第105話 入り混じり、漂うもの
フレイ君への仕返し―――もとい、お礼を終えた私達は、一旦ネリネに戻ってお風呂に入ったよ。
なんだかしょっぱい水だなぁって思ってたけど、海の水には塩が溶けてるんだって。
どおりで、髪の毛とかがベタベタすると思ったよ。
身体中さっぱりして、もいちど砂浜に降りたらご飯の時間なのです!
せっかくなので砂浜でお肉とかお魚を焼くことに。
海から響いて来る渦の音と波の音のおかげかな、いつもより賑やかに感じるよ。
「おいしいね、リッタ」
「そうだね。でもハナちゃん、こういう時は『うましっ』って言うんじゃないの?」
「もうそんな子供じゃないもん!!」
そうなんだぁ。
可愛かったのになぁ、うましっ。
ちょっと残念かも。
まぁ、子供じゃないもん! ってムキになってるとこも、可愛いんだけどさ。
「まだまだありますので、どんどん食べてくださいね」
「ありがと、ベルザークさん」
熱した鉄の盾で焼いたお肉を、ベルザークさんが配って回ってる。
こんな焼き方があるんだね。
なんていうか、彼はどんな場所でも生き抜いて行けそうな気がするよ。
ところで、さっきからホリー君とカッツさんがセイレーンたちの前で何か話し込んでるなぁ。
何を話してるんだろ?
「2人ともどうしたの?」
「ん、リグレッタか。ちょっとセイレーンたちに話を聞いてみようと思ったんだけど、上手く行かなくてね」
「だから言ったじゃないっスか。魔物相手に話が通じるワケ無いっスよ」
「でも一応、言葉を話せる魔物だろ? だったら、こちらの意思も通じると思うんだけどなぁ」
「ホリー君は、セイレーン達から何を聞きたかったの?」
そう聞くと、2人は顔を見合わせました。
変なこと聞いたかな?
「まぁ、リグレッタも無関係じゃないから話しておくよ。今回、セイレーン達がボクらを襲った原因が、リグレッタかもしれないって話はしたよね?」
「うん、聞いたね」
また私のせいかぁ、って思ったもん。
ホリー君たちが悪いわけじゃないんだけどね。
これはきっと、解放者の宿命なのですよ。
「その理由を色々と考えてみた結果、1つの可能性に気付いたんだ」
「可能性?」
「ソラリスさんだよ」
「お母さん? それはどうして?」
「考えてみてよ、ソラリスさん達はノームの迷宮と風の台地に足を運んでるんだ。どちらも今のボクらにとっては、謎の多い場所だよね?」
「そうだね……あぁ、そっか」
謎の多い場所。
そう言われて1つ思い浮かぶ場所に、私達は居るよね。
「大渦だね」
「そう。ボクは、あの大渦もソラリスさんが作り出したものなんじゃないかって、推測してる」
「風の台地を見たら、そう思いたくなるっスよねぇ~」
「だよね。そもそもこの岬は、慟哭の岬って呼ばれてるんだ。その呼び名は、大渦の音が理由だって思われてたけど、何か他に意味があるんじゃないかなって思えて来るよね」
慟哭の岬?
慟哭って意味がパッと出てこないけど、泣いてるって感じだったっけ?
「それで、セイレーン達にソラリスさんの名前を聞いたことがあるか、尋ねてみたんだ」
「なるほどね。でも、さすがに300年以上前のことは知らないんじゃない?」
「そうっスよ。俺もそう言ったんスけどね」
「こういうのは何事も試してみるのが良いとボクは思うんだ。まぁ、試した結果、無反応だったけどさ」
そっか。
じゃあやっぱり、セイレーン達は母さんたちのことは知らないのかな?
でも、それだけで母さんたちがここに来たことがないって根拠には、ならないよね?
一応、周りを見ておこうかな。
もしかしたら、この砂浜とか岬のどこかに母さんの魂があるかもしれないよね。
それが無ければ、手掛かりなしと言うことで探しようがないんだけど。
「ん~。砂浜にも岬にも、母さんの魂は見当たらないねぇ」
「見当たらないですか。それじゃあ、ボクの仮説は間違ってたみたいですね」
「そんなに落ち込むことっスか!?」
溜息を吐いて見せるホリー君。
風の台地に行った時も思ったけど、昔のことを探ってる彼は、どこか楽しそうだよね。
ちょっとワクワクする気持ちは、分かるけど。
でも、そう簡単に見つかるようなモノじゃないのです。
「残念だけど、ここにはなさそうだね。でも、そうやって探し続ける事は良いことだと思うよ」
「そうかな?」
「うん。イージス父さんも言ってたしね」
そう切り出して、父さんから聞かされた話を始めようとした、その瞬間。
突然、セイレーン達が荒々しく暴れはじめたのです。
「な、なにっ!?」
「リグレッタ様!? どうしたのですか!?」
「わかんない! 急に暴れ出したんだよ」
警戒するように、ハナちゃんとベルザークさんが私達の元に駆け寄ってきた。
まったりとご飯を食べてたみんなも、騒然としてる。
そんな中、1人セイレーンに近づいたホリー君が、小さく呟きました。
「イージス」
「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
口を縛ってるはずなのに、セイレーン達の叫び声が周囲に響き渡る。
「やっぱり! セイレーン達が君の父さんの名前に反応したよ!」
「それってつまり!! ここに来たことがあるってコトっすよね!?」
「そうだね! ベルザークさん、私ちょっと、この辺に父さんたちの魂が無いか見て来るから!」
「分かりました! お気をつけて!」
彼の返事を聞いてすぐ、私は空高くに飛び上がる。
探し物をするときは、上から見るのが定石だよね。
さっきも見たけど、こんどは念入りに見て回ろう。
切り立った崖の上の岬も、波の打ち寄せる浜も、周囲に広がってる森も。
全部、上空を飛び回って探した。
でも、何も見つけられなかったんだ。
もしかしたら、この場所では魂宿りの術を使わなかったのかな?
そんなことを考え始めた私は、ふと、視界の端に異変を捉えたんだ。
海で轟音を奏でてる大渦。
その渦の中に、微かだけど母さんと父さんの気配を感じる。
飛び散る飛沫と大量の水のせいで、目で追いにくい。
でも、確かに感じるんだよ。
渦の真上に飛んで来た私は、右手を水に浸けてみた。
そして1つ、それを手元に拾い上げたんだよ。
「まさか……これ全部?」
拾ったものを見て、思わずそう呟きました。
だって、想像してなかったんだもん。
大渦の中を、真っ白な髪の毛が無数に漂ってるなんて。
それから私は、大渦に両手を突っ込んで、なるべく多くの髪の毛を集めました。
おかげで、全身ずぶ濡れになっちゃったよ。
またお風呂に入らなくちゃだね。
そんな苦労の甲斐があったのかな?
気が付けば、手元には白い髪の毛が1房。
ソラリス母さんにしては、短めな髪の毛だね。
それに、母さんと父さんの魂が入り混じってるよ。
なんだか不思議なものを手に、私は皆の元に戻りました。
そして、飲み物を片手にしてる皆の前で、懐古の器を発動したよ。
どうでも良いんだけどさ。
みんな、懐古の器のことを見せ物だって思ってないよね!?