表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/81

最硬の魔像

形は違えど、再び設置されていた魔像に、アムルとブラハムは苦戦を強いられる。

そしてそれを打破するために、ここでもブラハムが動き出す。

 ブラハムが、重い足を引き摺る様に歩を進める。もっとも、実際に重くなっているのは体全体ではあるのだが。

 疑似的とはいえ超荷重状態であれば、1歩足を進めるだけでも一苦労だと言えた。


「ぬおおおぉぉっ!」


 それでもブラハムは、力を込めて足を動かし続けた。接近戦主体の彼は、とにかく敵に近づかなければ話にならないのだからこれは当然と言える。

 しかし彼の奮闘虚しく、その歩みは亀のように……いや、亀よりも遅いかもしれない。

 そして、彼らが接近する事をただ黙って見ているだけの敵でもなかった。

 球状の体の中心に埋め込まれた、唯一色合いの違う石。赤い宝玉ともいえる部分が光りを発しだしたのだ。その異変が、ただ光を点したと言うだけではない事をこの場の2人は即座に理解した。


「ブ……ブラハムッ!」


 その直後、発した光を凝縮したかのような光線がブラハムへ向けて放たれた。

 光は一直線にブラハムへと向かうも、当のブラハムに動きらしい動きはない。超重圧下において、機敏な動きなど期待出来よう筈も無いのだ。


「ぬおっ!?」


 だがその光線は、ブラハムの目の前で食い止められた。アムルが即座に発した防御障壁に激突したその攻撃は、その威力を伺わせるようにブラハムの周辺を通り後方へと流れて消えていく。


「あ……あぶねぇっ! すまん、アムルッ!」


 寸でのところで救われたブラハムは、流石に蒼い顔をしてアムルへと礼を述べた。

 動きが制限されているこの状況では、さしもの彼も素早い動きなど出来なかったのだ。


「……しかし、このままじゃあじり貧だな」


 ブラハムの言葉に小さく頷いたアムルが、根本的な問題を口にした。

 今のまま歩みを進めたとしても、この先どれだけの攻撃を受けるのか知れたものでは無い。

 それに。


「……ああ。それに、奴の攻撃がこんな単調なものだけとも限らないからな」


 つまりは、そういう事なのだ。

 先ほどの光線だけが魔像の攻撃手段ならば、彼らにとっては有難いと言えるだろう。

 魔像から放たれた光線は、アムルによって防がれている。この先どれほど同じ攻撃が来ようとも、それはアムルが防御し続ける事が可能だと言う証左に他ならないのだ。

 そして攻撃の軌道も、予測の付けやすい直線である。更には1度の攻撃で1体しか狙えないと言うのならば、これほど防ぎやすい攻撃は無いだろう。


「……そうだな。他にも複数の攻撃手段があると考えておいた方が良いだろうが……」


 アムルは、ブラハムの言を頷いて肯定した。

 ここまでの道中で、幾度かは彼らの予想を裏切る様な敵の攻撃が確認されている。

 先入観で物事に当たれば、後で手痛い目に合う事を2人は十分に理解していたのだった。


「とりあえずここは……」


「ここも俺に任せてくれや」


 再び魔像より放たれた攻撃を防ぎながら、アムルがある提案を口にしようとしてそれをブラハムに防がれた。

 アムルは、自身の魔法攻撃でこの状況を打開しようと提案しかけたのだった。

 現状では、超重力に阻まれて魔像との距離を一気に詰める事は出来ない。

 それを考えれば、遠距離から攻撃出来るアムルの魔法攻撃は非常に有効だとも言える。そして、それしかこの状況を打破する手段はないと考えられたのだ。


「任せるってお前……。どうやって……」


 アムルがそう問い掛けると同時に、ブラハムはスッと床に片膝をついた。見ようによってそれは、圧し掛かる力に屈した様にも見えたのだが。


「ブ……ブラハムッ!?」


 その直後、ブラハムは再び自身の右手首を己の得物で斬り付けたのだった。回復薬(クラーレ)で塞がった傷が再度開き、鮮血が周囲を赤く染める。

 アムルの上げた驚きの声はブラハムの奇行に対するものでは無く、彼が何をするのかすぐに理解したからに他ならない。


「お前、それは……!」


「俺の『血華斬』を使えば、この状況を打破出来るってもんだ。……まぁ、そこで黙って見てな」


 アムルの、ブラハムを問い詰めるかのような声に対して、ブラハムはニッと笑みを浮かべてそう答えた。彼はここにおいても、アムルに魔法を使わせないつもりなのだ。

 唖然とするアムルの目の前で、ブラハムの剣にあの紅い光が宿る。説明を受けた今ならば、その灯火は彼の生命の光であることがアムルにも分かった。


「いいか、絶対にそこから動くなよ。援護も無用だ。最低限の魔法以外、絶対に使うんじゃあねぇぞ」


 ブンッとブラハムが剣を一薙ぎすると、それまで彼に働いていた圧力が消えた様にブラハムはスックとその場で立ち上がった。

 いや、「様に」ではなく、本当に彼に働いていた重力が消え失せたのだ。

 彼の使用する「血華斬」は、生命力である「魄」をその剣に纏わせる事で通常では斬れないものまで斬れる様になる。それが「精霊体」や「幽体」「霊体」であろうとも、魔法であろうとも……だ。

