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満喫の宵宮 2

レギーナ、そしてブラハムとアミラ、ケビンと別れ、アムルは祭りの喧騒の中を進んでいた。

 ブラハムたちと別れたアムルは、彼の言った通りもう暫く街を巡る事にした。

 アムル自身、このレークスの街が初めてでは無い。

 事実、昨年はしっかりとこの祭りに参加している。

 それでも日々の職務に追われ、ゆっくりと回る事が出来なかったのも事実なのだ。

 今が祭りの最中という事もあり、彼はその雰囲気を楽しもうと人で賑わう通りを歩き出したのだった。




 暫く進むとアムルの目に、喧騒の中を落ち着きなく動き回る女性の姿が飛び込んできた。

 それは、魔法使いのマーニャだった。

 目を爛々と輝かせて、店舗と言わず出店と言わず、とにかく目についたものに近づき、それは興味深そうに見入っている。

 彼女が移動する度に、長い長いツインテールが赤い光をまき散らし、裾の短いスカートがヒラヒラと舞っていた。


「そんなに珍しいか? マーニャ」


 そんな、どこか目のやり場に困る動きを見せるマーニャを制止させるため、アムルは彼女に声を掛けたのだった。

 出展品や展示品の吟味……と言うよりも鑑賞に熱心だったマーニャは、声を掛けられるまでアムルの接近に気付かなかったようだ。


「あら、アムル? 一人なの?」


 だが、然して驚いた様子も見せずに彼と正対すると、逆にそう反問してきた。

 不意に声を掛けられても動じないその様子を見て、アムルは思わず笑みを零していた。


「ああ。さっきまでレギーナと一緒だったんだけどな。あっさりバレて、彼女は王宮に帰っちまったよ」


 そして、どこかおどけた仕草をとりつつ返答したのだった。

 そして今度は、アムルが気付いた点を質問する。


「それより、お前こそエレーナと一緒じゃなかったのかよ? 確か、2人で行動するみたいな事を言ってたよな?」


 確かにマーニャは、エレーナと行動を共にするといった事を話し、実際に2人で街の方へ繰り出して行った。

 その姿をアムルは勿論、レギーナやブラハムも見ているのだが。


「ああ、それね。最初は2人で見て回ってたんだけどねぇ。どうにも私たちは、根本的に趣味が合わないみたいなのよ」


 そして今度はわずかに両手を上げたマーニャが、冗談を言うように返してきたのだ。

 その言い様は、2人の間には未だ深い溝が刻まれていると言っている様に聞こえなくもない。


「あ、勘違いしないでね。別に私とエレーナの仲が悪いとか喧嘩別れしたって訳じゃないんだから。あの子は雰囲気を楽しみたいって性格だし、私はこんな機会だから色々見て回りたいしね。だから、折角だから別れて行動しようって事になっただけなんだから」


