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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雷光の戦士ブリッツセーバー〜またの名を、百合に割り込む男絶対許さないマン!〜

作者: シュガーロック

 





 K市美多原町某所にある、白百合高校。


 元々は女子校であったのだが、少子化を初めとしたなんか色々な大人の都合で5年前に共学化した高校である。




「はぁー……校内を歩くだけでいるわいるわの女子カップル、つまり百合……!」




 校内を歩き回りながら悦に浸る女子生徒、百合野(ユリノ)ヨシコ。

 想い合う2人の女性の人間模様、つまり百合を描いた作品をこよなく愛する事以外は普通の女子高生である。



「百合の花園と噂のこの高校、私にとってはまさにパラダイス! 塾の先生に確率半々とか言われたけど本気で頑張ってよかった……! あちこちに尊みが溢れている……あぁ、甘美、甘美……」





 今にも踊り出しそうな勢いで教室へ戻るヨシコに、1人の女子生徒が駆け寄る。




「ヨシコちゃん!」

「あっフミカ、おいすー。どしたの?」



 ヨシコに駆け寄った、ふわっとした長髪を持つ女子生徒の名は金城(キンジョウ)フミカ。ヨシコの友人である。




「はいこれ、昨日貸してくれた本」

「えっ、もう全部読んだの?」

「うん、面白くてページをめくる手が止まらなくって……」

「でしょー! フミカなら絶対気に入ってくれると思ったんだー!」



 フミカの嬉しそうな顔を見て、ヨシコも笑顔になる。



「うん! 中盤の王子の台詞、すっごくかっこよかった」

「分かるー! 私もそこ好き! あんな事言われたら私も惚れちゃう」

「私もー!」

「そうだ、私全巻持ってるし2巻も貸そうか? 今日は持って来てないけど……」

「大丈夫。折角だし自分で買おうと思うんだ」

「おっ、いいね! オタクの鑑!」

「えへへ……それで、今日の帰り、一緒に本屋に行きたいんだけど……」



 フミカの申し出を聞いたヨシコは、気まずそうに頭を掻く。



「あー……実は私、小テスト引っかかっちゃってさ……」

「私待つよ?」

「それも申し訳ないし、明日でいい? それかアキラと一緒に買いに行くか……」

「えっ、海川さんと!?」

海川(ウミカワ)アキラ。私の旧友の女の子でありそのイケメンすぎるルックスと抜群の運動神経でこの学校にいる数多の女子生徒とついでに申し訳程度にいる男子生徒のハートを鷲掴みにしたとのウワサがありついでに私が何度も頭の中でモ」

「ど、どうしたの急に早口になって……?」


 唐突に独り言を始めたヨシコを、フミカは心配そうな目で見る。



「おっと失礼、悪い癖が出ちゃったよ。ともかく、アキラにも頼んでみなよ、今更遠慮する間柄でもないでしょ? それに……」

「それに?」

「アキラと2人っきりでお話したいって前言ってたじゃん? 絶好のチャンスだよ?」



 ヨシコの言葉に、フミカは顔を赤くしてわたわたする。



「そ、そうだけど、恥ずかしいよ……」

「いいじゃんいいじゃん、モノは試しってね! ……っと」



 ヨシコの言葉の途中で、チャイムが鳴る。




「やっば! 次なんだっけ!?」

「数学だよ!」

「ありがとうー!」



 ヨシコとフミカは急いで席に座った。



 ……………………




 ………………





 昼休み、屋上。




「おーっす」

「お、アキラっち! おいすー!」

「こんにちは、海川さん」




 昼休み限定で解放されている屋上で弁当を食べるヨシコとフミカの前に、短髪の女子生徒が現れる。




「海川さん、実はお弁当作りすぎちゃったんだけど……いるかな?」

「え、マジで!? いいのか?」

「うん、いいよ!」



 ヨシコはそう言ってサンドイッチボックスを取り出す。

 中には、様々な具を挟んだサンドイッチが丁寧に並べられていた。



「おおっ、美味そう!」



 目を輝かせるアキラと、それを見て嬉しそうにするフミカ。




「これ百合では?」




 その様子を間近で目撃することになったヨシコは、ぼそりとそう呟いた。



「どう? 美味しい?」

「ああ、すっごく美味しいよ。サンドイッチってただ挟むだけだと思ってたけど、全然変わるもんだな。なんて言うか……足し算じゃなくて掛け算みたいな……何言ってんだろアタシ」

