Episode30
イライジャは焦っていた。
先程から何匹ものミノタウロスを後ろに通してしまっている。
倒した魔物の魔石は、倒した者に所有権が発生する。
これは冒険者の中では鉄則であり、獲物の横取りや擦り付けなどの危険行為も禁止されている。
A級冒険者パーティー:銀狼は聖女アリア以外はBランクである。
アリアによって引き上げられA級となっているだけで、同じBランクのヒーラーが入った場合には確実に銀狼はB級まで落ちるだろう。
それだけアリアの功績が大きく、ヒーラーとして卓越しているのだ。
それもそうだろう、ヒーラーとしての全てを叩き込んだのは、ノアなのだ。
メイジのローガンは土魔法を得意としているが、動きの速いミノタウロスに上手く避けられてしまっている。
打撃技を得意とするシルバも、筋骨隆々なミノタウロスには決定打となっていない。
このままでは名乗りを上げてまで、白夜から前衛を奪った銀狼の名に泥を塗ることになってしまう。
イライジャは焦る。焦りがミスを生むことはタンクが一番知っているはずなのに...
「くそっ!またミノがすり抜けやがった!」
すり抜けたミノタウロスは振り返りイライジャを殴りつける。
「カッッッッ!?」
吹き飛ばされながら何が起こったのか分からないイライジャ。
そのまま崖にぶつかって気を失ってしまう。
シルバは短気だった。短気故にイライジャが吹き飛ばされた瞬間に理性を失い、ミノタウロスに飛びかかっていた。
ミノタウロスは頭の角を飛びかかって来るシルバに向けると、勢いよく突き刺す。
胸に角が貫通したシルバは、瀕死の状態かもう既に死亡しているのだろう。
力なくぶら下がったままだ。
ミノタウロスは頭を振ることでシルバを地面に叩き落とし、頭を踏みつけ潰した。
周りに居る他の冒険者も弓や投石、下級魔法で援護しているが、ミノタウロスは見向きもしない。
次は、イライジャに回復魔法をかけて起こそうしているアリアが標的となる。
アリアに向けミノタウロスが走り出す。
「プロテクトシールド」
ミノタウロスとアリアの間に3枚ものシールドが出現するが、ミノタウロスは勢いに任せて1枚、又1枚とシールドにタックルをして割っていく。
「くっ!!!」
最後のシールドも割られ、アリアはミノタウロスに殴り飛ばされてしまう。
地面に数度バウンドし、転がり止まる。
「ゴホッゴホッ...」
血反吐をに塗れながらも、回復魔法を唱えようとするが既に目前まで迫ったミノタウロスの角の餌食となってしまう。
炎帝の放つ大魔法が視界の隅に映るが、どんどん視界も霞んでくる。
あぁ、私はここで死ぬんだ。
死が迫ると走馬灯が見えると言う。
今まで沢山の人を救ってきた。
いつの間にか聖女様と呼ばれるようになり、少し恥ずかしくでも嬉しかった。
人を助けたい、助けるのが生き甲斐だった。
「人を助けるのは良いことだと思う。立派なことだよ。でもね、それを理由に自分を犠牲にしちゃ駄目だよ。自分も救って初めて一流のヒーラーなんだ。」
そう言った人がいた。孤児の私に魔法を、生き方を教えてくれた人がいた。
あぁ、最後に会いたかった。
師匠・・・
アリアは静かに息を引き取った。
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