどうしてるんだろ……?
「ぅぅぅぅ……別のこと考えて気を紛らわす作戦は、失敗かなっ」
でも、ちゃんと焚火に魂を宿せてるはず!
でたらめにユラユラ揺れてたはずの炎が、まとまりを見せ始めてる。
その状態の炎を手で掬って、さっき造り上げたトカゲの身体に押し当てましょう。
そうすれば、ほら!
まるで溶けるように魂が岩のトカゲに馴染んでいくよ。
おぉ。
さっきまで岩肌だったトカゲが、見る見るうちに生き物みたいに動き出しちゃったよ。
これが、変化の力ってコトかな?
「キミの名前は、サラマンダーだねっ。よろしく」
ずっとガブちゃん(仮)って呼んでたけど、ここに来てようやく名前が確定した気がするよ。
ふぅ。
今日の作業はこれで終わりかな。
後片付けは残ってるけど……っと、そうだ。
もう1つ、やるべきことがあるんだよね。
「お墓って、どんな感じで作ればいいのかな?」
傷だらけのドラゴンの遺体を、弔ってあげなくちゃだよね。
またハナちゃんを怒らせちゃうところだったよ。
その後、夜の神樹ハーベストの中では、ひっそりとドラゴンの埋葬が行われました。
フランメ民国の人たちからすると、長年苦しめられた敵の兵器って認識なんだって。
なんだか可哀そうだよね。
この子はただ、勝手に利用されてただけなのにさ。
それはきっと、プルウェア聖教軍で戦ってる兵士も同じはずなのです。
「はっきりさせなくちゃ」
埋葬を終えて、神樹のテラスからまだまだ真っ暗な東の空を眺めながら、そう呟く。
3日目が終わって行く。
早く明日が来ないかな?
そう思ってるのは、私だけなのかもしれないね。
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