「知り合いに料理が上手な人がいてね、色々教えてもらったんだー。お口に合ってよかったよ」


「やっぱり百合じゃん……こんな尊い瞬間を目撃しながら飯食えるとかユートピアじゃん……やば……2人の百合で飯が美味い……」






 美味しそうに昼食を食べながら談笑するフミカとアキラの光景を目に焼き付けつつ、ヨシコは独り言を呟きつつトリップしながら食事にありついていた。




「ヨシコちゃん」

「え、あ、はいはい、何?」



 唐突に自らの名を呼ばれて現実に引き戻され、思わず慌てふためくヨシコ。



「んだよ、まーた変な声出しやがって」

「ごめん、ちょっと考え事してて……」

「サンドイッチ、ヨシコちゃんもどう?」



 フミカはヨシコにサンドイッチボックスを差し出す。



「え、いいの?」

「うん。折角だし、みんなにヨシコちゃんにも食べてほしいなって……」

「じゃあ、おひとつ……」



 百合を邪魔するのではないかという思いを振り切り、ヨシコはサンドイッチを口に運ぶ。





「美味しい……」



 ハムとレタス、そしてスクランブルエッグ。


 特段変わった具材が入っているわけではなかったが、味も食感も、市販のそれとはまるきり違う格別な美味しさであった。




「えっ、何これ!? 全然違う!?」

「えへへ、喜んでもらえてよかったよ」

「んじゃ、アタシももう1個貰おっと」

「あっ、私の分置いといてよ!」

「い、急いで食べると喉に詰まっちゃうよ。お茶いる?」




 3人の和やかな昼食の時間は、そうして過ぎていった。








「いやー美味かった! また今度作ってくれよ」

「うん、いいよ」

「ねぇアキラ、今日部活ある?」

「無いけど、何か用か?」

「私は無いけど、フミカが何かあるって」

「えっ!?」



 唐突に話を振られたフミカは、驚きと困惑の表情をみせる。




「ほら、本の話。チャンスだよ」

「え、でも……」

「いいからいいから」



 ヨシコはニッと笑い、フミカの背中を軽く叩く。




「う、うん。えっと、探したい本があって、本屋に行きたいんだけど……」

「別にいいぞ。本屋っていうと……夕刻堂があったな。サンドイッチのお礼もあるし、1,000円までなら奢ってやるよ。あ、超えたらその分は出してくれ」



 フミカが言い終わる前に、アキラはそう答えた。



「えっ!? そこまでしてもらわなくてもいいよ! 本屋の場所教えてもらうだけで……」

「気にすんなよ。あ、そうそう、本屋のある通りにさ、カシウスって喫茶店があるんだ。そこの抹茶ラテが格別でさー、寄ってこうぜ。ヨシコ、お前も来るだろ?」

「残念ながら今日は居残りでーす。2人で楽しんできてよ」

「何でお前ハブられるのに嬉しそうなんだよ……」

「私の事はいいから、行ってきてよ。じゃ、私トイレ行ってくるから!」





 怪訝な顔をするアキラをよそに、ヨシコはトイレへと向かう。






「帰りをわざと遅らせ、後から追いかけて2人のデートを観察……ふふふ、我ながら完璧な作戦……! ふふ、うふふへへ……」





 あまり人には見せられない表情で笑うヨシコの足元に、何かがぶつかる。


 拾い上げると、それは少々ゴツいデザインの腕時計だった。




「落し物? 誰のだろう……」




 周囲を見回してみたものの、自分以外には誰もおらず、人の気配も無かった。




「後で先生に届けておくか……」





 ヨシコはその腕時計をひとまずポケットに入れ、その場を後にした。




 ……………………







 ………………




 そして放課後。



