(10)
宝石は後日タウンハウスに届けてもらうことにして、わたくしたちは商業区にあるレストランを訪れていた。
上位貴族ご用達のレストランは、当然のように全席個室性。設置されている家具や調度品も一級であれば、店員の振る舞いも一級。希望すれば防音の魔法もかけてもらえるので、良い話も悪い話もし放題だ。
わたくしはテラス席でゆったりと食事をする方が好みなので、この店の存在は知っていても利用をしたことはなかった。けれど、ジェフリーはあるのでしょうね。第二王子殿下のお付きとか、お父様に連れられてとかで——その時に食べた料理がおいしかったのかも知れないわ。
お食事は楽しみ——なんだけど、個室のはずのこの部屋で、なぜか先ほどの視線を感じるのよね。別に悪意もないし、いやらしい感じもしないし、放置していたのだけれど。わたくしが気付くのにジェフリーが気付かないとは思えなくて。
思い切ってわたくしは、ジェフリーに意見を求めることにした。
「ねえ、ジェフリー。今日ずっと——誰かに見られていると言うか、何か視線を感じるのだけれど」
「えっ」
「えっ」
わたくしの言葉に、ジェフリーはあからさまに狼狽し始めた。手をもぞもぞさせて、目を泳がせている。——これは何か知っているわね。
「ま、まさか——僕が何か知っているわけがありません。だ、だだ大体この店は個室性ですよ。姉上の左斜め後ろに隠された覗き穴なんて、あ、あ、あるわけないじゃないですか」
なるほどわたくしの左斜め後ろに覗き穴が……。
わたくしが左斜め後ろに視線を向けると、確かに小さな穴が開いている……。
「とう」
「あっ」
わたくしは躊躇うことなく、その覗き穴に指を突っ込んだ。
覗き穴の向こうから、「ぐぇっ」と言う悲鳴が聞こえたのは、それと同時だった。
もし「続きを読みたい」「ちょっと面白い」と思っていただけたら、「ブックマーク登録」「広告下の評価ボタン(できれば★5つで!)」「いいねボタン」を押していただけると更新の原動力になります。あなたのワンポチが未来の執筆に繋がります。ぜひよろしくお願いいたします。