第117話 侵入方法
不眠の山に向かうにあたって、私達は徒歩で神樹ハーベストを出発しました。
ネリネで向かうとすぐにバレちゃうから、ダメだよね。
風の道で行ければ良かったんだろうけど、それもベルザークさんに止められちゃったよ。
頻繁に噴火を繰り返してるから、上空は危ないんだって。
それに、敵だって警戒してるだろうから、可能な限り慎重にことを進めたい。
って言うのが、彼の主張だね。
正直、戦争のことは良く分からないから、ここはベルザークさんの提案に従っておきましょう。
「それにしても、すごい場所だね」
「石ころばっかり……」
「このあたりには元々、集落があったと聞いています。まぁ、いまとなっては廃墟ですが」
「誰かに壊されちゃったの?」
「これがまさに、火炎砲の威力ですよ」
そうなんだね。
地面が所々抉れてたり、破片の一部が溶けてしまってるように見えるのは、そういうコトなんだ。
うぅ。
もしかして、かなり重要な役割なんじゃない?
っていうか、こんな威力の攻撃を受けて来たのに、神樹は燃えたりしなかったんだね。
それはそれですごいなぁ。
感心しつつも、廃墟の中を速やかに通り過ぎた私達は、そのまま山の麓まで急ぎます。
でも、こんな緩やかで遮蔽物のない場所を登ってたら、見つかるんじゃないのかな?
なんて考えてたら、先導してるベルザークさんが急に進路を変えたよ。
「こちらです。この先に切り立った崖がありますので、そちらから裏に回り込みましょう」
「なるほどね、分かったよ」
「崖を登るの? 私の出番!?」
「ハナちゃんの活躍も見たいところですが、今回はリグレッタ様に道を作って頂きたいところですね」
「むぅ」
見せ場が無くなったことに機嫌を損ねちゃったハナちゃん。
ちょっと楽しそうに見えるね。
でも、真面目なお仕事なんだから、遊んじゃダメだよ?
「分かった。崖に階段を作るね。それとハナちゃん。いつどこに見張りの人がいるか分からないから、鼻と耳を使って、周りを警戒しててね」
「ん! 分かった!」
あっという間に機嫌を戻したハナちゃんは、すぐに辺りを見回し始めたよ。
うん。
彼女が周囲を警戒してくれてたら、不意打ちは心配なさそうです。
あとは、私が崖に階段を作って、ひたすらに登るだけ。
なんだけど。
……思ったよりも高い崖だねぇ。
「ちょっと時間が掛かりそうだから、2人とも周りを見ててよね」
「分かりました」
「うん!」
時間が惜しいから警戒は2人に任せて、私は階段づくりに集中しよう。
この際、安全性は二の次でも仕方ないよね?
もし落ちちゃっても、背負ってる盾にお願いすれば、落下死は免れるはずだし。
まぁ、怪我はするだろうけど。
その時は万能薬の出番だよ。
「よし、こんなもんかなっ!」
「できたっ?」
「思ったよりも早かったですね」
「うん。手すりとかは無いけど、良いよね?」
「もちろんです」
「て、手すり、無いの?」
「あ、ハナちゃん、怖いかな?」
「怖くないっ! 手すりがあった方が、可愛いと思っただけっ」
誤魔化してるのか、本気なのか分からない。
でも、言い訳っぽく言ってるその姿も、やっぱり可愛いのです。
「今度はちゃんと手すりを作ってあげるからねぇ~」
「ほんとっ!? やったぁ」
「……お二人とも、緊張感はどこに置いてきたのですか?」
「「持ってるよ?」」
「傍から見てて見当たらないのですが……まぁ、良いでしょう」
きっと、ベルザークさんの目は節穴なんだね。
でも、節穴の目って可愛いから、個人的には好きかも。
なんて。
こんなこと考えてるってバレたら、やっぱり緊張感ないって言われちゃうね。
「じゃ、行こうか。私が最後尾で登るから。2人共落ちそうになったら言ってね、風か盾で支えてあげるよ」
「では私が先頭を、ハナちゃんが真ん中で行きましょうか」
「うん」
そうして階段を登り始めてから数分後。
私は全身から噴き出して来る汗を拭いながら、前を進むハナちゃんの尻尾を見ていました。
フワフワでユラユラで、可愛いなぁ。
ずっと前から思ってるけど、思いっきりぎゅってして、モフモフしたいよねぇ。
でも、暑そうだな。
冬だったら温かいんだろうけど、夏はちょっと厳しいかも。
あれ?
今って夏だったっけ?
なんか、メチャクチャ暑いんだけど。
暑いって言うか、熱いな。
まるで、火で炙られてるみたいな熱さのせいで、頭がボンヤリしてきちゃったよ。
「アツいぃ……」
「火山ですのでっ、熱気が凄いのですっ。ですが、城砦の中に入れば多少は和らぐはずですので、もう少々の辛抱ですよ」
ベルザークさんはそう言うけど、ホントかな?
手で顔を仰いでみても、熱風しか来ないし。
前髪が顔に貼りついて、気持ち悪いし。
あぁ。
お風呂に入ってさっぱりしたいなぁ。
でもそれは、一仕事終えるまで我慢だよね。
「帰ったらお風呂っ」
「帰ったらお風呂ぉ!」
気が付けば、ハナちゃんと2人でそんなことを呟いてた私。
おかげで、階段を踏破することが出来たよ。
登り終えてすぐ、近場にあった大きな岩に身を隠した私達。
そこでようやく、私達は砦の姿を視界に入れたのです。
「あれがサンクトリア砦。そしてそちらに見える門が正門です」
「正門から入るの?」
「いえ、さすがにそれは出来ませんので、裏に見えるあそこから入ります」
「どこ?」
「あの、溶岩が流れ出している隙間です」
ちょっと待ってね?
溶岩が流れ出してる隙間から侵入するの?
え?
ムリでしょ?
「ベルザークさん。ついにおかしくなっちゃったの?」
「違いますよ! あの隙間は、砦の中が溶岩で溢れないようにするための調整溝なのです」
「うん。だとしてもだよ?」
「今は確かに、殆ど通れる隙間はありませんが、時間が経てば通れるようになるのです」
「ホント?」
「はい。おそらくは」
おそらくって言ってるジャン!
ホントに大丈夫なのかなぁ?
「流れ出て来る溶岩の量が減ったタイミングであれば、リグレッタ様の風の道で一気に通過できるはずです」
「確かに、それなら何とかなりそうだけど。対策とかされてないのかなぁ?」
納得できない私。
そんな私を説得する為かな、ベルザークさんは自信満々気に告げたんだよね。
「大丈夫です。普通、こんな頭のおかしい侵入方法は実行できませんので」
「失礼だよねっ!? それは私に対して、失礼だよねっ!?」
面白いと思ったら、いいねとブックマークをよろしくお願いします。
更新の励みになります!