第112話 兄妹喧嘩
「ちょっとベルザークさん? 私とクラインさんは兄弟とかじゃないよ? まぁ、もしそうだったとしたら、きっと私の方がお姉さんなんだけどさ」
「寝言は寝て言って欲しいなぁ。オレッチが兄に決まってるだろ?」
「こんな子供っぽいお兄さんは嫌なんだけど」
「こんなガキンチョが姉だったら、笑いすぎて死ねるくらいだよ」
ちょっと、クラインさんとは少しだけお話をする必要があるね。
多分、クラインさんも同じように考えてるはずだよ。
なんなら、いまからお話を初めても良いかもだね。
「リッタ。落ち着いて」
「っ! ハ、ハナちゃん。そうだね、喧嘩はダメだね。ごめんね」
そうだった。
今はハナちゃんとか皆も見てるんだった。
喧嘩なんてしてる場合じゃないよね。
でもどうしてだろ?
なんかクラインさんと話してると、遠慮が無くなっちゃう気がするんだよねぇ。
懐かしさに囲まれてるからかな?
「オレッチも、少し冷静さを欠いてたな。すまん」
「いえいえ。兄妹はよく喧嘩をするものだと言いますので」
「ちょっとベルザーク様!? なぜ私達を見るのですか!?」
「なぜって、ボクらがそれを聞くのは滑稽でしょ」
冷静にツッコミを入れるホリー君に、すかさず言い返そうとしたハリエットちゃん。
その直後、全員の視線が集まっている理由に気が付いた彼女は、すぐに赤面して俯いちゃった。
可愛いね。
「さて、本題に戻りたいと思います。まずはリグレッタ様。この方がフランメ民国を統べる方、クライン様です」
「お前達が勝手に、オレッチを祀り上げてるだけだろ?」
「だとしても、この国においてあなた様に逆らうものは誰一人いませんので、結果的に統べていると言っても過言ではありません」
「物は言いようってやつだな」
「そうですね」
「それでベルザークさん。さっき言ってたことは本当なの?」
このままだと雑談が始まりそうだったから、強引に質問してみたよ。
でも、質問に答えてくれたのは、ベルザークさんじゃなかったんだ。
「その話については、オレッチから話そうか。だがその前に……」
そう言ったクラインさんは、小屋の上から飛び立ち丘のふもとに降りた。
そして、地面から大きなテーブルと人数分の椅子を作り出してくれる。
「立ちっぱなしもなんだから、こっちで座って話そう」
意外と気が利くんだね。
そんなことを言ったら、また喧嘩になっちゃいそうだから言わないけど。
「さて、オレッチとお前さんの関係についてだが、先にベルザークが言っていた通り、兄妹みたいなものだとオレッチは思ってる」
「みたいなもの?」
「あぁ、人間のそれとは別物だからな。まぁ、そんなことはおいておいて、それじゃあどうしてオレッチだけが死神の森じゃなく、この神樹ハーベストに居たのか、その理由を教えてやろう」
彼がそう告げたと同時に、テーブルの表面が急にボコボコと泡立ち始めたよ!
何事かと思って見てると、不意にホリー君が呟きました。
「これは……地図?」
「その通りだ。そして、ここが今いる神樹ハーベストだ」
そう言って地図の上に降りたクラインさんの足元には、確かに、神樹ハーベストを模した出っ張りがあるね。
ってことは、テーブルの真ん中を縦断してる長い山は、例の山脈かな?
ってことは、この尖ったのが慟哭の岬で、こっちが風の台地。あれがラズガード鉱山かな!?
おぉ、すごいね。
こうやって地図にすると、通って来た道が良く分かるなぁ。
「ここまで来たお前達なら既に知ってると思うが、ソラリスとイージスはプルウェア聖教の追手に狙われていた」
「うん」
「だが、死神の森に逃げおおせた2人は、奴らの追手を妨げるために2つのことをしたんだ」
「2つのこと?」
「あぁ、1つは死神の森の中を危険な魔物で埋め尽くしたんだ」
そうだったの!?