 そしてその作用は、それだけではない。


「ああ、言い忘れてたけどな。この技を使えば、通常よりも遥かに力を出す事が出来るんだ。この技なら、あの(かて)ぇ魔像の身体も斬り割けるかも知れねぇな」


 それは、先ほどアムルに話した説明と合致するものであった。この「生命力」を使用した技術は、所謂「火事場のバカ力」と同じような現象を発揮する。

 それを考えれば、瞬間的に劇的な力の向上が期待出来るのも頷けるというものだ。


「それじゃあ……行っくぜぇっ!」


 アムルの返答を聞く事なく、ブラハムはそう啖呵を切ると一気に跳躍した。

 今は彼に「重力魔法」の影響は働いていない。勿論、それは永続的にと言う訳では無い。時間が経てば、再び彼に圧力が加わるだろう。

 その前にブラハムは、魔像に対して攻撃を仕掛けようと言うのだ。


「そぉうらっ! ……でぇ!?」


 そして一気に魔像との距離を埋めたブラハムは、大きく振りかぶり大剣を振り下ろした。その直後に、これまで聞いた事の無い甲高い音が響き渡り彼の剣は弾かれ、ブラハム自身も大きく態勢を崩す事となったのだった。

 渾身の一撃を魔像に見舞い、少なからずダメージを与えられると踏んでいたブラハムは、結果として大きな隙を晒す事となってしまった。

 そして、魔像とてただその場に鎮座するだけの木偶と言う訳では無かった。


「ちぃっ!」


 球形である事を活かして、紅い宝玉部分がクルリと回転しブラハムの方を睨む。そしてすぐさま、そこより先ほどの光線を発したのだった。

 もっとも今度は、その攻撃をブラハムは紅い光を纏う剣で受け止め往なした。

 方向を逸らされた光線が、ブラハムの後方の壁に激突して霧散する。魔王城の城壁は、悉く耐魔法処理が施されている。限界は存在するが、それでもこの魔像が(・・・・・)使用する(・・・・)攻撃魔法程度では(・・・・・・・・)傷一つ付かない強度を誇っている。


「だああぁぁっ!」


 魔像の攻撃をやり過ごしたブラハムは、今度は連続攻撃に打って出た。常に移動し、魔像の目とも言える宝玉の死角となるように位置取り、とにかく剣を乱舞したのだった。時折何もない空間を斬り付け、重力魔法を無効化しながら……であるが。

 それでも、魔像の身体には傷一つ付かない。ブラハムの剣にも刃こぼれは見られず、強度としては互角かやや魔像に分があるようであった。


「っ!? しまったっ!」


 拮抗している状態で一向に事態が改善されない事に、ブラハムは苛立ちと焦りを感じていた。そんな気持ちが、攻撃を単調なものとしてしまっていたのだろう。

 不意に魔像から、全方位に向けて棘の様なものが吐出した。

 攻撃に一心となっていたブラハムは、何の予兆も無く仕掛けられたその攻撃に不意を突かれる。


「……痛ぅ!」


 それでも見事な反射神経で、ブラハムは殆どの棘を剣で防ぐ事に成功するも、幾本かはその身に受けてしまい大きく回避する事を余儀なくされてしまったのだった。


「ブ……ブラハム」


 鬼神の如き彼の動きに、それまで声を掛ける事さえ出来なかったアムルだが、手傷を負い付近に着地したブラハムに何とか声を掛ける。

 それでもブラハムからは、手助けを期待する様な雰囲気は発せられていない。


「……固ぇ上に、手傷まで負っちまって……。こりゃあ、最後のとっておきを披露する刻かもしんねぇなぁ……」


 右わき腹と左肩、そして左足脛に穴を穿たれ、口から血を流したブラハムが、それでも不敵な笑みを浮かべてアムルの方へ目を向けたのだった。


ブラハムの口にする最後の手段とは……?

魔像を止めるため、そしてアムルを先へと進めるために、ブラハムの秘策が発動される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