Episode110
「さて、先ずは見せたいものがあるんだ。」
イザベラはそう言うと、部屋の隅に置かれたテーブルの上に掛かる布を捲る。
すると、そこから出てきたのは地下迷宮『ヘラ』へ行く前に注文していた家紋入りマントやローブ、シャツなど一式が綺麗に畳まれて置かれていたのだ。
「わぁ、かっこいい!」
ノアは目をキラキラさせながらローブを手に取る。
「んふふ、かわいい。」
クロエはそんな物よりも、おもちゃを与えられた子供のように燥ぐノアしか見ていないようだ。
「ノア、貸して。」
ローブを着ようとしているノアのそれを取り上げ、クロエはノアにローブを着せてあげる。
「はい、これでいいわ。」
馬子にも衣裳と言う言葉が最も相応しいだろうか。
少女にしか見えないノアだが、このローブを着ると少しだけ立派に見える。そう、少しだけだ。
「かっこいい?」
「すご~くかわ、かっこいいわよぉ。」
クロエはそんなノアが可愛くて仕方が無いのだが、可愛いと言ってもノアは喜ばないことを知っているので、あえてかっこいいと変換して褒めた。
「そうかな~。」
喜びデレデレになるノアを初めて見たイザベラは、「私以外にはこんな表情もするんだな。」と少し切ない気持ちになる。
「クロエはメイジだからローブだね。はい。」
「ありがとう。」
ノアから受け取ったローブを羽織るクロエは、ノアとお揃いと言う喜びを嚙み締める。
「レイナとシュヴァルツはマントだし、非戦闘員はシャツだね。あ、アリアもローブだし...!!」
何かを思い出したかのようにシャツを持ってイザベラの前まで近づくノア。
「はい、イザベラの分だよ。いつでもウチにおいで。昔はパーティーに誘って断られたけど、クランはまだ誘ってなかったからね。」
「...」
シャツを受け取るイザベラは無言でそれを抱きしめる。
「あれ、嫌だった? 要らないなら返してもらうけど。」
「いや、検討しよう。」
「そか。」
ニカッっと笑うとノアは満足気にくるりとその場で回る。
「かっこいいだろ。」
「あぁ、かっこいいよとても。」
お世辞なのか、本音なのかはイザベラ本人にも分からなかったが、きっとそれは本心だろうとクロエだけは感じたのであった。
その後スタンピード殲滅戦の詳細をイザベラへと報告し、冒険者ギルドを後にした二人は貸りているギルドの別館へと帰って行った。
独りになったイザベラは、着ていた冒険者ギルド職員用のシャツを脱ぎ鏡の前で下着姿となる。
若い頃は自分自身も冒険者として一線で活躍していたイザベラだが、時は残酷なものである。
その頃は薄っすらと割れていた腹筋も、今では無くなっており。
今年で40半ばとなった年齢に比例するように、身体はすっかりと衰え始めている。
これでも早朝ランニングと筋トレは欠かさず毎日行っている。
だが、あの頃のような身体にはもうなれないだろう。
仕事漬けで色恋沙汰も無くここまで来た。
いや、唯一ノアにだけは、想いを寄せていた時期があった。
今となっては懐かしくもあるが、あの時の判断はこの先もずっと後悔していくだろう。
ノアに貰った黒薔薇の家紋が入ったクランシャツに袖を通す。
「あと20年、いや15年若ければ、な...」
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