Episode2
こちらの序章は本編より少しだけ未来の話。
本編はEpisode3より開始
パカラッパカラッパカラッ・・・
シリウス王国の方向から、馬に跨った人族が凄い勢いで向かってくるのが見える。
よく見ると後ろに大勢引き連れているのが見え、シリウス国旗を掲げている。
およそ50人ほどは居そうだ。
これ以上騒ぎを大きくしたくないんだけどぉ...
あぁ、早く家に帰って風呂でも入りたいなぁ。
と頭を抱えるノアであった。
***
土煙を上げてよくもまぁこんなに大勢来たものである。
「大丈夫か!!敵は盗賊との情報だが、どちらの方向へ行った?」
先行部隊であろう数人が先に到着し、先程蘇生された騎士に詰め寄っている。
遅れて到着した王国軍は指揮官の指示の元、辺りの捜索を始めたようだ。
貴族の馬車を護衛していた者が一人でも逃げ延びて応援を呼んだのだろう。
まぁ、そうしか選択肢は無かったのだろうけど、もう遅いここには盗賊はとっくに居ないのだ。
そんなことを思っていると、指揮官を目が合う。
あ、僕盗賊じゃありません。無害ですハイ。
と、そんな顔をしてやり過ごせる訳も無く...
「ん?お嬢さんは家紋持ちでいらっしゃいますね!お名前を伺ってもよろしいですか?」
ほら来たじゃん着替えておけば良かったよ。着替えなんてないけどさ。
「あれ?何してるんですか?マスター?」
先に到着していた王国軍に混じっていたのだろう女が話しかけてくる。
明るい茶色の髪を緩く左に流している。
一見大人しそうに見える彼女は、意外と人懐っこい性格をしている。
黒薔薇〈聖女〉アリア・ブラックローズ 冒険者ランクS
何を隠そう彼女はウチのクランメンバーである。
この子が居るならこの場は安心だ。
「アリアちゃんお疲れ様。ここは任せても良いかな? 持病で仮病のザ・ホームシックが発症しちゃってさ。」
アリアは「はぁ。」と溜息をつきキリッとした顔つきになった。
「何言ってるんですかマスター。今日も護衛を付けずに独りで何をしてたんですか?単独行動は控えてください。ぼっちマスター。」
「おこなの?会って3秒でおこなの?」
「まったくー!私と同じでマスターは攻撃スキルが無いんですから、1人で出歩かないでくださいって、あれほど言ったじゃないですか! それにマスターは有名人なんですよ?髪も目立つし、変な虫でも付いたらどうするんですか?」
スーッハースーッハー...
前から羽交い締めにされ、匂いを嗅がれるノア。
「いや、今日はちゃんと連れてたんだよねー。」
「そのようですね、この香りは...」
「まぁまぁ聖女様、落ち着いてください。そして私にも紹介していただけますかな?ん、この家紋は...そうでしたかクロバラの方でしたか!」
おい、仲良くアリアちゃんとお話しているのに、指揮官お前水を差すなよ。
今までガヤガヤと周りでしていた話し声が止み 皆が一斉にこちらを刮目している。
ヤバイヤバイヤバイめっちゃ気まずいそしてめっちゃ見てくるじゃん、やだぁ...
「そうです、この方そこ黒薔薇の創設者であり、クランマスターの不死王ノア・ブラックローズ様その人であらせられます。」
「「えええぇぇぇぇえ!!!!」」
蘇生された騎士も馬車の御者もおっちゃんも侍女も皆驚き それぞれ話している。
「俺初めて会ったぞ」「女の子なのか?」「意外と若いんだな」「まだ子供じゃないか。」「不死王?本物なのか?」「そうかこの傷はあの方が治してくれたのか」「あの家紋見ろよマジもんだぜ」「すげぇ俺クラン入りたいって言ってこようかな」「やめとけやめとけ」「ノーライフ・キングって不死身なんだろ?」「そうらしいな、攻撃が一切通らないらしい。」「黒薔薇は全員がバケモノ集団って話だぜ」「あの少女凄い可愛いな。」「背中に乗せてお馬さんごっこ遊びしてあげたい。」
あ、うん。皆仲良くしてね。あと、全員コッチ見んな!うざい!
あと僕は男だ!!
