第115話 身に余るもの
一緒に戦う。
そう言えば聞こえは良いかもだけど、今の私には戦う覚悟は無いのです。
だって、もし私が本気で戦いに加わってしまったら、相手に勝ち目なんて無いじゃんね。
かといって、手加減をしながら戦いに加わるのも、また変な話だと思うのです。
クラインさんとかベルザークさんを応援してないワケじゃないんだよ。
だから、代わりにと提案してきた別のお願いを受けることにしました。
不眠の山に行って、プルウェア聖教軍の火炎砲を破壊する。
それが私達に与えられた任務なのです!
「こっちのお城は大きな木なんだもんねぇ。そりゃ、火で攻めて来るのは当然かなぁ」
「私、もう怖くないよ」
「ホント? ハナちゃんったら、逞しくなっちゃって」
「えへへ~」
朗らかな笑みを浮かべるハナちゃん。
あぁ、この笑顔のために生きてるって言っても、嘘にはならないよ。
それにしても、皆と一緒に爽やかな風を受けながら飲むお茶は格別だね。
クラインさんに許可を貰って、ハーベストの幹に大きなテラスを作った甲斐があったなぁ。
ここでなら何でも作れそうな気がするし、ネリネ用にちょっとだけ木材とか貰って行っても良いかな?
あとで聞いておこう。
「どんだけ呑気な会話っスか」
「ホントよ。3人だけで敵の拠点に行くなんて、絶対に危ないじゃない!」
「そうですよ、本当は私とリグレッタ様の2人で行くべきだと思うのですが」
「またリッタが眠らされちゃうかもでしょ! だから、私も行くの!!」
「ベルザーク様も危険なのですよ!? ハナちゃんだって、あの火山を見てっ。ホントに怖くないの?」
ハリエットちゃんにそう言われたハナちゃんは、チラッと火山の方を見たかと思うと、ブワッと尻尾の毛を逆立てました。
「こ、怖くないもん」
「分かりやすいわね……」
ハナちゃんも自覚があるのかな?
助けてと言いたげな視線を向けてきました。
「あれ? ハナちゃん、もしかして火山が怖いの?」
「こ、怖くないってば!!」
「ホントかなぁ~」
「ぅぅぅ~。イジワルしないでっ!!」
「ごめんごめん」
ふくれっ面のハナちゃんも可愛いけど、これ以上イジメると嫌われちゃうよね。
自重しておきましょう。
それに、ハナちゃんの言うことも一理あるのです。
「ハリエットちゃん。心配してくれてありがとね。でも、ハナちゃんとベルザークさんは私がちゃんと護るから。安心して待っててくれる?」
「リグレッタがそう言うなら、仕方ないわね」
「ホントに良いのかい、ハリー? 愛しのベル―――」
「だぁぁぁぁぁーーーー!! 兄さん!? 何を言おうとしていますのかしら!?」
ハリエットちゃん、我を忘れるくらいに叫んじゃってるよ。
さすがのホリー君も、ちょっと動揺しちゃってるし。
これはあれだね、後が怖いやつだよ、ホリー君。
からかいすぎだよね。
面白いのは分かるけどさ。
「と、ところで、リグレッタ。ボクが思うに一番危険なのはキミなんじゃないかとボクは思ってるんだけど」
「強引に話題を変えたっスね」
「そんなんじゃないって! な、だからハリー、少し落ち着いてくれよ」
「兄さん。乙女の恨みは恐ろしいのですよ?」
「ゴメンなさい」
深々と謝罪するホリー君を見て、ようやく気持ちが落ち着いたらしいハリエットちゃんが、ニコッと笑った。
あ、落ち付いてないね。
目が笑ってないもん。
そんな彼女を見ないふりして、ホリー君が話を続けます。
「真面目な話、今回は今までと違って、本気で警戒した方が良いとボクは思うよ。リグレッタ」
「……そこまで言うってことは、なにか根拠でもあるの?」
「根拠って程じゃないけど、1つ気づいたことがあるんだ。プルウェア聖教が解放者を追いかける理由について」
それは、すごく気になる話だね。
実際、それは前から気になってたことなのです。
「その理由って?」
「クライン様の話だと、プルウェア聖教では、悪人が善人に生まれ変わるまで命を奪うって話だったよね?」
そうだね。
善人以外は不要って考え方なんだと、クラインさんは言ってたよ。
「それを聞いた時に、ソラリスさんの言ってたことが頭を過ったんだ。生まれ変わる。それってつまり、囚われて、移ろって、繰り返すってのに似てるんじゃないかって」
「あぁ、そっか。確かに似てるかもだね」
「だろ? で、その後ソラリスさんはこうも言ってたよね? リグレッタなら解放できるって」
「ちょっと待ってくれっス。解放できるって、それはつまり、命を奪えるってことだったんスか?」
「命を奪うだけだと、また生まれ変わるだけじゃないの?」
ホリー君の話に、カッツさんやハリエットちゃんが頭をひねらせ始めたね。
正直、私もちょっと難しく感じ始めてるよ。
ハナちゃんとフレイ君は、そもそも真剣に話を聞けてないみたいだし。
ベルザークさんに関しては……何考えてるか分かんない表情してるや。
そんな中、ホリー君だけが薄く笑みを浮かべてるね。
多分、優越感に浸ってる感じだ。
「もったいぶってないで、話してよ」
「あ、ごめんごめん。大事なのはここからなんだ。ソラリスさん達はこうも言ってたよね。リグレッタの中に居るって」
「うん」
「これは確認だけど、解放者は人の命を奪う時、魂を自分の中に蓄えるのかな?」
「あー。そうだね。そうなると思うよ」
私はまだ、人の命を奪ったことが無いから実際の所は分からないけど。
まぁ確かに、抜き取った魂をどうするかと聞かれたら、自分の魂に混ぜちゃうかなぁ。
その方が、使い勝手がいいもんね。
「だったら、ボクの推測は正しいと思うんだ。つまり、プルウェア聖教が解放者を狙うのは、世界で唯一、生まれ変わりを妨げることが出来るから、じゃないかな?」
「生まれ変わりを妨げる?」
「そう。つまり、教義に反する存在ってワケだよ」
「それを我々は、解放と呼んでいるのですがね」
得意げに締めくくったホリー君の言葉を補足するように、ベルザークさんが呟いた。
やっぱり、彼は知ってたみたいだね。
この中で一番もったいぶってたのは、ベルザークさんだったみたいです。
「先の話でそこまで理解されるとは。さすがはホルバートン王子ですね」
「考えるのが好きなだけだよ」
「ならば、それ以上深く考える事は、あまりお勧めしません」
「……それは、どういう意味ですか?」
静かな中にピリッとした鋭さを孕ませたベルザークさんの言葉。
そんな言葉のせいで張りつめた空気を、彼が更に締め付けるのです。
「人間は愚かな生き物ですので。身に余るものを欲するようになる。という意味です」
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