第119話 喧嘩っ早い
ハナちゃんの案内でたどり着いた先には、沢山の人が居ました。
でも、皆で仲良く集まってるって感じじゃないね。
さっき見た人たちと同じように、ボロボロな服を着てる人たちは皆、壁に拘束されちゃってる。
口まで閉ざされてるから、会話もできないみたいだよ。
自由に動けてるのは、黒髪で細身の男の人と、ドレスを着た女の人、そして水色の長髪に青いスーツを着てる男の人くらいだよ。
3人とも壁の方を向いてるから、私達には気づいてないみたい。
廊下から覗き込んでる感じだけど、ちゃんと隠れてないとすぐに見つかっちゃいそうだね。
「あれって、前に会合に来てた2人だよね?」
「襲撃に来てた、が正しいところですが。そのようですね」
黒髪の男の人とドレスの女の人は、やっぱりあの2人みたいです。
こんなところで会えるとは思ってなかったよ。
水色の髪の人は、知らない人だね。
「ねぇおいたん。あの人たち、何してるの?」
「詳細は分かりませんが、恐らく、彼らは罰を受けているところなのでしょう」
「罰……」
ベルザークさんが言う『彼ら』ってのは、間違いなく壁に拘束されてる人たちだよね。
そして、罰を与えてるのは、あの3人かな。
その推測が正しいかどうかは置いておいて、一つ気になることがあるのです。
「一番端っこの人、死んじゃってる」
「っ! それって、さっき声が消えた人かな?」
「しっ! 2人とも、奴らが何か話しています」
声を潜めながら、そう呟くベルザークさん。
確かに、あの3人がどんな話をしてるのかは、私も興味があるかも。
今日の夕ご飯とか、そんな話題じゃないよね?
「この世に生を受ける、それがどのような意味を持っているのか、あなた方は理解しているのでしょうか? そう! 命とは授かりモノなのです。主より授かった命。その命を何に使うべきなのか、私達は常日頃から考え、感謝し、探求しながら、生きていかなければなりません」
誰も返事をしない。
ううん、違うね。
水色の髪の人は、誰かの返事を待ってすらいないみたいに、1人で話し続けてるよ。
「しかしながら、この世界にはそれを理解せずに、のうのうと自堕落に生きながらえている者が多くいるのです。そのようなことは、許されていいワケがありません。その点においては、あなた方は幾分かマシな生き方をしてきたと言えるでしょう」
「ぅーーーーっ。ぅーーー」
気持ちよさそうに演説する水色の男。
そんな彼の目の前で拘束されてる1人の男の人が、首を横に振りながら呻き声を上げた。
きっと、この声をハナちゃんが耳にしたんだね。
「我らが主のため、その命を賭して働いてきたこと。ここに感謝を表明しよう。ありがとう」
呻く男の人を完全に無視して、水色の男が深々とお辞儀をした。
意外と礼儀正しいのかもしれないね。
なんて考えてると、ハナちゃんが耳をピクッと動かして、一歩後退った。
「ハナちゃん?」
「いま、あの人、助けてって」
「え?」
そう言われてもう一度拘束されてる男の人を見てみると、うーん、確かに、私達の方を見てるような気もするね。
「ダメですよ、リグレッタ様」
「でも」
「そろそろ行きましょう。奴の御託は、耳に入れるだけでも不愉快です」
そう言って立ち去ろうとするベルザークさん。
一度、顔を見合わせた私とハナちゃんが、仕方なく彼について行こうとしたその時。
部屋の中から、バシンッって音が聞こえて来たのです。
慌てて覗くと、水色の男の人が、手に持った鞭を拘束された男に向けて打ち付けていました。
「働けなくなったあなた方には、何一つ価値などありません! ですのでっ! このまま死んで頂きます。そうして、善人として生まれ変わってください。これはそのための、愛の鞭なのですっ!」
男は叫びながらも、痛そうな鞭の一撃を振り続けてる。
これが愛の鞭って、さすがにムリがあるよね。
「ちょっと、これはもう―――」
止めなくちゃ。
そう言おうとした私は、視界の端を駆け抜けていく影を目にして、唖然としちゃいました。
だって、ベルザークさんが部屋の中に駆けこんで行っちゃったんだもん。
背負ってたはずの剣と盾まで取り出しちゃってるし。
ホント、喧嘩っ早いよね。
「ベルザーク!? どうしてあいつがここに!?」
「驚いてる場合じゃねぇ! 迎撃するぞ、シルビア!!」
「おやおや、なにやら臭いとは思っていましたが、まさかここまで侵入しているとは」
水色の男に勢い良く飛び掛かるベルザークさん。
そんな彼を止めたのは、黒髪の男とドレスのシルビアさんだね。
「クソ坊主が!! 血迷ったか!!」
「それはこちらのセリフだ!!」
「理解できていないようですので教えて差し上げますが、お前に勝ち目などありませんのよ!!」
「2人共、客人なんだ、丁重に対応をしてあげてくださいね」
はぁ。
私に敵前に飛び出したりしないように言ったくせに、自分が飛び出して行っちゃうんだもんなぁ。
さすがのベルザークさんでも、2人を相手にするのは簡単じゃなさそうだね。
今はまだ、水色の男の人が参戦してないから、大丈夫そうだけど。
それはつまり、3人目が入ってきた時点で、危なくなるって意味なのです。
「リッタ……」
「分かってるよ、ハナちゃん。おいたんを助けに行こうか」
「うん!」
そう言えば、風の台地で見た雷の術も試せてなかったし。
丁度いいかもしれません。
右の掌に息を吹きかけて、風の塊を練り上げていく。
そんな作業をしながら、私は部屋の中に一歩を踏み入れたのです。
「2人とも久しぶり! リグレッタだよ。覚えてるかな? あ! そう言えば、手紙を出してたんだけど、読んでくれた?」
「っ!? 死神っ!?」
「こんのクソガキがぁ!!」
「……死神からの手紙? それはどういう意味でしょうか?」
驚きと怒りと疑問。
3人の反応はバラバラだけど、私のことは分かってくれたみたいだね。
だったら話が早いかもしれません。
取り敢えず、手紙のお返事を送ってくれない理由を聞くのは後にしておきましょう。
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