第122話 火炎砲
「あっちも、そっちも!! たくさん来てるよ!! 右の方が近いと思う!」
「ハナちゃんありがと! 他にも来てたら、すぐに教えてね!」
「うん!」
前々から知ってはいたけどさ、ハナちゃんの耳は本当にすごいよね。
小さな音を聞き逃さないだけじゃなくて、正確な聞き分けまで出来るんだから。
沢山の追手から逃げてる今みたいな状況で、重宝する力なのです。
「で、こっちに行けば火炎砲があるんだよね!?」
「そのはずです!!」
力強く頷くのは、さっき解放した男の人だよ。
一緒に解放した人たちと一緒に、私達に着いて来てるのです。
なんでも、火炎砲の場所を知ってるっていうから、案内してもらってるんだ。
ベルザークさんが正気を失ってる今、頼れる人は他に居ないからね。
それにしても、風で拘束してるベルザークさんが、ぐったりしてるように見えるけど、大丈夫かな?
浮かべたまま運んでるから、揺れすぎで気分悪くなってたりしないよね?
まぁ、鍛練してるから大丈夫だよね。
うん、大丈夫なはずだよ。
少しずつ迫ってくる追手の包囲網を、ハナちゃんの耳で回避しつつ、時々突風で吹き飛ばしながら突き進む私たち。
程なくして、1つの扉に行きついた私は、勢いよく開け放ちました。
途端に、外の熱気が身体に纏わりついて来たよ。
噴き出る汗も、すぐに乾いちゃうくらい熱いね。
「あれが火炎砲です!」
立ち止まることなく、外に駆け出した男が、左手の方を指さした。
さてと。あとは火炎砲を壊してしまえば、ここから逃げて終わりだね。
そう思ってた私は、それを目にして一瞬理解できなかったのです。
「え? これが、火炎砲?」
「はい! そうです!」
「リッタ……これって」
怯えるハナちゃん。
それもそのはずだよね。
だって、火炎砲って呼ばれてるそれは、邪龍ベルガスクの姿にそっくりなんだもん。
「い、生きてはいないんだよね?」
「もちろんですよ」
つまり、火炎砲は邪龍ベルガスクの亡骸を使った兵器ってこと?
よく見たら、体のあちこちに補強っぽい板とかが打ち付けられてるね。
こうなってくると、さすがに可愛そうだよ。
っていうか、え? タイラーさん―――じゃなくて、ライラックさんはどうなったの?
さすがにこの火炎砲がライラックさんってワケじゃないよね?
戦争で何度も使われたことがあるってことは、火炎砲と彼は別だってことだし。
それにしても困ったなぁ。
これじゃ壊しにくいよね。
てっきり、作られた物だって思ってたのに。
まさか、生き物を改造してるなんて、思わないじゃん。
「これなに?」
火炎砲の傍に積まれてる鉄の箱。
その中に入ってる真っ黒な球を指して、ハナちゃんが尋ねました。
「それが火炎弾です。溶岩から作る必要があるので、ここに砦が建てられていると聞いています」
「ふ~ん」
「それじゃあ、この弾を全部持って行っちゃえば、撃てなくなる?」
「そうですが、砦には大量に在庫があるので、すぐに補充されると思います」
「そっか」
じゃあやっぱり、火炎砲の方をなんとかしないとダメだね。
「リッタ! 足音が近付いて来てるよ!」
「ホント!? マズいなぁ……」
どうすれば良いかな?
このまま皆で逃げるだけでも大変そうなのに、壊し方で悩んでる場合じゃないよね。
「こういう時、父さんと母さんなら……」
どうしたんだろう。
そんなことを考え始めた私は、既にその答えを知っていることに気が付きました。
「そうだ! 風の台地だ!」
「リッタ? どうするの?」
「みんな、火炎砲の上に乗っかって! すぐに始めるからね!」
私の声を聞いて、火炎砲に真っ先によじ登り始めるハナちゃん。
彼女にベルザークさんを預けている間に、他の皆もよじ登り始めました。
あとは、私が火炎砲に魂宿りの術を施すだけですね。
どうせなら、もっとカッコいい名前を付けてあげたいな。
「そうだ、君の名前はサラマンダーで良いんじゃないかな? まだ使えないけどさ」
両手を硬い鱗に添えて、魂を流し込む。
あれ?
この感じ……母さん?
薄すぎて全然気づいてなかったけど、仄かにソラリス母さんの魂を感じるよ。
もしかしたら、懐古の器を見れたかも。
なんて、そんな暇は無いんだけどさ。
「いたぞ!! 捕まえろ!!」
勢いよく開く扉から、沢山の兵隊さんが駆けつけてくる。
でも、ちょっと遅かったね。
それは兵隊さんたちも理解したみたいなのです。
そりゃそうだよね?
死んでたはずのドラゴンが、目の前で動き出したんだからさ。
「みんなしっかり掴まっててね!! このまま飛んで逃げるから!」
サラマンダーの背中に乗ってる皆にそう声を掛けた私は、固い鱗を撫でつける。
「よしっ! いくよサラマンダー! 君はもう、自由なんだから!!」
大きな翼が風を掴み、サラマンダーがゆっくりと上昇を始める。
そんな彼に寄り添いながら、私も風に乗ります。
このままサラマンダーを連れて帰れば、火炎砲を破壊したのと同じだよね。
クラインさんから、文句も言われないはずだよ。
後はまぁ、皆の元に戻ってから考えよう。
色々と、知りたいことも出て来たし。
やっておくべきことも、見えた気がするからね。
でもまあ、帰ってまず初めにやることは決まってるよね。
「ハナちゃん、帰ったら……」
「お風呂っ!」
「だねっ!」
嬉しそうなハナちゃん。
気持ちはわかるよ。
汗かいたし、大変だったし、火山の周りって変なニオイがするからね。
すっきりさっぱりしたいのです。
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