佐藤真一、とんでもない能力を手にする
私は佐藤真一だ。大阪の大学に今年の春に入学したばかりだ。初めての一人暮らし、やることは多い。家事は勿論のこと行政手続き、そして金融機関での手続きなどやることはいっぱいだ。
「さて今日は講義の前に銀行に寄って家賃の口座振替申請をしなくちゃ。」
私は面倒だと内心思いながら昨日の夜事前に書いておいたものに目を通していた。
『ピンポーン、ピンポーン。』
「はーい。」
「郵便でーす。」
扉を開けると郵便局員が封筒を三つほど持っていた。
「佐藤真一様で間違いないでしょうか?」
「間違いないです。」
「簡易書留の郵便が三通ございます。それぞれにサイン又は印鑑をお願いします。」
「はい。」
私はそれぞれにサインを書いた。封筒には金融機関の名前が書いてあるからやっとキャッシュカードと同時に申し込んでいたクレジットカードが届いたのだろう。
「それでは失礼します。」
「ありがとうございました。」
私は朝早くから配達をしてくれた配達員にお礼を言って扉を閉めた。
「さて、開けますか。」
私は筆箱に入れているカッターで封筒の上の部分を切ると中身を取り出した。そしてキャンペーンの案内を無視して台紙に貼ってあるカードを台紙から剥がした。
するとカードが光り出し、まぶしさを感じた。
「佐藤真一さん。異空間銀行のキャッシュカードをご利用いただきありがとうございます。」
「異空間銀行!?私は大阪中央銀行のキャッシュカードを受け取ったと思っていたぞ。」
「確かに佐藤真一さんは大阪中央銀行での口座開設を申請したことは間違いではありません。その通りです。これはその銀行とは別の神からのギフトです。」
「神?どういうことですか。しっかり説明してください。」
「神を説明するのは難しいですが、異空間銀行の説明は可能です。まず異空間銀行というのはその名の通り異空間にある銀行で様々な世界とつながっています。佐藤真一さんは異空間で事業をなさるので異空間銀行の口座開設が自動で行われたということです。」
「私はそんなことをした覚えはないが。」
「そうですね。異空間での事業も神があなたへのギフトとして用意したものですから。先にキャッシュカードが到着しましたが、夜にまた権利書と事業用の設備が届くはずです。」
「そうですか。」
私は全く信じられなかった。いや、この状況を誰が信じることが出来ようか?いや出来ない。
「捕捉ですが、これは確かに大阪中央銀行のキャッシュカードです。普通に使用できます。異空間銀行の口座にアクセスするにはATM上で暗証番号を逆から入力してください。その後に静脈認証をすれば良いです。また夜にお会いしましょう。」
カードが真っ白に光っていたが、それは収まった。
「なんだったんだ?」
私は今まさに起きていた超常現象を整理できずにいた。
「あ、やべ!、急いで銀行に行かなきゃ!」
私は急いで大阪中央銀行に向かった。
・・・
「以上で口座振替手続きが完了しました。お支払い開始日は当行からではなくお振替先からお知らせされますのでよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
私は手続きを終え、午後一番の三限から授業を受け始めた。
今日は英語と一般教養の保健衛生学、そして体育だ。
それぞれ初回授業ということもあり、自己紹介であったり、教授の雑談であったりにずっと付き合うような時間だった。だるい、と思いながら身のない時間を過ごした後、私は自転車で20分ほどかけて帰宅した。
「ああ、今日はだるかった。」
一人で愚痴を言いながら大阪中央銀行のキャッシュカードを手に取った。
「これは一体何なのだろうか?」
そう独り言を言った直後、
『ピンポーン、ピンポーン』
呼び鈴がなった。
「はーい。」
『宅急便でーす。』
私は扉を開け、A4サイズの分厚い塊とパソコンが入っていそうな長方形で薄めの物を受け取った。私はこんなものを頼んだ覚えがないが、まさかあれは幻覚ではなかったのか、と思いながら受領印の欄にサインを記入した。
「ありがとうございました~。」
私は扉を閉め、まずA4サイズの分厚いパックの方の封を開けた。すると異空間事業所権利書、また異空間所有権利書、事業概要、資産目録が出てきた。権利書も200枚ほどが冊子としてそれぞれまとめられており、合計して800ページ分の資料が現れた。これは重いわけだ、と思ってダイニングテーブルに平積みした。
その後もう一つの重量は比較的軽いものを開封した。パッケージを開けると透明な保護シートに囲まれ、両脇をしっかりと梱包材で保護された高級感のあるシルバーのパソコンが出てきた。それを取り出すと下に付属品と書かれた小箱が入っており、それを開けるとカードリーダー、電源コードらしきもの、そしてなぜか腕時計が入っていた。
それを開封して机の上に置いた。
「しっかりと届きましたか。それでは説明しますね。」
宅急便が来たときにダイニングテーブルの上に置いてあったキャッシュカードが朝と同じように光り出し、声を発し始めた。
「それでは早速パソコンを起動してみましょうか。これはインターネットバンキング、資産運用、そして事業運営の為のパソコンです。初期設定がありますので、ガイドに従って操作を実行してください。」
自分の氏名、生年月日を登録した後、腕時計の認証というものを行った。なんでもこれが本人の腕に装着されていることがこのパソコンが本来の用途で使える為の鍵の一つとなるらしい。いつもは慣れ親しんだ有名なOSのパソコンとして使えるそうだ。異空間銀行が本当であるなら勿論怖くて用途外の使用はできないが。それからキャッシュカードを認証し、最後に権利書の冊子の表紙に埋め込まれていた黒いカードを認証して初期設定を終了した。このブラックのカードは権利者以外が決して手に触れることが出来ないように作られているらしい。
「これで初期設定は完了しましたね。早速ですが、異空間銀行を使用してみましょう。」
「何をするんですか?」
「そうですね。まず米でも引き出してみてはどうですか?」
「米を引き出す。そもそも銀行ってお金を扱うところですよね。それにお金を引き出すにはATMに行かなくてはいけないのではないですか?」
「異空間銀行は普通の銀行と異なるところが多いのです。まずはやってみてください。」
私はカードリーダーにキャッシュカードを挿入し、引き出しを選択すると、通貨選択の画面に遷移した。
「そうしたらその他、物品を選択してください。」
「分かりました。」
その他、物品を選択するとキーワード入力の画面が表示された。
「これに米と記入してください。」
「はい。」
キーボード上で米と入力すると、グレードや用途別の画面が表示された。用途は勿論日本食で炊飯用だ。
「グレード1が日本におけるブランド米のグレードです。グレード2以上はかなりの品質です。好きなグレードを選択してください。」
私は庶民なので一番低いグレードを選択した。
「最後に重量、又は体積で指定してください。」
私は5㎏と入力して入力内容を確認するの画面に遷移させ、最後に確認を押すとダイニングテーブルの横に袋に入った米が現れた。私は目をこすってもう一度確認し、次にほっぺをつねって痛いと感じた。そして米の袋を確認してみるが、しっかりと触れることが出来た。この異能は現実のものであることを改めて認識した。
「まじか・・・まさか本当だとは・・」
「物品を引き出す場合、同一のものを所有されていればそのままお引き出しになりますが、引き出す物品を所有されておられない場合は総資産額から物品の価値分を天引きします。基本はAnother Galaxy Money略してAGMの預金額から引きますが、足りない場合は事業所の製品などの資産から引きます。詳しくはこの利用規約に書いてありますので確認してください。」
私はとんでも能力を手に入れてしまった。