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流産にあこがれて  作者: 実鈴
6/11

一緒に寝ようよ

十六歳のわたしたちにとって、東京と大阪の遠距離恋愛は辛いものだった。


明日になれば顔が見られるという約束はなくなった。明日は少し顔を見て話せるかな、そんな風に希望をもって過ごすことができなくなった。もちろん、下駄箱に手紙が入ることもない。

加えて、一人暮らしをしていて、経済状況が不安定な貫洞はよく携帯が止まった。

当時はパソコンで気軽にスカイプができるような環境はなかったし、そもそも高校生がパソコンなんて持っていなかった。スマホの登場ももう少し後のことだ。


好きな気持ちを持て余しすぎて、当時のわたしは有線でラブソングが聞こえてくるだけで涙があふれてしまうほど、情緒不安定だった。

いや、思春期なんて実はみんなそんなものだったのだろうか?

コンビニでアルバイトをしていたので、品出しで一人になると、音楽が耳に入り、涙ぐんでしまう。なかなか哀愁ただよう高校生だったと思う。J-popっていうのは、ラブソングが本当に多い。 


貫洞は京都が好きだった。いつか一緒に行きたいと、手紙に書かれていたことを思い出す。カレンダーを見ると、学校は来週、四連休があった。四連休あれば、友達の家に泊まることにして、大阪に行けるんじゃないか、新幹線がいくらかかるかな、お金ならバイトで貯めた分が少しある。


そう考え出したら、いてもたってもいられなくなって、バレンタインのチョコレートと一緒に『来週行くから!』と手紙を添えて送った。その時も貫洞の携帯は止まっていたので、わたしからの連絡手段は手紙を書くほかなかったのだ。


そうなると、見送りの東京駅で「手紙書くね」と言ったのは、まったく間違いだったとも言えないと思い返す。


高校二年の冬のことだった。


貫洞からの返事を待つことなく、連休はやってきた。お金があったから新幹線を選んだわけではない、夜行バスで行くという手段を知らなかったのだ。女子高生が夜行バスに乗るのは危なかったかもしれないし、多少高くても新幹線は正解だっただろう。


ひとりで新幹線に乗るのはもちろん初めてだったし、切符の買い方もわからなかった。    

けれど、その時のわたしは小さな不安に対して、わくわくする気持ちが何倍も上回っていた。

暗記するほど見つめた住所の紙を握りしめて、十七歳のわたしは一度も行ったことのない彼氏の家を探した。

貫洞は飲食店で働いていたので、高校の連休と貫洞の休みが重なっている確率は極めて低く、あの日玄関チャイムを押して、貫洞が出てきたことは奇跡だったと思う。

「え?本当に来たの⁉ちょっと待ってて!」

 玄関に出てきた貫洞はすごく驚いていたけれど、その中に嬉しそうな表情を見つけてほっとしたことを覚えている。

 ちょっとと言ったわりに貫洞はなかなか出てこなくて、その間掃除機をかける音が聞こえた。


「手紙読んだ?」

 そう聞くと、改めてうれしそうな顔を見ることができた。

「読んだけど、まさか本当に来てくれると思わなかった、しかも俺、今日から二連休なんだよ」

 泊りはおろか、デートらしいことも片手で数えられるほどしかしていなかったことを、忘れていたわけではないけれど、部屋に入れてもらうと急に冷静になった。どうやって過ごしたらいいんだ。

 

その日はピザをデリバリーして家で食べた。

突然来たわたしのために布団の用意などなく、どうしようとぼんやり思っていたら、貫洞から

「一緒に寝ようよ」 

 と、申し出があった。

わたしが性的な行為をいやがっていることは、貫洞も知っていた。それなら同じベッドに寝るなんて、十七歳男子には酷なことだったかもしれないと、今ならわかる。


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