「おーい、金城ー」



 終礼が終わり、生徒がぞろぞろと出ていく廊下の壁にもたれるアキラは、手を振ってフミカの名を呼ぶ。



「ヨシコちゃん、じゃあね」

「うん、また明日。しっかり楽しんでくるんだぞ〜」

「う、うん」



 フミカは少し顔を赤らめ、アキラの元へ向かう。





「さーて、いっちょやったりますか」




 再テストを目前に控えたヨシコは、パキポキと指を鳴らす。






 ……………………






 ………………





「ようし! 満点!」

「出来れば最初からそうして欲しいんですけどね先生としては」

「それができたら苦労はしません! それじゃ私はこれで!」




 そう言って大急ぎで帰り支度を済ませると、ヨシコは急いで教室を出た。




「あっ……忘れてた」



 階段を降りる最中、昼休みに拾った腕時計の事を思い出す。


 腕時計をポケットから取り出し、職員室を目指そうとしたその時。




「そこの君! 私の声が聞こえるか!?」




 どこからか突然成人男性のような声が聞こえてきた。




「!?」

「ここだ、ここ! 君が持っている腕時計だ!」




 慌てて周囲を見回すヨシコに、声の主はそう言って腕時計に注意を向かせる。




「え、何!?」

「強い意志の力を持った少女よ、私の声が聞こえるんだね?」

「え、何これ? こわっ……ていうか誰だよお前」




 唐突な事態に困惑するヨシコに、腕時計は答える。




「私はアクター。惑星プラウズから来た電子生命体……君にとっては、宇宙人と言った方がいいかな?」

「人ですらないじゃん」

「今の私は力と肉体を失っている。もし奴らに狙われたらひとたまりもないだろう。だからこうして、電子機器に入ることで身を隠しつつ、君のような強い意志の力を持つ人物が来るのを待っていたんだ」



 次から次へと飛んでくる情報にどこから突っ込んでいいか分からず、ヨシコは思わず頭を抱える。




「単刀直入に言おう。この星には危機が迫っている」

「危機?」

「ああ。私の故郷である惑星プラウズは、ガイリア星人の手に落ちた。男は殺され、女は繁殖のために利用され……」

「そのなんとかってのが地球に来ている、とでも言いたいの?」

「その通りだ。ガイリア星人は、プラウズの悪夢をこの星でも繰り広げようとしている。手始めに狙われたのは、この町だ」



 話を聞きながらフロアの隅まで移動し、壁にもたれかかるヨシコは、アクターに質問を投げかける。



「それで、アンタは具体的に私に何をしろって言うの?」

「私と共に戦ってほしい。君の強い意志の力と私の能力が合わされば、戦闘力は100倍、いや1,000倍以上に膨れ上がる」

「意志の力?」

「そう、意志の力。言い換えれば、心の強さだ。君は、願いを叶えるためならばどんなに過酷な事でもやり抜く……そういった強い精神力を感じる……おっと、そういえば君の名前を聴いていなかったな」

「ヨシコ。百合野ヨシコ」

「ヨシコ君か……いい名前だね」

「そりゃどーも」





 意味不明だし胡散臭いと思いつつも、何だか妙に気になって捨て置けないヨシコは、とりあえず腕時計をはめて学校を出る事にした。





「で、そのガイリア星人だっけ? とか言う奴の場所は分かるの? 場所が分からないと倒せないし、そもそも遠いところへは行けないし」

「移動方法については問題無い。これはまた追々話そう。場所についてだが……その前に、傾向について話しておこうか。ガイリア星人はオス1体に対しメス2体のハーレムを作りたがる傾向にある。特に、仲睦まじい関係にある者を狙うだろう」