確かに、森の中には魔物が沢山いたけど。
あれって、父さんたちが生み出したんだ。
ってことはつまり、ラービさんとかラクネさん達も私の兄妹かもしれないってこと!?
今度会ったら、知ってたのか聞いてみようかな。
私がそんなことを考えてる間にも、話は進みます。
「もう1つが、この神樹ハーベストを作ったんだ」
「なるほどね、プルウェア聖教国から山脈を避けて死神の森に入るためには、森の西から直接入るルートと、山脈の北を迂回するルートしかない。だから、両方とも塞いだのか」
「そこの金髪坊やは話が早いなぁ。まぁ、つまりはそういうことだ。で、この神樹ハーベストの管理を任されたのが、オレッチってわけなのさ」
そうだったんだね。
全然知らなかったや。
「1つ、質問をしても良いですか?」
「おぉ、良いぞ。賢い坊やよ」
「ソラリスさんとイージスさんは、追手に追われながらもこの場所までやってきて、神樹ハーベストを作ったんですか?」
「良い質問だ。結論を言えば、2人が直接来たわけじゃないのさ」
「それはどういう意味ですか?」
「折り鶴に、神樹ハーベストの種を仕込んで、送り届けて下さったのです」
割って入ったベルザークさんは、出会ったばかりの頃に見せてくれたペンダントを握りしめてる。
そっか、たしかに、ペンダントに入ってた折り鶴のおかげで国を作れたとか言ってたね。
「なるほど。解放者はそんなことまで出来るのですね。もしかして、その神樹ハーベストの種というのも、解放者が作ったのでしょうか?」
「いいや、種はノームの迷宮にあった物だって聞いてるぞ」
「あっ! それってあの、空っぽの箱に入ってたやつじゃない!? ほら、ソラリスさんの記憶の中でも、何か取り出してたし」
「おそらくその通りだと思います。よく覚えていましたね、ハリエット様」
「そ、そんな大したことじゃないですわよ!」
ベルザークさんに褒められて照れちゃったのか、もしくは、自分だけがはしゃいでしまったことに恥ずかしさを覚えたのか、ハリエットちゃんは赤面して座り直したよ。
彼女のおかげで、ちょっとだけ場が和んだところで、クラインさんが口を開きます。
「とまぁ、そんなことが昔あったわけだよ。だいたい780年くらい前だっけか?」
「な、なな!? そ、それは、本当なのですか!?」
「あぁ、本当だ」
サラッというけど、かなりすごいことを言ったよね。
あれ?
っていうことは、クラインさんは本当に私よりお兄さんってこと?
ううん。
それだけ年が離れてたら、もはや他人だよね。
「というわけで、オレッチが兄だってことに文句は無いよな?」
「お兄さんって言うより、お爺さんって感じだけどね」
「まぁ、敬ってくれるならどっちでも良いけどな」
どっちでもいいんだね。
「ここまでが、オレッチの自己紹介みたいなものだな。で、本当に話しておきたかったことは別にあるんだよ」
そう言ったクラインさんは、小屋の中から小さな折り鶴を引っ張り出して来たよ。
「それは……」
「これは数年前……2、3年まえだったかな? お前さんの両親から届いたものだ」
「父さんと母さんから!?」
「あぁ」
彼から受け取ったその折り鶴には、確かに母さんたちの魂が込められてる。
かなり最近のものだよね。
「森から出るなって言ってたのに、ここまで来た娘を叱るための手紙だとよ」
「えっ!? ……それってホント!?」
「半分冗談だけどな」
半分ってことは、本気も入ってるってことだよね?
うぅぅ。
ちょっと怖いなぁ。
ソラリス母さんから叱られるのは、やっぱり怖いのです。
でも、久しぶりに叱られるのもいいかもしれないよね。
そんな葛藤を乗り越えた私は、懐古の器を発動したのでした。
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