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種を明かせば

激戦を制し、シヴァを倒す事に成功したブラハムだが、その消耗は激しいものだった。

2人は、暫しの休息をその場で取っていた。

 凡そ1時間、アムルは浅い眠りを取り休息した。


「あぁ―――。スッキリした」


 僅か1時間とは言え戦い通しで疲れた体を癒せた事は大きく、少なくとも精神的疲労は随分と回復していた。

 魔法を主体として戦うアムルにとっては、魔力は勿論だが精神的な疲れも重要なファクターと言える。

 そして、その更に1時間後。


「う……ううん。痛ててて……。ふぅ……だいぶスッキリしたな」


 眠り続けていたブラハムも目を覚ましたのだった。

 人は睡眠欲を満たすだけでなく肉体の回復にも眠りを利用する。戦士であるブラハムは寝る事で体力は勿論の事、傷の回復も促進させる事が出来るのだ。


「ようやく起きたな。体は動きそうか?」


 目覚めたブラハムへ、アムルがそう問い掛ける。

 アムルの質問は、ブラハムの気持ちは兎も角としてこの先も戦えそうかと問うものだった。

 ただ「大丈夫か?」と聞けば、ブラハムは「大丈夫だ」と答えるだろう。そこには、自分の身体を厭うたものなど含まれてはいない。


「う……ん? ……大丈夫そうだ」


 アムルの質問の意図を正確に汲み取ったブラハムは、座ったままで身体を動かしその可否を測りそう答えた。それを聞いたアムルも、それ以上彼の身体についての問答は切り上げた。


「それじゃあ、聞かせてもらおうか。……さっきの技は、一体何だったんだ? 確か……『血華斬』……とか言ったか?」


 代わりに、気になっていた疑問を口にしたのだった。


 先ほどブラハムの使用した剣技「血華斬」は、その威力も然ることながら彼の消耗が尋常ではない事をアムルは見抜いていたのだ。

 大技ゆえに多少の代償は必要とするだろうが、それにつけても戦闘中、そして戦闘後のブラハムの疲労はアムルの理解を超えていたのだ。


「魔法……じゃあないな。『氣』でもなかった。何かもっと力強い、特別な何か(・・・・・)が作用していたように感じたんだが……」


 ただ聞くだけではなく、アムルはブラハムの戦いぶりを見て感じた事をそのまま口にしたのだ。そしてそのまま、自身の考えに耽っていく素振りを見せた。


「……ふっ。確かにあれは、魔力や氣を用いた攻撃じゃあない」


 そんなアムルに、ブラハムは僅かに笑みを浮かべて口を開きだした。

 このまま放っておいても、アムルは答えに辿り着きそうではあるのだが、それをゆっくりと待つほど彼らに時間的余裕がある訳でもない。


「……あれは、人の中に宿る『(はく)』を用いたものだ」


 そしてブラハムは、ゆっくりと種明かしを話してゆく。


「……『魄』……だって?」


 もっとも、アムルにとっては初めて聞く文言に、途中で口を挟まずにはいられなかったのだが。

 勿論、ブラハムもその辺りは了承しているようで、アムルの横やりに気を悪くした様子はない。


「まぁ簡単に言うと……人の持つ『生命(いのち)』そのものだな。聞くところによると、人の持つ『生命』ってやつは凄まじい力を持っているんだそうだ。それを使用する事で、到底人には出すことの出来ない力を発揮する事が出来る……んだそうだ」


「い……生命……だって!?」


 ブラハムの説明を聞いて、アムルは絶句してしまっていた。

 話を聞く限りでは理解出来ない事も無いのだが、その様な事を出来る技法があるなど思いも依らなかったのだ。……と言うよりも、魔界ではそこまで壮絶な技は考えようともしなかったのだった。


「魔族にも、土壇場で引き出される常識を超えた力ってのはあるだろう? それを人界では、意図的に引き出せるように技として確立され、伝えられているんだ。……まぁもっとも、自らの命を削って得る力だからな。……そう簡単には誰も使えないし、会得しても誰も使用しようとはしないだろうが」


 確かにブラハムの言う通り、死の間際に瀕した者が尋常ならざる力を使ったという逸話は魔界にも幾つかあり、アムルも少なからず耳にした事があった。

 しかし、そんな状態に陥った者の末路は総じて「死」であり、死と引き換えにするような力など誰も望まなかった。勿論、アムルもその様な力に頼ろうなどとは考えた事も無く、そんな力について研究しようなどとは思いもしなかったのだ。