ガサッガサ―――パキッ―――。
装飾の付いた馬車の後方、森の方向からの突然の物音で、騎士達に緊張が走る...
出てきたのは僕の見知った顔だった。
少女を小脇に抱えている。
コラ待て、その少女何て持ち方しているの。
「ノア。攫われた子 連れ戻してきた。あと、30人規模の盗賊団だったし、とりあえず殲滅してきたけど...? あら、アリア来てたの? この子お願い。」
と、ポーイと投げてきた少女は12歳程で重症ではないが、
攫われた時にでも、抵抗したのだろうか小さな傷があちこちに付いている。
「おっとっとー流石です、レイナさん」
その言葉でまた周囲がざわつく。
アリアは少女を地面に寝かせると直ぐにヒールを唱える。
「なんだと?剣神レイナのことじゃないのか!」「不死王の次は剣神だって?」「今日は凄い日だな!」「俺帰ったら嫁に自慢するんだ」「凄くエロイ身体してないか?」「なんだあの美人は!」「アリア様はかわいいって印象だがレイナ様はお綺麗だな。」「目の保養になるぜ。」「踏まれたい。」
そう、レイナは有名人なのだ、クランへと加入する前から剣神と言う称号を与えられており、現在では黒薔薇の一員としてあのスタンピードでも大活躍だったのだ。
それに参加したウチのクランメンバーはレイナだけではなく、後数人漏れなく有名人だったりする。
横にいる軍の指揮官は、二連続の想像を超えた事態に顎が外れそうなくらい驚いている。
おや、気付かなかったけど、僕の横に可愛らしい女の子三人が跪いている。
この子知らない子ばかりだけど、アリアの部下だろうか。
冒険者ランクは皆Aランクぐらいだと推測される。
アリアはノアと同じくヒーラーなので護衛を付けているのだ。
冒険者はギルドで初めて登録すると、誰もがEランクからスタートする規則だ。
ソロでは自分と同じランクの依頼しか受けることができない。
パーティーを組んでいる場合は、パーティーメンバーの一番ランク低い者が基準となり
その者の1ランク上の依頼まで受けることができる。
コツコツと依頼をこなし、ランクを上げることで地位・名声・報酬がアップするが
それと比例して依頼内容が困難な物へと変化するのだ。
ランクはE→D→C→B→A→S→SS→SSSという順番となる。
アリアはランクSで、この子達は多分ランクAくらいだろう。
ちなみにレイナはSSだ。
依頼のランクは敵や立地等を考慮した難易度によって決定される。
クランのランクは所属しているメンバーのランクや実績が評価され〇級と言うのが一般的である。
クランマスターのノアは最近全く何もしていないのに、依頼に同行しているメンバーが活躍しているので黒薔薇はSSS級とされているのである。
「それじゃ君たちにお仕事です。盗賊のアジトの場所をレイナに聞いて、王国軍の人を連れて確認してくること。レイナのことだから討ち漏らしは無いと思うけど、散らばっていた盗賊が戻っているかも知れない。敵が居ることを想定して行ってきてね。敵に遭遇した場合は一人なら生け捕り複数なら殲滅すること。報告はアリアちゃんによろしくね。」
「「ハッ!承知いたしました。」」
彼女たちは早速行動を開始した。
「じゃぁ、アリアちゃん僕たちは先に帰るとするよ。騒ぎになっちゃったしね。」
「了解しました。マスター、あの、今度は私も同行させてくださいね?」
あざと可愛くすり寄って来るアリアの頭を撫でて宥めるノア。
「分かったよ。次は誘うよ。」
「ありがとうございます。」
「んじゃあね。レイナよろしく。」
「アリアまた夕食で。ゲート」
「は~いまた~。」
レイナの目の前の空間が黒く裂け開くと、そこにノア・レイナの順で入り込む。
二人の姿が消えると黒い裂け目は跡形も無く消え去った。
それは、本来であれば人族が使うことの出来ない魔法であり、その場に居る者は誰も知らない魔法を目にして暫くの間困惑しているようだった。
助け出された娘は、シリウス王国で三大貴族の一つと数えられているシュレイダー家の次女であり、後にノアの元へシュレイダー家からとてつもないお礼が届くのだが、それはもう少し先のことである。
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