表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流産にあこがれて  作者: 実鈴
8/11

別れを予感させるメール

その日の夜も一緒のベッドに入り、優しいキスをして眠りについた。

 明日は東京に帰らなければいけない。

 

 翌朝、目覚めてまたベッドの中でキスをした。何度もキスをして、貫洞はわたしの顔や首をなぜた。

 繰り返しなぜるうちに、胸へと手が伸びてきた。ビクッと体が反応する。


「ごめん!」

 謝られると反射的に


「大丈夫だよ」

 と言ってしまう。そしたら、意外そうな顔をして、さらに胸を触ってくるではないか。

 ちがう、許可したわけじゃない!

 軽くパニックになりながらも抵抗できずにいると、手がお尻に伸びてきた。


 それから、お腹に…だんだんと下に降りてくる手を、パシッと捕まえた。


「あ、ごめん」

 貫洞はベッドを出て、トイレへ立った。

 申し訳ないことをしたと思いつつ、何もできず、わたしはその日東京に戻った。

 


 わたしは律儀に、帰ってからクラス全員に大阪土産を配った。たこ焼き味のプリッツだ。

 単位制であることと共に、クラス替えのない学校なので、一年で退学した貫洞のことはクラス全員が知っていた。

 

「したの?」


 そんな質問を何人かから受け、してないと言うと、みんな声をそろえて貫洞がかわいそうだ、何しに大阪まで行ったんだと言った。

 わたしはわたしで、あの優しいキスを思い出しては、時々赤面していた。

 それからと言うもの、ドラマのキスシーンがとても特別なもの見えて、ストーリーにかかわらず、キスシーンにえらく感動するようになってしまった。

 

高三の夏前、貫洞は東京へ帰ってきた。


これまで何度か帰省はしていて、そのたび友達を含めた大人数で会う機会はあったけれど、今回は帰省ではない。これから貫洞は東京で生活をするのだ。


 ふたりは遠距離恋愛を乗り切った。


 実家に戻ってきた貫洞は、飲食店の厨房で働き出した。わたしはもちろん高校生で、それからは時々デートもした。

 あんなにキスした二泊三日がうそのように、また手もつなげないふたりに戻っていたけれど。

 

 高校生というのは忙しいもので、月曜から金曜、場合によっては土曜まで学校があり、わたしはバイトに加えて部活にも入っていた。日曜日は地元の友達と会ったりして、それが当たり前だったけれど、仕事をしていた貫洞は、そんな生活をまぶしく思っていたようだった。わたしが調整できるのは、日曜日の予定ぐらいのものだ。


加えて、わたしと貫洞の家は学校を挟んで真逆だった。それぞれの家へ行こうものなら一時間半はかかる。

そんな事情もあり、普通の高校生カップルに比べると、デートの回数はとても少なかった。 

 ある日、貫洞から来たメールには「実頼ちゃんの青春を無駄にしてしまっている、俺は何もしてあげられない」

 とあった。文末には「話したいことがある」とも。


 それは、別れを予感させるメールだった。

わたしは変わらず、ずっとずっと貫洞のことを考えていた。だけど彼が何を求めているのか、わからなかった。



 それから、貫洞はわたしをお酒のある店に誘った。童顔な高校生ふたりをよく店に入れてくれたものだと思う。


「貫洞くんお酒飲めるの?」

 なんとなく小声になる。


「あんまり強くないけど…実頼ちゃんは?」

「わかんない、友達の家で缶チューハイ飲んだことあるけど…」


 そこはアラビアのような内装で、おしゃれな料理やよくわからないお酒が揃っていた。

 こそこそと相談して、貫洞はモスコミュール、わたしはライチソーダを頼む。


「あの、これと、これを…」

 やましい気持ちがぬぐえないわたしたちは、かわいい制服の店員さんの顔を見ることができなかった。

 少しお酒を飲んで、緊張もほぐれてきたころ、なるほどお酒の強くない貫洞は、すぐに赤くなった。わたしの頼んだライチソーダは爽やかで、そこまでお酒の味も感じす、おいしかった。


「実頼ちゃん、お酒強いんじゃない?」

 そんな風に言われたけれど、ふたりとも一杯でやめて水を頼んだ。

 何か言いたげな貫洞と、何も言わないでと願うわたし。

 そんなデートが何回か続いて、お酒の種類も少し覚えた。カルアミルクというのはほとんどコーヒー牛乳だ。



ある日の帰り道、貫洞はホームまで送ってくれた

いつもと少し違うのは、貫洞が何も話さないこと、それから手をつないでいること。


「何もしてあげられなくてごめんね」


 電車が到着するアナウンスが流れる。

わたしは、答えられずに首をふった。それから無言のまま、電車を待った。これで終わりなんだろう、そう感じるには十分な雰囲気があった。でも、確認したい欲求にかられる。

 電車がホームに入ってきたタイミングで口を開いた。


「これで、別れるってこと?」

 貫洞は下を向いて


「うん」

と答えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