事業所の営業を開始する。
一晩経って落ち着いた。私はもう一度昨日引き出した米を確認した。やはりしっかりとした実体がある。私はその米を研いで炊飯器に入れた。
「うーん、今日は丁度作り置きがなくなったからみそ汁と納豆でも食うか。」
私は冷蔵庫から豆腐と味噌を準備し、そしてキッチンに置いてある顆粒だしを適当に水を張った鍋に入れて沸騰させた。沸騰したら豆腐を突っ込んで、最後に火を止めてみそ汁を溶かしいれる。10分以内に終わるこの作業は慣れてきた何日かに一回の習慣だ。ご飯が炊きあがるまであと30分はある。粗末ではあるが、朝食の準備を終えたので、昨日のパソコンを起動した。今日は事業の様子をしっかりと確認することにした。昨日はろくに見られなかったからな。そして今日はキャッシュカードが声を発さない。あれはチュートリアル用だったのかと思いながら総資産額を確認した。
「一十百千万…億…兆…京…なんだ、まだ続くのか。」
桁が多すぎてネットで調べた。結局京、垓まであった。現在の資産額は1垓AGMだった。1AGMは変動相場であるが、大体1000円前後になる。それで計算しなおすと資産額は1000垓円になる。日本の総資産を軽く超える飛んでもない額がある。どうやら私が所有する宇宙の資源を一切利用していないからそうなっているこれっぽっちの資産しかないらしい。加工品を製造すれば資産はもっと多くなるそうだ。ちなみにグレード1の米1tが1AGMで、本当は質量トンあたりの取引であるので事業所には米が995㎏貯蔵されている。基本的にグレード1は市場において廃品回収と同じような扱いを受けるらしいので、ただ同然で叩き売りされているらしい。
「なるほど、で預金額はいくらなんだろうか。」
続いて現金の欄を確認するとなんと一万AGMしかなかった。資産との差額に唖然としてしまった。つまり私の事業所は資本金一万AGMだったのか。私は早速事業を起こそうと決めた。
『ピー、ピー、ピー。』
ご飯が炊けた。私はひとまずパソコンを放置して朝食を取り始めた。
「この米うめ―!」
グレード1の米のおいしさに驚いた。これがグレード1であればこれ以上のグレードはどんなものであろうかと思った。私にとってはグレード1で十分、そう思える感じだった。つい箸が進んでしまって気が付けば今日炊いていた2合を全部食べてしまった。
私はパソコン上で作業を始めた。マーケットの調査データによると大体の分野で最も需要が高いのはグレード5であるらしい。これは20段階中の5であるから比較的低めであると言えるだろう。それで私はグレード5の製品の製造を命じた。初期から整備されている工場ではグレード5までの生産が可能であるらしい。宇宙空間の恒星のまわりに形成されているハビタブルゾーンにある3つの地球に類似した惑星で農作物の生産を開始し、その農作物を加工した加工食品を売ることにした。売買は任せてひとまずこの操作を行った。
「ひとまずこれで様子を見てみるか。」
私は朝食の皿を洗い、大学に向かった。
大学の授業はまたオリエンテーションみたいなもので授業の開始は来週になりそうだ。今日も結局座っていただけだった。今日は15時まで、私は周囲から認識されていないが経営者になったわけだ。経営をする。このことに面白さを見出していた。授業の話は興味がなくて耳を通過していった。
私は帰宅する前に大学内に設置された大阪中央銀行のATMに例のキャッシュカードを差し込み、取引を開始した。ATMで出来るのはあくまでも円しか取り扱っていない。昨日言われた通り暗証番号4桁を逆から入力すると異空間銀行の画面に遷移した。そしてこの9999AGMの内、100AGMを引き出した。ATMを通しての引き出しの場合、一律1AGMあたり1000円となっている。にしても完全に損しているな。本当にそう感じた。
とりあえず100000円を引き出し、大学の最寄駅にあるATMで100000円の預け入れをした。同じATMで引き出して預け入れるのは傍目から見たら異常者にしか見えない。不審がられてこの能力がばれたらどんな事になるか考えただけで恐ろしいと考えた私は出来るだけ目立たないようにしていた。
帰宅をして窓を閉め切ればそこからは一気に自分の時間となる。セキュリティーに万全を期すために権利書とパソコンを異空間銀行で所有者以外、見ることも触れることも出来ない不可視、非接触の金庫を引き出した。そこからパソコンを引き出して事業所の今日の売り上げを確認した。
「本日の売り上げは・・・ざっと9千万AGMか。」
これでも日本で生活するには十分すぎる額だった。
現在の預金額9千万9千8百9十9円