「は? なにそれ百合に割り込む男じゃん。殺す」




 先程まで冗談半分で聞いていたヨシコであったが、アクターの言葉で急にガイリア星人に対する怒りが燃え上がる。


 彼女にとって、百合という名の聖域に土足で踏み込む存在は、誰であろうと許せるものではなかったのだ。




「さて、本題だが……何か、地図になるような電子機器はあるかい?」

「あるけど……壊さないでよ?」

「問題無い」




 自転車を押して歩きながらヨシコはスマホを取り出し、腕時計の前にかざす。


 すると、スマホはひとりでに操作されて地図アプリを開き、スクロールをして1つの場所に印を付けた。




「ここだ」

「えっ……」




 指し示された場所を見て、ヨシコは硬直した。







 その場所は、夕刻堂近辺。

 今日、フミカとアキラが訪れているであろう本屋の場所だった。





 ヨシコの中に、怒りや焦り、恐怖、不安といった感情が次々と湧いて出てくる。


 身体は震え、自転車のハンドルを握る手にもグッと力が入る。




「アクター……嘘は言ってないよね?」

「当然だ。この場で私が嘘をつく事に対するメリットなど無いからね」



 それを聞くと、ヨシコは押していた自転車に飛び乗り、全速力で漕ぐ。


 何か大きな力に動かされるように、夕刻堂を目指してひた走った。








 ……………………





 ………………




 夕刻堂のある通りの向かい側の歩道に出たヨシコは、一度自転車を降りる。




「ガイリア星人は擬態能力を持つ。この近辺に、この星の人間の姿で隠れているだろう」

「え……じゃあどうやって探すの!?」

「気配までは隠せない。私にかかれば見破ることは可能だが、念の為異様な気配を感じ取ったら教えてくれ」

「分かった……」





 体力を考えず漕いだせいでヘトヘトになった身体を休めつつも、夕刻堂を目指す。





「今日はありがとう、海川さん」

「何、いいってことよ」

「ところで……海川さん、もう1つお願いがあるんだ」

「どうした? 金城」



 駐輪場で新しく買った本を抱えるフミカと、自らの自転車を探すアキラ。



「いたーーーーー!!」


 車道を挟んだ、目視できるほぼギリギリの距離で2人の後ろ姿を確認したヨシコは、小さく声を上げた。



「こっから真っ直ぐ行ければすぐだけど、ここの車道は交通量結構多いからショートカットは無理……しょうがない、迂回路を使うか……!」



 ヨシコは疲れた身体に鞭打ち、迂回路を通ってアキラとフミカを追いかける。











 一方、アキラとフミカは駐輪場で会話をしていた。




「あのね、……私のこと、フミカって呼んでほしいな、って。その……友達だし……」

「ああ、いいよ。その代わり、アタシの事もアキラって呼んでくれ。アタシだけ名字呼びなんて、変だろ?」



 微笑むアキラに、フミカは顔を赤くする。



「う、うん! 海……おっとっと、アキラさん!」

「あー、さん付けも無しだ。呼び捨てでいいよ呼び捨てで」

「で、でも……慣れなくて……」

「んじゃぁ……ちゃんでいいよ」

「うん。これからもよろしくね……アキラ、ちゃん」

「今更かしこまるなよ、水臭いだろ……」



 恥ずかしそうに頭を掻くアキラと、満面の笑みを見せるフミカ。



「ヘイ彼女達ぃ! 楽しそうだねぇ、俺っちも混ぜてよ」





 2人の前に、金色に髪を染めた1人の男が現れる。





「な、何だよお前」

「君達可愛いねぇ、俺と楽しい事しない?」



 恐怖に顔を引きつらせて後ずさるフミカと、彼女の前に出て男を睨みつけるアキラ。




「そんなに警戒しないでよ子猫ちゃん達、ちゃんと優しくシてあげるからさぁ」

「触るんじゃねぇ!」




 アキラは伸ばされた男の手を払い、フミカの手を掴んで走り出す。



「逃げるぞ!」

「う、うん!」

「へぇ、逃げるっての」



 アキラとフミカは走り出すが、5秒もしないうちに両方の足が止まる。




「いやっ!」

「フミカ!?」


 フミカの悲鳴にアキラが振り向くと、フミカは男に片腕を掴まれていた。



「即逃げの判断は悪くないと思うべ? でも残念だったねぇ、俺っち、こう見えて結構鍛えてんのよ」

「てめぇ! フミカを離せ!」

「ハハハ、折角の獲物を離す生き物などいるはずないじゃないか」

「アキラちゃん、私のことはいいから……逃げて……!」

「馬鹿言うな! 友達見捨てて逃げるなんて真似できるわけけぇだろ!」

「でも……!」



 フミカは何かを言おうとして、この騒ぎを周囲の通行人がが誰も見ておらず、まるで自分達は存在しないかのように通り過ぎて行く事に気付く。





「あ、その顔は気付いたみたいだねぇ。助けを呼べない事に」


 フミカの様子と表情の変化を見て、男はニヤリと笑う。


「何だと?」

「認識阻害ってやつさ、まあ、君達地球人にこんな話しても分からないだろうけどね。簡単に言えば、俺っちと君らに通行人は気付けない。どれだけ騒いでも無駄ってこと。さあ、観念して俺っちと楽しいこと、しようぜ?」




