(16)
時は変わって、王立魔法アカデミーの研究室。
研究室にはワイズマン教授と二人きり。『西風の宮』での事件については箝口令が敷かれているが、ワイズマン教授は事情を知っているので、聞くなら今がチャンスだと考えた。
わたくしは魔法陣を成形するための数式を練っている教授に声をかける。
「――教授、例の魔道具の出どころは判明しましたの?」
「……わかっているとは思いますが、他言無用ですよ」
わたくしの問いに、教授は小さくため息をついた。それでも答えてくれるのはわたくしが当事者であり、ヒューストン侯爵家の娘だからであろう。
「魔法式の様式からして、我が国で作られたものではないでしょう。おそらく隣国から流入してきたものかと考えられます。入手経路については、恐らく『裏』の者たちから手に入れたのではないかと言うのが私の見解です。もちろん、王妃殿下が直接やり取りをしているわけではないでしょうがね」
そこまで説明すると、「隣国がグリトグラ王国内に混乱をもたらすために手配をした可能性は十分にあり得ます」と物憂げに答えた。
ワイズマン教授が隣国の艦隊を嵐で沈めた結果、隣国は我が国をかなり恨んでいるようなのだ。我が国からすれば逆恨みもいいところなのだけれど、隣国は軍事力に自信があったようで、それがたった一人の魔法師に追い返されたのだから相当プライドを傷つけられたのだろう。
隣国では王家の求心力が相当低下していると聞く。
そのため、足の付かない程度のちょっかいをかけて、我が国に内紛が起きた隙に——という策を練っていたとしても不思議ではない。
「近く、私にも戦場に出るようお呼びがかかるかのしれませんね」
そう言って、ワイズマン教授はため息を吐いた。王国に優秀な魔法師は多いが、ワイズマン教授ほどの才能と実力の持ち主そういない。優秀過ぎて周りがついていけない節はあるが、単独でも一軍を相手にできるほどの『戦術兵器』なのだ。
平和だった王国に、不穏な空気が漂っている。その根幹に第一王子と第二王子――正確にはそれぞれの派閥同士による対立があることは間違いない。本来は長男であるセオフィラス殿下が継ぐのが筋ではあるが、彼が第二王妃の子であるというねじれの状態が事態をややこしくしていた。年齢も一つしか変わらないし、能力的にはジュリアス殿下の方が明らかに優れている。セオフィラス殿下を立太子させれば面倒なことになるのは明々白々だった。
各貴族家も第一王子セオフィラス殿下につくか、第二王子ジュリアス殿下につくか、態度を明確にしなければならないだろう。いつまでも後継者が決まらない状態が続けば、それこそ隣国に付け入られるというものである。
それは我が侯爵家も、同じことである。しかし女であるわたくしが、政治のことに口を出せるわけでもない。まさか父に限ってディオール・ウィリアムズ陣営に付くとは思わないが、何が起こるかわからないのが政治の世界だ。
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