佐藤真一の生活の変化
私がこの異能を手に入れてから3日、私の生活も変化してきた。大きな変化として外で物を買わなくなったということだ。人間が文明の中で生活するのに1銭も使わないというのはあり得ない。だから異空間銀行の無料付帯サービスである個人保護を使って毎回の食材の引き出しなど日用品の購入時にレシートが発行されるようになっている。例えば米を近くのスーパーで買ったことにするなど。また異空間銀行のキャッシュカードは大阪中央銀行の物だ。だから異空間銀行は大阪中央銀行の口座と連携している。だからお金の流れが自然になるように操作してくれている。これで親にバレたり、周囲から怪しまれたりするのを極力避けることが出来るはずである。
当然であるが私自身購入するものに気を付けなければならない。例えばグレード2以上の製品を購入してしまうなど。グレード2はこの地球上においては本当に希少な最高級品になってしまうので特に服やパソコンなど他人の目につきやすいものに使用すると羽振りのいいやつだと例え個人保護を使っていてもなってしまう。だから気を付けている。
それでもやはり私の生活は変わった。特に食生活である。今まではスーパーでわざわざ食材を購入していたが、今では毎度のように異空間銀行から引き出している。銀行は口座間でお金を動かす場合には手数料が発生するが、それ以外では手数料がかからないから便利だ。事業所の経営を始めたおかげで、私の食事は事業所で生産されている。そしてグレード1は大概それ以上のグレードを生産するときに発生した不純物であるらしい。不純物でこのおいしさであるからまあ驚いたものだ。例を挙げるなら今日の食事は20貫の寿司とエビ汁、そしてミックスサラダだ。オーナーである私には専属のサポートチームがいるらしく(会ったことはない。)彼らが私が身に着けるもの、食事を用意してくれる。
『佐藤オーナー、今日の昼食はどうされますか?』
『日の丸弁当を頼みたい。おかずは大学生が簡単に作れるようなものにしてくれ。』
『承知しました。』
『ところでなんだが、このパソコンは外に持ち出すのが怖い。連絡を常時取り合えるようにする方法はないか?』
『こちらのQRコードをお手持ちのスマートフォンで読み取っていただくと引き出し、預け入れは行うことが出来ませんが、我々との連絡、事業所の経営状況の確認に使用していただけます。』
『ありがとう。』
私はパソコン上のチャットに表示されたQRコードを読み取ってからチャットを閉じた。スマホのアプリケーションストアに遷移したが、現れたのは何の変哲もないチャットアプリだった。インストールはすぐに終わり、用意してもらった弁当を持ってアパートを出た。
大学に着くといつもと同じように授業が始まる。自分の学部の授業が始まった。内容は日本国憲法の授業だ。流石に自分の学部の授業はコマ数があるので普通に授業を受けている。事業所の経営はサポートチームに任せてあるから今まで通り、いや、お金の心配が無いから今まで以上に授業に集中できる。授業は一時間半、やっと終わった。
「お疲れ魔です。」
「お疲れ様です、佐藤さんでしたっけ。」
「そうです。お名前聞いても良いですか?」
「高木です。よろしく。」
「よろしく。」
「今日はこの後授業何がありますか?」
「次は・・・英語の授業がありますね。」
「私も英語です。もしかして同じ先生かな?」
「多分そうだと思います。」
「次の時間も同じか。折角だし食堂でご飯食べませんか?」
「良いですよ。」
私は入学以来一度も学生食堂で食事を食べたことが無かった。
食堂で自分の食べたいメニューのところに並んだ。
「カレーお願いします。」
「はい、カレーね。」
学生食堂だからすぐにメニューが出てきた。それから野菜を取ってレジに向かった。
「それじゃ食うか。」
「いただきます。」
カレーにスプーンを突っ込み食べたが、確実に事業所で生産しているものを食べたほうがおいしいと思った。それにこれに400円、0.4AGMとお財布の無いに等しいが、異空間銀行では1tあたり1AGMで買えることを考えるとかなり痛い。まあ友人を作る為の必要経費だと無理やり納得させ、食事を続けた。
「出身何処?」
「神奈川です。」
「俺は大分だからここをかなりの都会だと思うんだけど神奈川から見たらそうでもないのか?」
「まあ、神奈川と似たようなかんじですね。都会か田舎かと言われれば。」
「なるほどな。」
「大分に帰省する予定はあります?」
「ゴールデンウィークに帰ろうと思っている。ところで一人暮らし慣れた?」
「まあ今までやっていなかったことが増えたので大変でしたけど慣れましたね。」
「そうか。こっちは未だになれないよ。この前は不慣れな料理で火傷しちゃったし。」
「大変でしたね。」
私は異能のおかげで殆ど家事をやる必要が無いとは言えないな。
「ついでに生活するのにお金がかなりかかってしまってかっつかつだよ。」
「それは分かります。自分で食材を買うと最近の物価の高騰のせいもあって高いですもんね。」
言えない、地球の総資産額以上に持っているから生活に困らなくなったとは。
「そろそろ時間ですし授業に行きますか。」
「そうですね。」
それから私たちは英語の授業が開かれる講義室に向かった。
授業開始時刻になっても先生が来ない。それからしばらくたってもやはり来ない。
「この先生授業をやらないと書いてある。」
誰かがそういった。
「本当だ。毎回課題をメールで送るからそれをやるように、だって。」
私もそれを聞いて確認した。同じことが掲示板に書いてあった。
「本当だ。どうしましょうか?」
「俺は次の時間授業があるから帰れないんだよな。佐藤さんはどうする?」
「私は帰ります。」
「それではまた。」
「さようなら。」
高木さんと別れて私は帰路についた。
家に帰ると私は弁当を開けて遅めの二回目の昼食を食べた。こっちの方が断然おいしい。ついでに実質無料だ。弁当を完食したら金庫からパソコンを取り出して経営状況を確認した。
「現時点で既に100億の利益が出ている。すごいな。」
『大学お疲れ様です。工業分野に進出しました。こちらもグレード5の製品を製造しております。』
『ありがとう。引き続きよろしく頼む。』
『はい。』