 アキラとフミカは、男が異常な気配を発した事を感じ取る。

 男は気圧されたアキラと恐怖に怯えるフミカの肩を抱き、歩き出す。








「ヨシコ君! 2人の少女の肩を抱いて歩くあの男がガイリア星人だ!」

「分かってる! 待てコラァァァァァァァァァ!!!!」








 その遥か後方で、ヨシコが自転車を漕いで追いかける。




「アクター! あいつを倒すにはどうすればいいの!? 今の私じゃ追いつくかどうかも怪しいよ!」

「ヨシコ君、今から私の言う通りに動いてくれ。君に力を授けよう」

「分かった!」

「まずはそれから降りるんだ」

「走りで間に合うの!?」

「無論だ! 私を信じてくれ!」



 ヨシコは近くにあった、人気の無い路地裏の駐輪場に自転車を停めると、慣れた手つきで鍵をかける。




「準備出来たよ! 次は!?」

「2人を助けたい、あるいはあの男を退治したいと念じながら、腕時計に触れてくれ!」



 アクターがそう言い終わると、腕時計の液晶部分から白い光が溢れ出す。




「こう!?」



 ヨシコが人差し指と薬指で腕時計に触れると、光は更に溢れ出し、奔流となってヨシコを取り囲む。




「上出来だ! 次は腕時計をはめた腕を空に掲げて叫ぶんだ、セットアップと! 安心したまえ、君の姿は誰にも見えていない!」

「細かい心遣いありがとう! セーット、アーップ!!」







 ヨシコが腕を掲げると、彼女の身体は光に包まれる。



「な、何これ……!?」

「私の能力と君の意志の力から発生するエネルギーを利用し、身体を戦闘用に再構築する。まあ、鎧を纏うようなものだと思ってくれればいい」

「再構築って言ったけど、ちゃんと元に戻るんでしょうね?」

「無論だ。再構築といっても、君の身体に外から延長するだけだからね。最初は体格が変わって動きにくいかもしれないが、すぐに慣れる。それから、この身体は君だけでなく私も操作権を持つ。いざとなったら身体を借りることになるが、いいかね?」

「……よく分かんないけど、フミカとアキラを助けるため、百合に割り込むクソ野郎に制裁を下すためなら、やってやるわ!」

「うむ、その心意気や良し!」




 光の中で、ヨシコの身体を中核として身体のパーツが構成されて体格が変化し、その上に外装を纏っていく。




 ヨシコを取り囲む光が消えた時、彼女の立っていた場所にいたのは、パワードスーツのような白い鎧に身を包んだ大男のような体格を持った、特撮ヒーローのような出で立ちの存在。バイザーから覗くツインアイは、赤色に発光する。






