Episode60
レイナは雷切を鞘から抜くと、マシューへとゆっくりと歩きながら近寄る。
「仲間はどうした? 特に黒い鎧の奴と、黒髪の長い女だ!」
「さぁ。 そんなことを気にしている場合なの?」
「ふはははは。 そうか、お前一人か! そうれはそれは吉報だ。」
マシューは懐からナイフを取り出すと、左手に付けている腕輪に魔力を注いだ。
!?
マシューの姿が見えなくなってしまう。
不可視化の魔法が込められた腕輪だったのだ。
「宝具!?」
真後ろに気配を感じ、レイナは右へ飛ぶ。
ヒュンッ!!
ナイフの風切り音が聞こえ、回避したことが正解だったと知ることとなる。
「厄介...」
肩には先ほどのナイフがかすり、赤い線が薄く滲む。
レイナは雷切に瞬間的に放出できる最大の魔力を込め、前方にいるであろう魔族に向かって、刀を横なぎに振る。
「ライトニング!!」
ドッーン!!!バチバチバチ!!!
青紫色にバチバチと光る刀身から放たれる凄まじい威力を持った複数の雷撃が、レイナの前方マシューを含む扇状の範囲に四散する。
マシューは予想外の攻撃を喰らってしまい、体全体に大きな火傷を負ってしまう。
体全体からは白い煙が出ており、完全に満身創痍である。
だが、マシューを含め魔族は頭か心臓を破壊しない限り、自己再生が始まり回復してしまうのだ。
電撃を受けた直後からは姿が見えるようになっており、追撃を加えようとレイナが近寄るが視界がかすみ、ふらついてしまう。
「何...これ。」
「やっと効いて来たか。大きな魔物でも一撃で麻痺させる毒が塗ってあるんだよこのナイフには。ハッハッハッハ!」
マシューは焼け焦げたローブを脱ぐとその素顔があらわとなる。
!?
「なん...で、ダークエルフが魔族側に付いてるの...?」
麻痺毒が体へ広がり、力が入らなくなったレイナは膝から崩れ落ち地べたに座り込んでしまう。
雷切を地面に突き刺し、もたれ掛かっていなければ座っていることさえ出来ない程だ。
「俺はダークエルフじゃない!! 摩天楼でもⅦを与えられているんだ! ダークエルフなんかじゃなくて立派な魔族なんだよ!! お前につべこべ言われる筋合いなんて無い!!」
琴線へ触れてしまったのか、いきなりマシューは激怒し、
麻痺毒により弱り抵抗出来ないレイナを殴りつける。
「お前に! 俺の! 気持ちが! 分かるか! よお! 動けないくせに」
何も出来ないことを良い事に仰向けで倒れるレイナに馬乗りになり、整った顔を何発も何発も必要以上に殴りつけ、鳩尾を蹴り上げ頭を踏みつける。
血反吐を吐き、噎せ返るレイナは意識も朦朧とし動かなくなってしまう。
「おっと、ここではお前の仲間が来ては面倒だ、ゲート! 魔界でもっともっとお前を楽しんでやる。」
ゲスな表情を浮かべるマシューは
魔族特有の転移魔法を展開するとレイナを担ぎ連れ込む。
その場に残されたのは地面に突き刺さったレイナの愛刀 妖刀:雷切だけであった。




