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流産にあこがれて  作者: 実鈴
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コンドームって知ってる?

コンドームの存在を知ったのは、確か中学一年生の時だった。


 児童館に遊びに行くのが流行っていた時期があって、中学生ともなれば、遊びの帰りがけにコンビニに寄って、買い食いすることだって珍しくない。

遊ぶ範囲は極めて狭く、自然と学区内に留まるものだ。


友達とコンビニに寄ると、別のグループの友達に会うことだってよくあった。大人になってから街で偶然会うような驚きはそこにはない。

友達のサヤとコンビニの駄菓子コーナーを物色していると、棚の裏側から聞き覚えのある声が聞こえた。同じクラスの松田友里恵たちだ。


「友里恵ちゃん!」


声をかけると、少しだけ友里恵が慌てるそぶりを見せて、こちらを振り返る。


「なんだー!実頼か!びっくりさせないでよ」

サヤと一緒に友里恵の方へ近づくと、何か箱を見せてきた。

「ねぇ?これなんだか知ってる?」

ニヤニヤとした笑いを浮かべて、友里恵はその小さな箱をわたしに手渡した。受け取って、なんだかわからず箱を裏に返すと、サヤがのぞき込んできた。


「あ!」

声を上げたのはサヤだった。その顔を見るとみるみるうちに耳まで真っ赤になっていた。

「みよ、行こう」

サヤは友里恵の顔を見ないで、この箱をそっと棚に戻した。

「え?」

事態が呑み込めないわたしの腕を、サヤが引く。

「友里恵ちゃん、酒井さんまた学校でね」

慌てて友里恵とその友達に手を振った。その後ろには別のクラスの子もいたようだけど、知らない子だった。

「サヤ~!ごめんね~」

友里恵がサヤにあやまる声を聞きながらコンビニを後にした。その声に深刻さはなく、少し笑っているようにも聞こえた。


後からサヤが顔を真っ赤にして、箱の正体を教えてくれた。

「あの、ゴムでできている、大人が使うやつだよ」

「大人?」

「この前の保健体育でも出てきたやつ」

「絆創膏?大判の絆創膏!」

サヤはじれったそうに口をパクパクさせた。


「コ・ン…」


「コン?」


「コン・ドー…」


 そこまで言われてやっと察したわたしは思わず口を押えた。


「あ!」


 最初からコンドームという単語を出してくれれば分かったのに。わたしは避妊具が箱に入って、コンビニという身近な場所に売っていることを知らなかった。

 その日のことは恥ずかしい思い出として、しばらく頭を離れなかったけれど、のちにコンドームは大切なものだと気がつき、さらには不要なものだという域にまで達することとなるのだ。


 彼氏と呼べる存在ができたのは、高校一年生の時だった。もちろん清く正しいお付き合い。わたしたちは同じ教室にいるのに、恥ずかしさから直接話すことがなかなかできず、毎日のメールのほかに、下駄箱に手紙を入れ合うというまるで昭和な交際をしていた。

 そう言うと、彼氏は黒髪に眼鏡の真面目なタイプを想像するかもしれないけれど、貫洞は校則違反の茶髪に、ピアス、腰パン、上履きは踏んずけて、なんならタバコも吸っていた。わたしが初めての彼女というわけでもなく、それなりの経験もあったようだ。


 貫洞はその珍しい苗字と派手な見た目で、少し目立っていた。『かんどう』と読み、『感動』ではなく、『安藤』と同じイントネーションだ。

「おはよう!」


 ある日、貫洞から突然携帯にメールが来た。


アドレスを教えた覚えはなかったけれど、クラスメイトからのメールを無視するわけにも行かず、少々困りながら返信したのが最初だった。後からわかったことだけど、わたしのアドレスを教えたのは、同じ委員会になった園田さんだった。

 

 園田さんとは、入学当時席が近くて、なんとなく同じ委員会になったけれど、それから特に仲が深まるでもなく、委員会がある日だけ話す程度の仲だ。

旅行委員会の仕事は、遠足や修学旅行の行先を話し合ったり、クラスでアンケートをとったりするのだけど、はたして旅行に対して、どの程度の決定権が生徒であるわたしたちにあるのかは謎である。

貫洞は教室で話しかけてくることはほとんどなかったけど、メールでは積極的だった。

好きこそ言われてはいないが、恋愛経験の多くないわたしでも、好意を持たれていることは感じていた。


メールはだいたい、夜八時頃「今なにしてるの?」からはじまり「おやすみ」まで続いた。わたしも次第にメールのやりとりが楽しくなってきて「今なにしてるの?」をそわそわしながら待つようになった。

返事をあまり早く送ったらよくないかなと、五分は時間を空けようと我慢してみたり、逆にメールの返事がなかなか来ないと、携帯ばかり確認していた。内容は本当にたわいのないものだった。


貫洞:いまなにしてるの?

実頼:ドラマ見てたよ

貫洞:8チャン?

実頼:そう、見てる?

貫洞:見てないや、メール後の方がいい?

実頼:もう終わるから大丈夫、貫洞君は?

貫洞:実頼ちゃん何してるのかなーって思ってた

実頼:ドラマ見てたよ

貫洞:さっき聞いた!

実頼:今日、さおちゃんたちとお弁当食べてたね

貫洞:なになに?やきもち?

実頼:え~ちょっと気になっただけ

貫洞:本当?

実頼:まぁやきもち?なのかな?

貫洞:えっうれしい、スギがさおりちゃんと部活一緒でその相談だって

実頼:ああ、杉本くんバスケ部だもんね

貫洞:そう、安心した?

実頼:うん

貫洞:かわいい

実頼:もう!


お互いに好意駄々洩れの状態だったけれど、貫洞は電話でちゃんと告白をしてくれた。

いつもメールなのに、その日は突然着信音が鳴り、家族に聞かれたくなくて、あわててベランダに出た。


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