第126話 準備も佳境
「リグレッタ様。なぜ、一緒に戦ってくださるのですか?」
「一緒に戦ってくれってお願いしてきたのはベルザークさん達でしょ? 今更何を言ってんの?」
「ですが……」
開戦1日目の夜、夕飯時にそう尋ねてきたベルザークさんは、何か違和感を覚えてるみたいだね。
その違和感を解消してあげるのは出来るんだけどさ。
どうにも気が乗らないのです。
これはきっとあれだね。
ラフ爺が言ってたみたいに、死は平等ってコトなんだと思うよ。
今この場で教えちゃうのは、きっと不平等だから。
それに、私がしようとしてることは、ベルザークさんにも知られない方が良いと思うのです。
勘ぐるベルザークさんの視線を掻い潜るため、女風呂に逃げ込んだ私は、今日1日の疲れを癒すのでした。
そして、あくる日の朝。
再び姿を現したプルウェア聖教軍を迎え撃つ戦いが始まります。
その戦いは、1日目よりも難しいものになったんだよねぇ。
敵の侵入を阻んでくれてたゴーレムの壁を、強力な大砲が壊しちゃったんだ。
「あの大砲、威力ありすぎじゃない?」
「火炎砲と同じ弾を使ってるみたいだな。まぁ、火炎砲に比べると威力は大幅に劣るけども」
テラスから見える砲撃の様子を、クラインさんはそう評しました。
あれよりも威力が強いって、火炎砲、ホントにヤバかったんだね。
壊滅してた集落跡は、当然の結果って言っても良いのかも。
そう考えると、それだけの攻撃を受けながらも耐え続けて来た神樹ハーベストって、すごいんだなぁ。
「感心してる場合じゃないね。この分だと、近い内にゴーレムを補充しに行った方が良いかな」
「あんだけ渋ってたくせに、やるとなれば容赦ないよな」
「あ、あはは。そうかな?」
ベルザークさんだけじゃなくて、クラインさんにも勘ぐられてる気がするね。
彼の目はちゃんと木目で、節穴ではないようです。
なんとか話を逸らせないかな?
なんて考えてる私の視界に、カッツさんが映り込んだ。
テラスからずっと下の樹下街で、誰かと話してるみたい。
誰だろ?
私の知らない人ってことは、間違いないね。
立ち話もほどほどに、カッツさんは本来の仕事である物資の運搬に戻ったみたいだね。
サボってるようだったら、あとで注意しなきゃと思ったけど。
意外とマジメなんだよね、彼って。
ゴーレムの壁が破られ始めてるせいで、運搬班と医療班も、昨日より忙しそうだね。
チラホラと怪我人が運ばれてきてるし。
やっぱりプルウェア聖教軍は、手強い相手のようです。
「やっぱり、昨日は様子見だったみたいだな」
「様子見? あぁ、壁の突破方法を確認する為ってコトかな」
「それもあるけど、前線を良く見てみろ。やつら、既にプルウェアの奇跡を投入してきてやがる」
「プルウェアの奇跡って何?」
「そんなことも知らねぇのかよ」
知らないものは知らないんだから、仕方ないよね!?
そんな言い方されたら、さすがの私もイラついちゃうよ?
そんなことを考えてることが視線越しで伝わったのかな?
溜息を吐いたクラインさんは、翼で前線を指しながら説明してくれました。
「ほら、奴らがいろんな場所で水柱をあげてるだろ? ああやって、水を操って戦う魔法使いみたいな奴らが、プルウェア聖教軍には居るんだよ」
「それって厄介なの?」
「当然だ。奴らが使う水流は、岩を穿つことが出来る威力を持ってる」
「え、そんな威力がでるの?」
「あぁ、それに、もっとヤバいのが、バーサーカーって奴らさ」
「なにそれ? あ、『そんなことも知らねぇのかよぉ』はナシだからね!」
「おい、それはオレッチのマネのつもりか? バカにしてんのか?」
それはこっちのセリフだもんね!
ちょっとの間睨み合う私たち。
あぁ、不毛な時間だ。
「で? バーサーカーって何なの?」
「プルウェアの奇跡を、身体に対して発動させた奴らの事さ」
「え? そんなことしたら、穴が空いちゃうんじゃ!?」
「使い方が違うんだよ! 奴ら、身体の中の水を活性化させて、身体能力を向上させるんだ」
「そんなことが出来るんだね」
「何言ってる。お前さんも既に見ただろ?」
「え?」
私、バーサーカーなんて見たっけ?
少なくとも聞いたことは無いような。
「ベルザークだよ」
「ベルザークさん? え、もしかして、昨日正気を失ってたあれが?」
「そうだ」
「そうなんだ。でもどうしてベルザークさんがバーサーカーになれるの? もしかして、プルウェア聖教国に居たとか?」
「違う。あいつはこの国で生まれ育ってるぞ。ただ、戦争の中で、奴らと関わることが多かった分、手に入れた物があったってだけだ」
手に入れた物?
もったいぶらずに、教えてくれたらいいのにね。
「早く教えてよ」
「せっかちなガキちゃんだぜ。ベルザークは、プルウェア聖教軍の兵士が持ってる携帯薬に気付いたんだよ。それを飲んだことで、バーサーカーになるチカラを手に入れたのさ」
「薬?」
「あぁ。それを飲むだけで、驚異的な身体能力を手にすることが出来る。普通は、一定時間で効果が切れるんだけどな。ベルザークは、1度飲んだだけで、常にバーサーカーになれる身体になったらしい」
常にバーサーカーになれる身体?
そんなこと、全然言ってなかったよね。
正気を失ってた彼は、すごく辛そうに見えたけど。
そこまでして、戦いたかったってことなのかな?
「そっか」
「思ったより反応が薄いな。もっと、いろいろ言われると思ったぜ」
「言いたいことはあるけどさ。薬を飲んだってことは、彼が自分で選択したってことでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「だったら、私がとやかく言うような話じゃない気がするんだ」
「ふーん。そんなもんか」
そんな会話をした後、私達は各々の持ち場に戻りました。
私の場合、持ち場って言うか、薬の準備だけどね。
けが人が出始めたから、薬の使い道はいくらでもあるのです。
あればあるだけ使えるから、作りすぎなんてことはないんだよね。
そうこうしている間に、2日目も過ぎて行く。
けが人は結構出たみたいだけど、エント軍の加勢もあって、持ちこたえたようです。
さて、明日で3日目だね。
準備も佳境に入って来たって感じです。
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