第114話 期待の眼差し
懐古の器に映ってたのは、間違いなく私と父さんだね。
母さん視点だったから、母さんの姿は見えなかったけど。
見慣れた姿を久しぶりに見れて、ちょっとだけ目頭が熱くなっちゃったよ。
ホントだったら、我慢できずに泣いてたんだろうなぁ。
うん、きっと泣いてたと思う。
もしも、目の前でクラインさんが号泣してなかったらね。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉいぃぃぃぃ。くそぉぅ!! 泣いてないからなぁ!! オレッチは、泣いて、ぅぐ……」
「クライン様、気になさる必要はありません。思う存分泣いてください!」
「な、なんだよ、号泣してるおめぇに言われたくねぇよぉぉぉぉ」
クラインさんが言うように、ベルザークさんもボロボロと涙を流してるのです。
ちなみに、クラインさんは涙の一滴も出てないんだよね。
まぁ、悲しんでるのはホントみたいだけど。
そんな2人を目の当たりにしたせいで、私はどうしてか冷静なんだよね。
母さんたちが私の中に居るんだってことは、なんとなく分かってたのも、大きいかもしれません。
もちろん、嫌いになんてなってなかったし、改めて、嫌いになる理由なんて無かったよ。
「それが2人の選択、なんだよね」
私なんかとは比べ物にならないくらい長く生きた2人が、導き出した選択なんだ。
それを頭から全部否定出来る程、考えれたとは思えないのです。
それよりも気になったのは、最後の独白かな。
母さんが言葉にはせずに思ってたこと。
世界を愛せないって、どういうコトなんだろう?
「ふむふむ……リグレッタの中にソラリスさん達が居るのか。死んでも一緒に居るなんてのは、物語で良く聞く言い回しだけど、この場合は本当だと考えても良いのかな?」
「もう、兄さんったら。今のを見てどうして、そんな感想しか出てこないわけ?」
忙しくメモを取るホリー君に呆れて見せるハリエットちゃん。
と、そんな彼女が真剣な眼差しでこっちを見つめてきたよ。
「えっと、どうしたの?」
「リグレッタ。すごく落ち着いて見えるけど、アナタは、その……大丈夫なの?」
心配してくれてるんだね。優しいなぁ。
もしかして、クラインさん達みたいに泣いた方が良かったかな?
でもまぁ、今更泣けないよね。
「大丈夫だよ。なんていうか今はすごく冷静になれてるから」
「そう? なら良いんだけど。でも、私は少し納得できないわ」
「納得?」
「えぇ。ちょっと言いづらいけれど、さっきの話ってつまり、2人がリグレッタのことを置いて出て行くことを宣言してるみたいなものでしょ?」
「まぁ、そうだねぇ」
「それってあんまりじゃない!! 事故とか理由があってとか、そういうのなら分かるけど……嫌いになられても構わないからって言って、自ら選択するのは、どうなの?」
「それは俺も同感っス」
ちょっとだけ頬を膨らませながら告げるハリエットちゃんと、頷いて賛同を示すカッツさん。
優しいなぁ。
ホントなら私も、2人みたいに怒るべきなのかなぁ?
でも、そんな気分にはなれないんだよね。
なんでだろ?
きっと、胸に居るんだっていう実感があるからなのかもしれません。
「ありがとね」
「べ、別に、お礼を言われるような事じゃないわよ!」
「私が言いたくなったんだから、それでいいでしょ?」
「そ、それなら、まぁ」
まだ納得はしてないみたいだけど、ハリエットちゃん達は少し安堵したように表情を緩めたよ。
「ねぇリッタ」
「ん、どうしたの? ハナちゃん」
「世界を愛せないって、どういう意味?」
そう尋ねて来るハナちゃんの隣には、こっちを覗き込むような恰好のフレイ君も座ってる。
2人で考えたけど分からなかったから、私を頼ってくれたのかな?
嬉しいね。
嬉しいけど、ごめん、私も分かんないんだよ。
「ごめんね、ハナちゃん。私もよく分かって無いんだ」
私がそう言うと、どうしてか他の皆が静かになったよ。
「え? なに?」
「やっぱりまだ、ガキンチョだなぁ」
「む。またガキンチョって言ったね。そろそろ怒るよ?」
「そんなちっぽけな怒りなら、怖くもなんともないんだぜ」
そう言ったクラインさんは、丁度いいかと呟いた。
「何が丁度いいの?」
「話しておきたいことがあってだな。お前がガキンチョだっていう理由と合わせて、教えてやるよ」
「なんか、言い方がイジワルだよね」
「良いから聞け、妹よ。このフランメ民国が長年、プルウェア聖教国と戦争を繰り返してることは知ってるよな?」
「うん。聞いてるよ」
「この戦争はすべて、プルウェア聖教国側から仕掛けて来てるんだ」
そうなんだ。
それで、ベルザークさん達は、戦って国を守って来たんだね。
元々、母さんたちが足止めするために神樹を送り込んだワケだから、当然なのかな。
「それ自体は、致し方ないことだと思ってるさ。人の世に争いはつきものだからな。でも、この戦争はそんな生易しいものじゃない。なぜなら奴らは、ここに住むすべての人間が死に絶えるまで、攻撃を止めるつもりが無いんだぜ?」
「え? どうしてそこまでする必要があるの?」
「それは、奴らが信じてる『教え』ってやつが原因だ」
そこで言葉を切ったクラインさんは、私たち全員の顔を見渡した後、ゆっくりと続けました。
「奴らは、悪人が善人に生まれ変わるまで、何度でも命を奪っていい。そう考えて、信じ込んでる」
「何度でも!?」
「そう。簡単に言えば、善人以外は不要って考え方なのさ」
なんか、とんでもない考え方だよね。
善人以外は不要、かぁ……。
なんか、ちょっと失礼かもだけど、ペンドルトンさんと似たような考え方なのかも?
「さて、そんな考え方の奴らを相手にオレッチ達は戦ってるわけなんだよ。そこで提案だ妹よ」
「提案?」
「あぁ、一緒に戦って、プルウェア聖教の奴らを打倒しようじゃないか!」
翼を広げながら、期待の眼差しを投げかけて来るクラインさん。
そんな彼に私は。
私は……。
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