 それはヨシコでもあり、アクターでもあった。





「えっ……何これ……っと、そんなこと言ってる場合じゃない。急がなきゃ!」

「細かい制御は私に任せたまえ。まずは、思いっきり走るのだ!」




 ヨシコは裏路地を出て歩道に飛び出し、地面を蹴り、走り出す。




「おっ!? おおー! 速い!」



 変化した体格と爆発的に向上した身体能力に戸惑いを見せながらも、ヨシコは男を追いかける。




「ヨシコ君、少し身体を借りるぞ!」

「えっ!?」




 今度はアクターが身体を操作する。

 ツインアイの色は青色に染まり、身体は高く跳躍し、回転して男の前に降り立つ。





「ようやく見つけたぞ、ガイリア星人! その子達を離してもらおうか!」

「従わないならぶっ飛ばすぞ!」



 アクターに追随するようにして、ヨシコは啖呵を切る。



「誰だお前は? ……いや、見覚えがあるぞ」

「忘れたなら教えてやろう……我こそは雷光の戦士、ブリッツセーバー!」

「またの名を、百合に割り込む男絶対許さないマン!」

「ゆ、百合……?」







 ヨシコの名乗りに、男は少し困惑の表情を見せ、周囲に微妙な空気が流れる。






「よ、ヨシコ君……?」

「私も戦うんだから私にだって名乗る権利あるでしょう?」

「いや、まあ、その通りだが……」

「フッ、誰かと思えば故郷を守れなかった負け犬戦士のブリッツセーバーか。ここまで追いかけてきたようだが、どうやら取り入る相手を間違えたようだな!」



 男はフミカとアキラから手を離して両手を振り上げる。





 すると、男の姿は瞬く間に変化し、鋏のような右腕を持った、蟹を彷彿とさせる姿をした紫色の怪人となる。



「そう、俺っちはガイリア星人がひとり、ギャンザ! そのメスを……」

「正体を現したな! 怪物!!」





 ヨシコの操るブリッツセーバーはギャンザが喋り終わるよりも前に飛び蹴りを放ってよろめかせ、そこに組みついて動きを封じる。




「アキラ! フミカ! 今のうちに逃げて!」

「お前、まさか……」

「早く!!」



 ヨシコの叫びにアキラは頷き、フミカの手を取って走り出す。




「てめっ、獲物が逃げるだろ! 離しやがれ!」

「やだね!」



 ギャンザは抜け出そうと暴れるが、ブリッツセーバーはしぶとく組み付き、離れない。



 ギャンザが組み付きから抜け出したのは、2人が視界の外へ消えてからだった。





「てめぇ、よくも俺っちの大事な獲物を!」

「アキラもフミカも、お前の獲物じゃないんだよ! 私の友人に手を出した事、百合という名の聖域を汚した事、5000兆倍にして返してやる!」

「流石は弱小種族、よく吠える。負け犬戦士共々その首をちょん切ってやる! ……と言いたいところだが、獲物の追跡が先だ。出でよ、バドール!」




 ギャンザはそう言って白いカプセルを4つ取り出すと、地面に向かって投げる。



 カプセルは巨大化、変形し、銃剣を持った1つ目の人型ロボットへと姿を変える。




「さて、認識阻害ももう要らないな。バドール、相手をしてやれ」

「「「「ギギー!!」」」




 ギャンザはバドールに指示を出すと、身を翻してアキラとフミカを追いかける。


 認識阻害が切れた事によって一般人にもその姿を認識できるようになり、周辺はパニックに陥る。




「待てオイ! 逃げるな!」

「待つんだヨシコ君。バドールを片付けるのが先だ。奴らは人を襲う戦闘人形、放置すれば大変な事になる」

「……仕方ない、チュートリアルと行きますか。ちゃんとレクチャーしてよね、アクター先生?」

「承知した。まずはベルトのバックルにある、棒を取るんだ」

「この剣の柄みたいなの?」




 ヨシコが言われた通りに柄を取ると、光の刃が形成されて光の剣となった。




「それは電光剣プラズソラウ、ブリッツセーバーの使う武器の1つだ。細かい動きのアシストは私に任せて、思う存分戦いたまえ!」

「オッケー!」



 襲いかかるバドールに、ヨシコが主導権を握るブリッツセーバーはツインアイを赤色に輝かせ、電光剣を振るう。



「邪魔するなぁ! おらっ! おらっ!」



 電光剣プラズソラウは光の軌跡を描き、1体のバドールの装甲をバターのように裁断する。




「そりゃぁ!」




 力を込めたとどめの一撃により、バドールは倒れて動かなくまった。



「ヨシコ君、後ろだ!」

「えっ!?」

「ギギー!」



 背後からの攻撃にブリッツセーバーはよろめき、そこにバドールが迫る。




「やってくれたな! うりゃっ! そりゃっ!」




 ヨシコは無我夢中に剣を振るい、バドールを切り刻み、蹴り飛ばす。



「あと2体!」

「いい調子だ。まだいけるか、ヨシコ君」

「ノー問題! どんどん行くよ!」

「ああ!」




 2体同時に襲いかかるバドールの攻撃をかわしつつ、1体ずつ攻撃を加えて確実に撃破する。


 荒削りな動きではあるが、向上した身体能力に任せてバドールを圧倒していく。




「せりゃーっ!」




 上段からの振り下ろしで最後のバドールにトドメを刺したブリッツセーバー。




「アクター、アイツはどこ!?」