「だ……だがブラハム。お前はさっき、その『魄』を用いた技を使ったのだろう? それで……体は大丈夫なのか?」


 アムルの知り得る話や、先ほどのブラハムの説明を聞けば、彼が未だに生きている事実とは矛盾してしまう。だからアムルはその様な質問をしたのだが。


「だから、言ったろう? 人界では、長い間この事について研究してきたって。いっぺんに全ての『生命』を使い切るのではなく、少しずつ引き出して利用する技術が確立されているんだよ。勿論、誰にでも伝授されている訳じゃあ無いし、どんな奴でも使いこなせるもんじゃあないけどな。なんせ、制御が難しいんだ」


 ヤレヤレといった態で、ブラハムはアムルの質問に答えた。

 その余りにいつも通りの仕草に、アムルは先ほどまでの話の内容を疑ってしまいそうになるほどであったのだが。


「人の持つ『生命』は、本当に凄い力を秘めてんだ。だから、ほんの僅かでも絶大な力を行使出来る。それに、どんな生物にも(・・・・・・・)存在する為には(・・・・・・・)()と言う依り代が(・・・・・・・)必要(・・)だからな。この技を使えば、実体の稀薄な魔物にも攻撃が有効になるんだ」


 ブラハムの大雑把な説明だが、アムルにはそのどれもが初めて聞く内容で、その心中は穏やかではなかった。

 自らの命を削って、強力な力を引き出す技。

 そして、その使用量をコントロールする術。

 更にはこの世のあらゆる存在が「魄」を依り代としている事や、それと同じ力を用いる事で攻撃を有効にする……など。

 アムルはその話に感心すると同時に、驚愕すら覚えていたのだった。


「だから、さっき俺が使った『血華斬』も、俺から引き出した『魄』はほんの僅か。でも、その効果は結果の通りだ。この技のお陰で、以前の冒険の刻にも色々と助かった訳なんだがな。それだけじゃあなく、この技は魔法にも……って、アムル?」


 ブラハムは説明を続けていたのだが、アムルの変容を目にしてその話を止めた。

 当のアムルはどこか蒼い顔をして自身の考えに耽っているようで、ブラハムの問い掛けにも反応を示さなかった。

 しばしの沈黙の後、まるで人形の様な動きで首を動かしたアムルはブラハムの方へと目を向け。


「……それで、その『生命』を使用したお前は、何ともない……って訳がないんだろう?」


 小さな声で、ブラハムに向けてそう問い質したのだった。

 アムルやカレンの「とっておき」と同様に、ブラハムの使用した「血華斬」にも代償はついてくる。それも、言われるまでも無いほどの明確な……。


「んん? ああ、まぁちょっと寿命が縮むだけだな。さっきの戦闘だと、大体数か月ってところかな?」


 恐れさえ孕んだアムルの声音に対して、ブラハムはどこかあっけらかんとしてそう返答した。

 それに対してアムルは、更に驚きの表情を作ってブラハムを見つめたのだった。その理由は。


「お……お前、自分の言っている事を理解しているのか!? 1回の戦闘で自分の『生命』を削って、どんどん自分の人生を短くして……。それで勝って、勝ち続けてどうするっていうんだ!?」


 アムルには、ブラハムの行為が自分の命を安売りしている様に感じられたからだった。

 もしも先ほどの戦闘が長引いたならば、ブラハムは戦闘後に寿命が尽きて死んでいたかも知れないのだ。

 それを考えれば、ブラハムが平常でいられるのが信じられなかった。

 もっとも。


「なぁ? 何言ってんだよ、アムル。戦士の戦いは、常に生きるか死ぬかなんだぜ? あの戦闘で力を出し惜しみして死んだら、それこそ俺の『生命』はそこで終わりじゃねぇか。生き残る為にあらゆる手段を使う。少なくとも戦士は、そういう戦い方をするもんだ」


 ブラハムの反論を聞いて、アムルは閉口させられたのだが。

 彼のいう事は至極もっともであり、アムルが異論を唱える事など出来ないほどである。

 それにアムルとて同じ状況に立たされれば、それが危険だと知っていても尚生き残る手段を優先させているだろう。

 そういう意味では、アムルもブラハムと大差ないと言える。


「……それに、だからこそ『仲間』がいるんだろ? 俺が『血華斬』を使わなくても済む様に、仲間が危険な賭けをしなくても良いように、俺たち『仲間』は協力して事に当たってるんだよ」


 やや項垂れた様なアムルに対して、ブラハムはどこか明るい声を掛け。


「……なるほど。だからこその『仲間』か……」


 アムルも、ブラハムのその言葉で納得がいったのだった。


「だからこその『パーティ』だよ。お互い、持ちつ持たれつ……てな」


 ニカッと男臭く笑ったブラハムの笑顔に、アムルもつられて笑みを浮かべたのだった。


ブラハムの説明に、アムルも納得を見せた。

そして2人は、上を目指して先へと進むことを決めたのだった。

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