第110話 国境からの景色
慟哭の岬を出発した私達は、ベルザークさんの案内で西に進路を変えたよ。
これ以上北に行こうとしても、海だから進めないらしいです。
そんな私達の進路上に見えるのは、大きな山脈だね。
「死神の森から北に伸びてるあの山脈が、ボクらが住んでるブッシュ王国とフランメ民国、そしてプルウェア聖教国の国境になるんだ」
「国境……まさか、こんな遠くまで来ることになるなんて、思っても見なかったっス」
「やっとここまでこれたわね。あぁ、楽しみだわ!」
どうしてかは分からないけど、ハリエットちゃんとホリー君が少しだけ嬉しそうにしてる。
まぁ、王都から出たいって希望してたから、この先に目当ての物でもあるのかも?
あ、ハリエットちゃんに関してはベルザークさんの故郷だから興味があるって感じかもだね。
「それにしても、大きな山だよねぇ」
「そだねぇ~」
ネリネの何倍あるのかなんて、比較にもならないよ。
それに、そんな大きな山脈のさらに奥には、もっと大きな緑色の山が見えるのです。
世界って、広いんだなぁ。
そんな世界を、ハナちゃん達と一緒に見て回れてるのは、ホントに幸せなことだよね。
「リグレッタ様」
「どうしたの? ベルザークさん」
「もう少しで山脈の北端に差し掛かります。そうするとその先は、フランメ民国です」
「そうなんだね。ってこと、ついにベルザークさんの故郷に入るわけだ」
「はい。そこで1つお願いなのですが。フランメ民国のハーベストに到着したら、まずはクライン様にお会いしていただけないでしょうか」
ハーベスト? クライン様?
急に知らない単語が出て来たね。
ハーベストっていうのは、街の名前なのかな?
で、クラインっていうのは、偉い人の名前っぽいよね。
なんだかんだ言って、ベルザークさんにはいつもお世話になってるからね。
ちゃんとお礼とか言っておこうかな。
「うん。分かったよ」
「ありがとうございます。きっとリグレッタ様も、あの方とお話しできることを喜んでいただけると思います」
それはどういう意味なんだろう?
だいたい誰と話しても、案外楽しいものだけどね。
喜べる相手かぁ。
ちょっと楽しみになって来たなぁ。
美味しいお茶とか、ちゃんと準備しておこう。
ハリエットちゃんにお願いして、お茶菓子も作ってもらおうかな。
そんなことを考えながら、私がキッチンに向かおうとしたその時。
不意にホリー君が、手すりから身を乗り出して叫んだのです。
「見えた! うわぁぁ……あれが神樹ハーベストか」
「本当!? 私にも見せて兄さん!!」
「俺も見たいっス!! なにが見えるんスか!?」
なんだか騒がしいよね。
神樹ハーベストっっていうのが見えたみたいだけど。
そんなに珍しいものなのかな?
「リッタ! 私たちも見に行こっ!」
「うん、そうだね」
ホリー君たちの熱狂に当てられたのかな、ハナちゃんまで興奮気味にテラスの前の方に駆けてったよ。
焦る事なんて無いのにね。
ネリネは動いてるんだから、いずれ視界を遮ってる山も無くなって、その神樹とやらを拝めるはずなのです。
でもまぁ、気にならないかと言われたら、気になっちゃうよね。
皆は手すりの近くに集まってるから、今がチャンス!
にこやかな表情でこちらを見て来るベルザークさんを無視して、私はほんの少しだけ宙に飛び上がりました。
「迷宮とか台地とか大渦とか見て来たからねぇ。今更そんな……え、何あれデカッ!?」
おっと、思わずデカッとか言っちゃった。
でも仕方ないよね。
だってまさか、山脈よりも高い木を見ることになるなんて、思ってなかったんだもん。
さっきまで山脈の奥に大きな山があるって思ってたのは、あれだったんだなぁ。
幹の太さも、王都が何個も入りそうなくらい太いよ。
「あっ! リッタ、ズルい!!」
さすがにハナちゃんにバレちゃったみたいだね。
気持ちを落ち着ける意味でも、一度テラスに戻りましょう。
それにしても、神樹ハーベストの大きさに驚いて忘れそうになるけど、その他にも気になることがある光景でした。
「リグレッタ様、フランメ民国の光景はどうでしたか?」
「すごかったよ。なんていうか、ホリー君たちの国とは全然違うんだね」
「どこが違うと思いました?」
そんなの、一目見れば分かるでしょ。
って答えたいところだけど、そういう意味で聞いてるワケじゃなさそうだよね。
「そうだなぁ、神樹ハーベストが凄い大きいってのがまずあって、その他に2つ気づいたことがあるよ」
「ほう。それは、何でしょうか」
「神樹の奥に、火山があるよね」
「はい。あの火山は不眠の山と呼ばれており、その名の通り、一年を通して大小の噴火を繰り返しているのです」
めちゃくちゃ危ないじゃん!
神樹からそんなに離れてないみたいだったけど、みんな怖くないのかな?
唖然としてる私に、ベルザークさんが続きを促してくる。
そんなあっさりと流してしまうような話題だったかなぁ?
「えっと、もう1つは、地面かな」
「……それは、どういう意味ですか?」
「パッと見ただけだから間違ってるかもだけど、神樹ハーベストの周り以外には、植物が全然ないよね」
「それにお気づきになられるとは、さすがはリグレッタ様ですね。ご指摘の通り、フランメ民国では頻繁に灰が降り注ぐため、殆どの土地が死んでいます」
「そうなんだ。でもそれじゃあどうして、あんなところに神樹が生えてるの?」
私の疑問に、小さく笑みを浮かべたベルザークさんは、静かに前方を見ながら告げるのです。
「以前お話した通り、ご加護によるものですよ」
前に話した?
あぁ、そう言えば、折り鶴の加護のおかげで先祖が国を作ったり、貧しい北の国で生活できてるって言ってたっけ?
それと、神樹が生えてることと、何か関係あるのかな?
湧き上がってくる疑問を口に出そうと、息を吸い込む。
そんな私を見て、ベルザークさんは先手を打ってきたのでした。
「詳しくは、クレインさまから直接お聞きください」
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