表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/208

第106話 懐古の器:一房の白①

 ったがけうえからえるのは、巨大きょだい大渦おおうず

 ちかくにるほど、ものすごいおと存在感そんざいかんしめしてるぜ。


いたぞ、ソラリス」

「……そうですね」

あし、もう大丈夫だいじょうぶか?」

「はい。大丈夫だいじょうぶです」

「ならかった」


 ここにるまでのみちは、ホントに大変たいへんだったぜ。

 でも、これでようやく目的地もくてきちにたどりいたんだ。


大渦おおうず綺麗きれいだな」

「そうですね」

 月明つきあかりにらされてるソラリスの横顔よこがおも、綺麗きれいだけどな。

 まぁ、そんなことをくちすつもりはいけど。


「で、ここにて、なにをするつもりだったんだ?」

「……ここで、全部ぜんぶわらせようと、おもいます」

全部ぜんぶわらせる? それはどういう意味いみだ?」

「もう、げるのをめるという意味いみです」

「はぁ!?」


 何気なにげなくたずねただけなのに、おもいもよらない返事へんじかえってた。

 冗談じょうだん、とかじゃないよな?


 おれじゃあるまいし、彼女かのじょがそんな冗談じょうだんうわけがない。


「こ、ここまでげてたのにか!?」

「そうですね。ここまでげてて、おもったのです」

おもったって……てよ、たしかにここまでのみちのりはけわしかったし、あぶなかったけど、それでもここまでれたんじゃないか! それなら」


 これからさきだって、どこまでもげおおせる。

 そうおうとしたおれを、ソラリスがさえぎった。


「この世界せかいのどこにも、などありません」

「でも!」


 ぐにおれつめて彼女かのじょひとみは、いつものようにかがやいてる。

 そこに、くもりやまよいは一切いっさいいようにえた。


「イージス。あなたとここまでれたこと、その道中どうちゅうは、すごくたのしいものでした」

「だったら」

「だからこそ、わたしはあなたのそばにいたくありません」

「な……なにって……」

「イージス。わたし死神しにがみなのです。いつ、どんなきっかけで、あなたのいのちうばってしまうのか、からないのです」

「それは……」

「だから、わたしはこのまま、あの大渦おおうずそこしずんでねむりたいとおもいます」


 大渦おおうずそこしずんでねむる?

 そんなの、んでしまうこととなにちがうんだよ!

 おれは……ソラリスは、そんなことのためにここまでげてたってうのか?


「なんだよ、それ」

「そうでもしなければ、プルウェアは永遠えいえんわたしいかけつづけるでしょうから」


 みず主神しゅしんプルウェア。

 いまこうして、俺達おれたち逃亡生活とうぼうせいかつおくってる元凶げんきょう


 そんなやつらにちから悪用あくようされたくないから、したんじゃないのか?

 ちがうか。

 悪用あくようされたくないからこそ、ここをえらんだのか。


 海中かいちゅうもぐむことで、ソラリスはプルウェアのちから人質ひとじちることが出来できるから。

 いまいままで、プルウェア自身じしんがソラリスをとらえにていないのが、証拠しょうこだよな。


らくになりたいってことかよ」

「そうですね。らくになりたいのです」


 くそっ。

 なんでおれは、そんなかたをしちまうんだ。


「イージス。ここまで、本当ほんとうにありがとうございました」

「……」

「1時間後じかんごした砂浜すなはまにておちしておきます」


 おれのことを見透みすかしたように、ソラリスがう。

 なんて反応はんのうすればいのか、からない。

 なやおれが、くちひらこうとしたその瞬間しゅんかん

 ソラリスがちいさくいきんで、くちひらいた。


 まるで、勇気ゆうきしぼろうとするように。


 のせいかとおもったけど、そうじゃないことにおれいた。

 彼女かのじょが、すこしだけ視線しせんとしたようにえたんだ。


最期さいごのおわかれ、てくれますよね?」


 肯定こうてい否定ひていも、誤魔化ごまかしでさえ。

 いまおれにはえらぶことが出来できない。


 えら覚悟かくごが、出来できていない。


「くそっ!!」


 だまおれ愛想あいそをつかしたのかな。

 ソラリスはうつむいたままみさきした浜辺はまべりてった。


 おれはホントになさけねぇおとこだよ。

 勇気ゆうきしたソラリスに、いた言葉ことばひとつもかけてやれねぇんだからさ。


仲直なかなおりしないとダメだよ』

「リン……かってるさ」


 がけっぷちにこしかけるおれのことを、なぐめてくれるのか?

 リンはホントにやさしいやつだ。

 だから、色々(いろいろ)はなしたくなるんだよな。


「……仲直なかなおりして、そのままおわかれするのか?」

『それは、いやだね』

「だろ? おれだっていやだぜ」

『だったら、もっと一緒いっしょげようってつたえようよ』

「それが出来できたら……簡単かんたんなんだけどな」

『ずっと一緒いっしょにいたいんじゃないの?』

「そ、それは」

ちがうの?』

「……いたいさ。ずっと一緒いっしょたいんだよっ!!」

『なら、まりだねっ!』

「なにがまりなんだ?」

おもってること、全部ぜんぶつたえよう!!』


 至極当然しごくとうぜんおもいついた疑問ぎもんげかけたおれは、見事みごとかえちにうのだ。

 リンにはかなわないなぁ。


かった。かったよ! そうだよな。あきらめちゃダメだよな。ありがと、リン」

『うん! いいんだよ!』


 なさけのないおとこ

 そんなおれといてたのしかったとってくれたソラリスを、永遠えいえんひとりぼっちにするわけにはいかないよな。


 よしっ!

 覚悟かくごめたぜ!


 約束やくそく時間じかん

 ソラリスみたいにんでりれないおれは、した砂浜すなはままではしった。


「イージス……てくれてありがとうございます」

たりまえだろ? ソラリスとの約束やくそく、ちゃんとまもりたいからさ」

わたし説得せっとくしたんだよ!』

「おぉい!? リン!?」

「ふふふ。いつもの調子ちょうしもどったみたいで、安心あんしんしました」


 口元くちもとかくしながらわらうソラリス。

 上品じょうひんなその仕草しぐさひさしぶりにがするぜ。

 きっと、ソラリスも緊張きんちょうしてるんだな。


「それじゃあソラリス、ちょっと砂浜すなはまこしでもろして、景色けしきでもながめながらはなしをしようぜ!」

「え? でも……」

「いいから! ほら! すわってくれよ」

「……そうですね。でも、すこしだけですよ?」


 戸惑とまどいながらも、すこしだけよろこんでくれてるようにえるのは、のせいか?

 まぁどっちでもいいか。


 おれめたんだからな。

 全部ぜんぶつたえる。

 おれおもってること、やりたいこと、ねがってること。


 だからさ、もうすこしだけくもれてくれねぇかなぁ。

 やっぱり、綺麗きれい満月まんげつもとで、つたえたいよな。

 絶対ぜったいにそっちのほういとおもうんだよ。


 そうおもうのは、おれだけか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