「追跡は任せたまえヨシコ君。一度操作を代わろう」




 アクターがブリッツセーバーの操作を引き受けると、ツインアイは青色に変化し、耳の部分にあたる箇所を右手の人差し指で軽く触れる。



 ヨシコとアクターの意識に周辺の地図のホログラムが流れ込むが、ヨシコにはその詳細は把握できなかった。


「ふむ……あそこか」

「な、何今の?」

「エネミーサーチだ。詳しくは後で教えよう」




 アクターはそう言うと、思いっきり跳躍する。




 そのまま屋根から屋根へ飛び移り、ギャンザを追跡した。





 ……………………






 ………………




 路地裏。


 走り続けるアキラとフミカは、不幸にも袋小路に辿り着いてしまう。




「しまった、行き止まり……!」

「もう逃げられないねぇ、子猫ちゃん達ぃ? さあ、観念して俺っちのメスになるんだ。安心してよ、この姿なら色々楽しませられるからね」

「嫌……!」



 追い込まれたアキラとフミカに、ギャンザがにじり寄る。





「隙あり! サンダーブラスター!」




 ギャンザの背後に現れた、青い目のブリッツセーバーは腰のホルスターから銀色の電光銃サンダーブラスターを取り出し、射撃する。


「うぉっ!?」



 雷のような光線が背中に刺さり、ギャンザは驚いて振り向く。




「チッ、いいところだったというのに邪魔しやがって! バドールも役に立たんな!」

「黙れ! お前は絶対に許さない! 絶対にな!! アクター、代わるよ!」

「承知!」

「はああああああ!」





 赤目に変わったブリッツセーバーは電光剣を抜き、ギャンザに襲いかかる。



「ふん!」



 ギャンザも鋏を剣のように振り回し、ブリッツセーバーと打ち合い、斬り結ぶ。



「このおおおおお!!」



 ブリッツセーバーは鍔迫り合いに持ち込み、回転してアキラとフミカの前に立つ。


 アキラとフミカはその際に、近くにあった段ボールの山に身を隠す。



「負け犬風情が調子に乗るな!」



 ギャンザは電光剣を跳ね飛ばし、ブリッツセーバーを斬りつける。




「ぐっ……!」




 壁に叩きつけられたブリッツセーバーの首元に、ギャンザは鋏を突きつけた。




「勝負あったなブリッツセーバー。力はあるが技量が無い。お前ごときでは俺っちには勝てない」

「それはどうかな? アクター!」

「ああ!」



 ヨシコはアクターに操作権を渡し、ブリッツセーバーはギャンザの腹部めがけて射撃を放つ。




「うぐぉっ!?」

「今がチャンスだ、ヨシコ君!」

「オッケー! おりゃー!」



 ブリッツセーバーはよろめいたギャンザに体当たりをし、その勢いを利用して電光剣を回収し、真一文字に振る。




「アクター! 必殺技とかある?」

「あるにはあるが、1回の変身につき使えるのは1度だけだ。私が撃っても出力が足りない。お膳立てはするから、君が撃つんだ」

「分かった。アシストは任せるね」

「承知した」



 再び青目に変化したブリッツセーバーは武器をサンダーブラスターに持ち替え、前進しつつ次々に射撃を放つ。



 関節を狙った正確な射撃はギャンザの動きを鈍らせ、追い詰める。



「何だこいつは、さっきと違ってパワーは無いが正確な射撃を……!」

「さて、何故だろうな。はっ!」




 ブリッツセーバーはギャンザを蹴り飛ばし、ツインアイの色を赤に変える。





「ヨシコ君、剣の鍔の中心にある宝石に手をかざし、意識を集中するんだ」

「こう?」




 ヨシコが意識を集中すると、電光剣は輝きを増し、雷がほとばしる。





「よし、いいぞ! バーストスラッシュと叫び、奴目掛けて剣を振るんだ!」

「分かった! バースト……スラッシュ!!」





 ブリッツセーバーは上段に電光剣を構え、振り下ろす。



 電光剣からは雷の刃が光速で飛び、ギャンザを一太刀の元に斬り伏せる。






「負け犬……なん……ぞ…………に…………」




 バーストスラッシュが直撃し、致命的な傷を負ったギャンザは頭から倒れ、そして爆発して砕け散った。






「ハァ……ハァ……やった……?」

「ああ、勝利だ。君が友人を守ったんだ」

「そっか……」



 友人を守れて安堵したヨシコは、穏やかな笑みを浮かべ……








「あれ……身体、動かな……」







 変身が解除されると同時に、地面に仰向けに倒れ込んだ。





「よ、ヨシコちゃん!?」

「大丈夫かヨシコ!? さっきのは何なんだ!?」

「た……たすけて……からだうごかない……」

「ったくしょうがねぇなぁ……よっと!」

「アキラちゃん、鞄持つよ!」

「悪い、助かる」



 アキラはヨシコを背負い、フミカはアキラの鞄を持つ。




「2人とも……ごめんね……」

「いいよ、気にしなくて」

「そうそう、フミカの言う通りだぜ」






 ……………………





 ………………








「本当にもう大丈夫なの?」

「へーきへーき。全身筋肉痛だけど」

「大丈夫じゃないじゃん! タクシー呼ぼうか?」

「いやいいよ、そこまで世話にならなくても」







 本屋の夕刻堂から東に少し行った先にある喫茶店、カシウスで談話するヨシコ達。




