第125話 我儘
不眠の山から戻って来た私は、クラインさんに1つ提案をしました。
準備が整ったら、戦争に参加しても良いよ。
そんな提案を聞いたクラインさんは、案外驚いてなかったように見えたんだよね。
実は、私が心変わりするのを狙って、不眠の山に行くよう仕向けてたりして。
実際、あそこでは色々と考える事もあったよね。
というワケで、私達は戦争に向けての準備を進めているところなのです。
昨日、正気を失ってたベルザークさんも、夜には回復したしね。
気を取り直して、神樹ハーベストの中で、万能薬づくりを進めて行きましょう!
そう張り切ってた私達の耳に、嫌な報せが届いたのが、ついさっきのこと。
慌てて神樹のテラスに上がって、南西の方角を皆で凝視しているところなのです。
一緒に来てるのは、ハナちゃんとカッツさんだけなんだけどね。
ベルザークさんはフランメ民国軍の緊急会議で、残りの皆には、万能薬づくりを続けて貰ってるんだ。
「あちゃ~。ほんとに居るねぇ」
「あれが軍隊っスか……」
「リッタ、あの人たち、何しに来てるの?」
「ここを攻撃しに来てるんだって」
「悪い人ってこと?」
「さぁ、どうだろうねぇ」
「どっちにしても、敵ってコトっすよ」
カッツさんの言うことは正しいんだけど、なんか、ハナちゃんには聞かせたくなかったなぁ。
「カッツさん、万能薬の方は任せてもいい? ちょっと、あっちの対応もしておきたいから」
「分かったっス。でも、条件が整ってないのに、前線に行くつもりっスか?」
「戦いに行くわけじゃないよ。ただ、ゴーレムくらいは作っておこうかなって」
「なるほど」
「ハナちゃんも、カッツさん達と一緒に戻っててね」
「ん。すぐ戻ってくる?」
「うん。ある程度ゴーレムを作ったら戻るから」
「分かった」
神樹ハーベストの中に戻ってく2人。
それじゃあ私も、行きましょうかねぇ。
「それにしても、来るのが早すぎだよね。もしかして、昨日のせいかな?」
不眠の山のサンクトリア砦、そこにあった火炎砲を持って帰って来ちゃったからね。
言われてみれば、心当たりしかない気がするよ。
テラスから樹下街の上空に飛び立って、私は南西に向かう。
どのあたりが良いかなぁ。
後のことを考えたら、ある程度広い場所が良いと思うんだよね。
というワケで、壊滅した廃村の少し奥、ちょうど神樹ハーベストと不眠の山の中間に私は降り立った。
クラインさん達には何も相談してないけど、まぁ、良いよね?
荒れ果てた土地に両手を添えて、私はゴーレムを作ってく。
形は、そうだなぁ。
ラクネさんとラービさんにしとこう。
荒野のど真ん中に、沢山のアラクネとキラービーが居たら、さすがのプルウェア聖教の人たちも足を止めてくれるはずだよね?
「命令は、敵の足止めに設定して……なるべく、殺さないようにしてもらおうかな」
私の準備が整った時に、敵が全滅してましたなんて状況になってたら、何も意味がないのですよ。
ちゃんと、生きててもらわないとね。
「よしっ。このくらいで良いかな」
これって、実は後でかなり怒られたりするのかな?
まぁ、気にしないけどね。
そもそも、私がこんな回りくどいことをしなくちゃいけないのは、皆のせいでもあるんだからね。
冷静になるように努めてるけど、私は結構怒ってるのです。
あ、もしかしてソラリス母さんも、怒ってる時はこんな感じの心境だったのかな?
「沢山怒らせちゃってたなぁ。ごめんね、母さん」
私がそう呟いた瞬間、不眠の山が大きく噴火しました。
もしかして、母さんの返事だったりして?
なんてね。
小さく呟いたんだから、あの山まで聞こえるわけ無いよ。
でも、そっか。
これだけ広い場所だから、ちゃんと皆に聞こえるようにしなくちゃだね。
この戦争で私がやりたいこと。
それは、皆の選択を聞くことなんだから。
問いかける側の声が届いてなかったら、意味がないのです。
「声は風に乗せるとして……皆の注目も集めなくちゃだよね? どうすれば、みんな私のことを見てくれるかな?」
取り敢えず、目立つためには大きさが重要なのかもしれません。
その意味では、火炎砲としてこき使われてたサラマンダーが、適任かな?
でも、身体がボロボロだったんだよね。
長い間頑張ってたみたいだし、そろそろ休ませてあげたい気持ちもある。
そうなると、別の子を用意するしかないのかな?
あっ。
あの子なら適任なんじゃない!?
我ながら良いアイデアが出て来たよ。
その分、色々と準備しなくちゃいけないことが山盛りです。
万能薬も作らなくちゃだし。
急いで神樹ハーベストに戻りましょう。
あの中は、薬の材料がいっぱい揃ってるからね。
盗賊団の皆が作業に慣れてくれててよかったぁ。
これなら、5日ほどで準備は整うと思うよ。
ずらっと並んでるゴーレム達に後を任せて、私は神樹ハーベストに戻りました。
その数時間後、荒野に現れたプルウェア聖教の軍隊が、ゴーレム達と接敵したんだって。
でもまぁ、誰一人としてゴーレムの壁を越える人はいなかったらしいから、作戦成功だね。
もし、火炎砲が残ってたらと思うと、状況は変わってたのかもしれないけどさ。
1日目の戦果としては、十分でしょう。
クラインさん達も、私がゴーレムの壁を作ったことを怒って無かったし、心配しすぎだったかな?
一部、戦争なのに敵を全然殺せてないって、怒ってる人はいたけどね。
そんな我儘に付き合ってあげるつもりは無いんだよ。
だって私は、死神なんだよ?
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