 自分で言った内容にその様なニュアンスを感じたのか、マーニャはどこか慌てた様にそう付け加えた。

 いや、その捲し立てるような早口は、どう考えても照れているとしか受け取れない。


「……へぇ―――」


 そして、間違うことなくそう感じたアムルが、ニヤニヤとした表情でマーニャを見ると。


「……なによ?」


 更に顔を赤らめたマーニャが、腕組みをしてそっぽを向いてしまったのだった。

 そんな彼女の仕草が可愛らしく、アムルは思わず喉の奥で笑いを零していた。


「あ、そうだ。あんた、今一人なのよね? 良かったら案内してよ」


 どうにも分が悪いと感じたのか、マーニャは強制的に話題の変換を図った。

 もっとも、その提案自体に不自然なところはなく、それどころか至極もっともな事だった。

 この街を見て回るのが初めてのマーニャにしてみれば、1つ1つの店をゆっくり見て回っていては時間がどれだけあっても足りないのだ。


「そうだなぁ……。なら、あそこに行ってみるか」


 それを理解したアムルは、少し考えた後に何かに思い至ったようだ。

 そしてアムルは、マーニャを連れて目的の場所に向かい歩き出したのだった。


 彼らの向かった先は、一つの大きなテントだった。

 そこにはデカデカと「世界漫遊の旅」と看板が掲げられている。


「……アムル、ここは?」


 サーカスか見世物小屋のように大きなテントを前に、マーニャが疑問の浮かんだ顔でアムルに問いかけた。

 看板に書かれている内容では、さしものマーニャも何を行っている所なのか即座に理解出来なかったのだ。


「ああ、ここは魔法で疑似的に世界を廻る旅が楽しめるって催しだ。本当は……」


「へぇ―――っ! そんな面白そうなものがあったのね? ね、早速入ろ?」


 全てをアムルが言い切る前に、マーニャはグイグイと彼の手を引いて中に入ろうとする。

 アムルはそれに逆らうことなく、彼女と共にテント内へと入って行ったのだった。


 中は薄っすらと暗い作りとなっているが、足元が見えないという程ではない。

 2人は、空いている席に着いた。

 会場は中央に広場が設けてあり、それを取り囲むようにして座席が築かれている。

 その作りだけ見れば、サーカスや大道芸会場と大差ない。


「ねぇ……。これからどう……」


「……しぃ。始まるぞ」


 席がある程度埋まると、周囲は一層暗くなる。

 どこか不安を感じたのか、マーニャがアムルに問いかけようとした矢先、それを彼に止められる形となった。

 もっとも、マーニャがその事に不満を漏らすような事は無かったのだが。

 アムルの言った通り、「催し」は直後に開始されたからだ。


 マーニャの目の前で、中央の広場に出て来た数人の人物が、円陣を組んで両手を頭上に掲げる。

 するとその上空に、巨大な光る球体が出現したのだ。

 もっともそれは、何かに干渉するような攻撃性のあるものではなく。

 その光球の表面に、何かしらの映像が浮かび上がってきたのだ。


『さあ、お集りの坊ちゃん嬢ちゃん! ゆっくりと目を瞑って下さい! 目を閉じればそこには、広大な世界が広がっております! 一時の世界漫遊の旅をお楽しみ下さい!』


 そして準備が出来たのだろう、司会の男が陽気に会場へ向かいそう告げた。


「……アムル?」


 疑問に思ったマーニャが、隣のアムルに問いかけるが。


「マーニャ。目を瞑ってごらん」


 アムルは全てを答えず、ただ中央の男と同じ事を口にしたのだ。

 どうにも半信半疑なマーニャだったが。


「わ……わぁ―――」


 目を閉じた直後、彼女は思わず、だが静かに驚きの声を上げていた。


 マーニャの視界には、この魔界の空を飛んでいる風景が流れていた。


 美しいと言って間違いないその光景は、今の人界では望むべくもないほどに雄大であり……壮麗であった。

 そしてそれは、マーニャの琴線に大いに触れる事となったのだ。


「……マーニャ?」


 余程興奮しているのか、彼女は隣に座るアムルの手をギュッと握っていた。

 そして、マーニャ自身はその事に気付いている様子がない。

 それほどに、彼女は今見ている……脳裏に浮かび上がっている風景に見入っていたのだ。


 アムルは、マーニャがこの魔界に興味を持っている事を知っていた。

 そして彼女が、そんな世界を見て回りたいという探求心を抱いている事も。

 しかし残念ながら、今の彼女をこの魔界に無条件で解き放つ事は出来ない。

 如何に「元」とはいえ、マーニャは人界より送り込まれた勇者の一人である。

 そんな彼女を一人この魔界に放逐すれば、どのような火種になるとも知れたものではないのだ。

 だからアムルは、この「疑似体験公演」にマーニャを誘ったのだった。

 もっとも、これはどちらかと言えば子供向けの興行であり、実際参加している大人は子連れの保護者を除けばアムルたちだけだったのだが。




 上演を終え、テントを出て来たマーニャは殊の外上機嫌だった。


「はぁ―――! 楽しかった!」


 どうやら彼女は、この公演に大満足であったようだ。


「楽しんでもらえて何よりだよ」


 そしてそんな彼女を見て、アムルもどこか楽しい気持ちになっていた。

 気づけば、陽射しはやや西に傾いている。

 しばらくすれば、周囲に夕やみが訪れてくるだろう。

 ただし、夜になってもこの街の祭りは終わらないであろうが。


「ねぇ、アムル」


 クルリとアムルに振り返ったマーニャは、改まった声音で彼に声を掛ける。

 その、どこか真剣であり思い切ったような口調に、アムルも思わず彼女の方を向いたまま動きを止めてしまっていた。


 マーニャが今、どんな顔をしているのか。


 それを知りたいと思ったアムルだったが、生憎の西日がやや逆光気味となり、彼女の顔に(かげ)が差しそれを伺い知ることは出来ない。


「いつか私と、世界を廻ってくれる?」


 そんなマーニャから思いもかけない言葉が紡ぎ出され、アムルはそのまま絶句してしまっていた。


 世界は広い。

 この魔界でさえ、まだまだ未踏の地がある程である。

 そんな世界を廻るなど、どれほどの時間が必要となるのかアムルにはすぐに結論付ける事が出来なかった。

 それでも、アムルの答えは決まっている。


「……ああ」


 それが例え口約束であっても、そして例え実行困難であったとしても、マーニャの望みに彼が首を横に振るなどありえないのだ。


「……そう言ってくれると思った」


 再びクルリとアムルに背を向けたマーニャ。

 それが合図となったかのように、それまで縫い留められていたかのようなアムルの身体も自由を取り戻す。


「嘘ついたら、ぜ―――ったい、許さないから」


 背を向けたままマーニャは、アムルに笑いかけている様な言葉を掛けたのだった。


まさにマーニャの魔法に囚われてしまったかのように、暫し心を奪われるアムルだった。


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