 ヨシコの体力は回復し、自力で歩けるようにはなったものの、今度は全身の筋肉痛に苛まれていた。




「いやぁ、ナンパ野郎が怪物になった時はマジでどうなるかと思ったぜ」

「本当にね。助けてくれてありがとう、ヨシコちゃん」

「サンキューなヨシコ。そのマンゴージュース奢ってやるよ」

「お礼ならアクターにも言ってよ。私1人じゃどうにもならなかったからさ」



 ヨシコはテーブルに伏した状態で、自身のスマホを指差す。


 腕時計と会話するよりは違和感が無いだろう、という意図の元、アクターは腕時計からスマホに自らの精神を移していた。



「その……アクターさん? ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」



 フミカはヨシコのスマホに向かって礼をする。

 アキラも少し恥ずかしそうにしながら、フミカに倣う。



「何、礼には及ばないさ。私としても、君達が無事でよかった」


 ヨシコのスマホにロボットのような顔のアイコンを表示させながら、アクターは話す。



「でさ、あの怪物は何なんだ?」

「ガイリア星人、一言で言えば地球を狙う悪い宇宙人だ。私は、奴らを止めるために地球に来たのだが……恥ずかしながら、私1人ではブリッツセーバー、ヨシコ君が纏った鎧の力を完全には引き出せなくてね。強い意志の力を持つ、彼女に協力をお願いしたんだ。ブリッツセーバーは、意志の力で無限に強くなるからね」



 解説するアクターに、フミカがおずおずと尋ねる。



「えっと、その……危機は去ったのですか?」

「この地域における当面の危機は去ったが、まだガイリア星人がいるかもしれない。暫くの間、これを借りて調査するつもりだ」

「モバイルバッテリー代わりになる条件付きでね」



 ヨシコは人差し指を立て、少々自慢気に言う。




「あ、そうだアクター。今更だけどさ、アキラとフミカに正体バラしてよかったの?」

「問題無い。むしろ、彼女達は変身解除する瞬間を見なくても、正体に気付いていたと思うがね」

「えっ、何で!? あだだだだ……」



 ヨシコは驚きのあまり立ち上がった直後、筋肉痛の痛みに悶絶しながら元の体勢に戻る。



「いやいや、アクターさんの言う通りだっての。百合に割り込む男絶対許さないマンとか名乗る奴お前以外にいねーし」

「百合はグローバルでポピュラーな性癖だよ!? いるかもしれないじゃん!」

「いやあそこまで直球な名前付ける奴はいねーよ」



 アキラは肩をすくめる。




「名乗ってないのに私達の下の名前言ってたしね」

「あー……そう言われたらそうだったわ……」



 フミカは苦笑し、ヨシコは少し起き上がってマンゴージュースを飲む。



「声もお前だったしな」

「ぐぬぬ……」

「ま、頑張ってくれよ。正義のヒーローさん」

「私にできることがあったら、何でも言ってね」

「1人で抱え込むなよ。アタシだって相談に乗るからな」

「ありがと〜、アキラー、フミカー……」



 ヨシコ達は、暫く談話を続けた。



 ……………………





 ………………






 陽も落ちかけた夕方。





「ただいまー」




 友人達と別れ、家に帰ってきたヨシコは、制服を脱いでベッドへと倒れ込む。





「あ゛ー、疲れたー……」

「ヨシコ君」




 いつでも眠りに入れそうなヨシコに、アクターが声をかける。





「何?」

「君は、いい友人を持っているな」

「そうだね、私の自慢の友達」



 ヨシコは微笑みながら、そう言った。





「ところで、君の言っていた百合とは何だ? この星には同名の植物があるそうだが……」

「花じゃないよ。花のように美しく素敵なものだけどね。私の意志の力の源でもある、大事なものさ。よーし、今日はアクターに百合の素晴らしさをいっぱいレクチャーしちゃうぞー!」

「お、お手柔らかに頼む……」

「あ、その前に……」




 ヨシコはアキラに電話をかける。





「もしもし? アキラ?」

「どした?」

「フミカとのデート、どうだった?」

「はぁ?」

「邪魔が入ったのは残念だけどさ、甘ーいひとときを堪能したんじゃないのー?」

「バカ! 何言ってんだお前!」



 声を荒げるアキラの声に、ヨシコはニンマリと笑う。




「知ってるんだぞー、アキラがフミカの事可愛いって言ってるの」

「そういう意味じゃねーよ! 意図的に勘違いしてるだろお前!」

「あら^〜」

「その気色悪い声をやめろ! もう切るからな!」

「あ、ちょっ……! ちぇー」



 電話を切られたヨシコは、画面を見ながら口を尖らせる。



「アキラったら照れちゃって、うふふふふへへ」

「からかうのはほどほどにしたまえよ……」




 ニンマリと笑うヨシコに、アクターは呆れ気味に注意した。




「さてアクターさん」

「な、何だね?」

「私百合野ヨシコによる百合講義の時間じゃー! 今夜は寝かさないズェー!」

「やれやれ……」



 その後のヨシコによる百合講義は、夜が更けるまで続いたのであった。








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