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流産にあこがれて  作者: 実鈴
7/11

悲しい曲と、チャーハンと、甘すぎるポッキー

 パジャマに着替えて、同じベッドに入ると、

 貫洞は音楽をかけた。それはいつも聞いていると言っていた歌手の歌で、ベッドの中で音楽の話をしたりした。


「俺、寝るとき音楽かけて寝るんだ」

「毎日?」

「そう、静かなの、さみしいじゃん」

「そっか」


 そのうち会話が止まり、貫洞がこちらに体を向けたのがわかった。


 彼のほほがわたしのほほに触れる。


 よけていいものか、受け入れていいものか判断がつかず、固まっていると、貫洞が言った。



「ずっと考えてたんだけど、キスしてもいいですか?」

 

「…はい」

 貫洞のやわらかい唇が、わたしの唇に当たる。


 これが、キスか。

 付き合いだしてから一年以上がたっていた。


 何度か唇が当たるキスをしてから、貫洞の舌が、口の中に入ってきた。とまどいながらも受け入れると、それはとても暖かく、とてもとてもやさしいものだった。

 

さっきの訂正、これがキスだ。

 

わたしは幸福感で体中がいっぱいになった。好きな人の匂いに包まれて、この人のことが本当の好きだと改めて感じ、体も心も好きでいっぱいになっていった。


「好きです」

 思わずこぼれ出た言葉に、貫洞は優しい声で返した。


「僕も好きです」


 僕なんていつも言わないのに。

それから何度もキスをして、わたしはいつの間にか眠りに落ちた。



雨の日も風の日にも

眠れない嵐の夜も

一人になることを怖がってる

失った恋などもう

忘れたんだと笑っては

手当たり次第電話をかけて

ごまかしてる本当はすごく…

泣きたいくせに



貫洞がかけていた曲が、夢の中でもずっと流れていた。ファーストキスのテーマソングは、改めて思い出すと、あまり幸せそうな曲ではなかったな。


翌日の昼は近所においしいラーメン屋があると言う貫洞に連れられて、ラーメンを食べに行った。

壁に向かっているカウンター席に通され、ふたりで肩を寄せてメニューに目を落す。醤油ラーメン、塩ラーメン、各種トッピングも選べるようだ。餃子や、定食メニューもあって、中華店に近いラインナップが並んでいた。


「俺、醤油、実頼ちゃんは?」

「ええと…」

「塩もうまいよ」


わたしが悩んでいるのは、ラーメンを頼んだら、貫洞くんの隣でゾゾゾゾと音を立ててラーメンをすすらなければならないことだ。 

はるばる大阪までやってきたけど。昨日キスしたけど。ラーメンをすするのはどう考えても恥ずかしい。


「えっと…」

貫洞はせかさずに待ってくれる。


「チャーハンで!」


「え?チャーハン?」


貫洞はクスクス笑うと、店員さんを呼んで醤油ラーメンとチャーハンを頼んでくれた。


「チャーハン好きなの」

言い訳をしているようで、なんとなく気まずくて、耳が熱くなるのを感じた。 


 それから京都まで足を延ばした。

 念願の京都に貫洞はとてもうれしそうだったけれど、わたしはラーメン屋の一件のせいで、何を見たかよく覚えていない。ごめんね貫洞くん。

 

 その日帰宅すると、貫洞からしてみたいことがあると言われた。

「なになに?」

「これ!」


貫洞が出してきたのは、抹茶味のポッキーだった。昼に京都で買ったらしい。

「ポッキーキスしてみたい」

「え!」


 いたずらにそう言われ、驚いたけど、断る理由はないだろう。なにせわたしたちは昨日キスをしたんだから。


「はじから食べるやつ?」

 改めてそういうと、貫洞が恥ずかしそう「そう」に返事をして、袋を開ける。

 ものすごく恥ずかしい空気だけど、もうこれはやるしかない!

 貫洞がわたしの口に抹茶ポッキーを入れる。


「ん」


 これは食べ進めればいいのかな?

 などと思っていたら、貫洞が逆側を口にして、ポリポリ食べ始めた。その顔は真っ赤だ。

 うつむきたい気持ちを奮い立たせ、わたしも食べなくちゃ!と必死に食べ進める。

 貫洞の顔が近づいてきて、思わず目をつぶる。それと同時に、柔らかい唇が当たった。


 顔が離れると、やっと甘い抹茶の味がしてきて、ふたりでうつむいて、そのままポリポリとポッキーを食べた。


 これはラブラブなカップルは一袋食べきるのか?そんな風に思いつつ、恥ずかしさは限界を迎えていた。


「…夜、何食べる?」

 貫洞も同じように感じていたようで、残りのポッキーを食べ始めたので、わたしはへへっと笑い返した。



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