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圧する力

高い防御力に加えて、「氣」をも操る魔獣ジャイアント。

倒すのも困難な敵を前にしても、アムルとブラハムに悲壮感は浮かんでいない。

 弾かれた様に駆け出したブラハムは、一直線にジャイアントの方へと向かって行った。

 丁度、先ほどの攻撃を再生したかの様な動き。しかしその動きは、その時とは比べ物にならない程俊敏であり力強い。


「ちぇいっ!」


 やはり先ほどの攻撃と同じく、ブラハムは手にした大剣を横に払う。ただ先ほどと圧倒的に違うのは……込められたその力と剣を振るう速度だ。


「ギュグイッ!?」


 ブラハムの襲撃に構えたジャイアントだが、その防御行動が危うく間に合わない所だった。

 余程慌てたのか、初めてジャイアントが叫声を上げる。それだけでは無く、大きく態勢も崩される事となった。


「そらぁっ!」


 そして今度は、ブラハムも退いたりはしない。姿勢を大きく傾けたジャイアント目掛け、大きく振りかぶった剣をそのまま見舞ったのだ。

 だがその一撃は、隣に控えていたジャイアントの戦斧によって防がれる事となる。


「ふぅっ!」


 ブラハムはそのまま、標的をその防御したジャイアントへと定めて肉薄した。その動きに淀みなく、流れるようでいて無駄がない。

 返す刀で風の様に斬り掛かるブラハムの一撃を、そのジャイアントは右腕を盾にすることで何とか防ぐ事に成功した。……のだが。


「ガゥアアァッ!?」


 鈍い音が響き渡り、剣を防いだジャイアントのリストガードが粉々に砕け散った。そして、そのジャイアントの驚愕した声が続く。

 咄嗟の事とはいえ、ジャイアントも「氣」を用いて防いでいたのだ。先ほどはそれで、ブラハムの一撃を完全に防いでいた。

 だが今回は、その防御を潜り抜けて腕の防具を粉砕したのだ。これが驚かずにいられぬはずはない。

 しかしこれも、ある意味で当然の結果と言えばそれまでな訳だが。


 先ほどアムルは言った。人に出来る事は、魔獣にも出来る……と。

 それは、逆もまた然りという事でもある。

 武器や防具に「氣」を纏わせる技術は、人界にも存在している。武術に関して達人級の技能が必要となるが、おおむね全ての人が身に付ける事の出来る技だ。当然の事ながら、ブラハムもこの技能を習得しており扱う事が出来る。

 さらに言えば、ブラハム程の技量があれば人界の誰よりも巧みに操る事が出来るだろう。

 その彼が、「氣」で覆われた防具に対して「氣」を用いた一撃を放ったのだ。ジャイアントの防具が壊れてしまうのも当然であり、むしろ腕が切断されなかっただけでもジャイアントにとっては幸運と言って良いだろう。


「そらぁっ!」


 完全に優勢となっているブラハムは、前衛のジャイアント2体を相手に攻勢を緩めなかった。




 戦闘を開始したブラハムの姿を、アムルは何の心配も伺わせない表情で見つめていた。

「氣」を扱う敵に対して、ブラハムも「氣」を用いた戦法を展開しだしたのだ。共に同じ技能を使用したのならば、優劣をつけるのは戦闘能力と得物の性能という事になる。

 ブラハムにおいては、戦闘能力には申し分ない。よもや、ジャイアントに後れを取る事は無いだろう。

 武器に関しても、少なくともブラハムの持つ大剣はアダマンタイト製であり、ジャイアントの身に付けている物よりも劣っている訳が無いのだ。


「さて……と。それじゃあ俺は、後衛のやつらを何とかするか」


 アムルはそんなブラハムの立ち回りを見届け、その視線を未だ動かない3体のジャイアントへと向けた。

 ブラハムが相手をしているジャイアントは、防御に重きを置きながらも攻撃を主体としている。手にした武器が戦斧なのがその事を如実に物語っていたし、実際今もブラハムと激しい戦闘を行っている。

 対して後方の3体は、完全に防御主体の仕様と言って良いだろう。

 手にした盾はその巨体を完全に隠す程であり、更に淡い魔法光まで発している。それだけで物理、魔法の両方に高い耐性がある事が伺えた。付け加えれば、このジャイアントたちにも「氣」を繰る事が出来、その分防御力が加算される事は言うまでも無い。


「氷柱舞、凍結により鍛えられし氷華よ……咲き誇れ」


 それを知った上で、アムルは魔法の詠唱を開始した。

 唱え始めた魔法は、中級魔法である「アイスランス」。アムルならば、詠唱なしでも発動可能なこの魔法を、彼は丁寧に呪文を唱えて使用しようというのだ。

 それにより。


「……アイスランス」


 掌をジャイアントへと向け、アムルは魔法を完成させた。正しい手順を踏んだ魔法は本来の威力を発揮する。

 以前に彼が使用した時よりも巨大な、それでいて高い硬度を持った氷柱がジャイアントの四方より発生し、一気に巨人へと襲い掛かったのだ。


「……ふん」


 魔王アムルが、正式な手順を踏んだ魔法なのだ。その威力は、この魔法の持てる最大のものだと言って良いだろう。

 それでも、アムルの魔法攻撃を受けても尚、ジャイアントたちは盾を構えた姿勢のまま微動だにしていなかったのだった。これでは、アムルが鼻を鳴らすのも当然と言える。


「……面白いな」


 もっとも、アムルはその事で(おのの)くよりもどこか楽しそうな声を出していた。表情も、先ほどのブラハムと大差ないものを浮かべている。そこから考えられる事は、アムルもこの戦闘をどこか楽しんでいるというものだろう。


「それなら……」


 即座にアムルは、次の魔法の準備を行う。矢継ぎ早に魔法を繰り出す事で、敵の隙を作り出そうとするこの戦法は間違いではない。


「地の底より蠢き震わせよ。其の怒りは、大地の激怒なりや。……グランクラック」


 それでも、一撃で勝敗を決するような強力な魔法を行使せずにこの程度の魔法(・・・・・・・)を使う所を見れば、やはりアムルは手を抜いていると言わざるを得ない。

 もっともそれは、ブラハムの戦いぶりを気にしながらのものであり、十分に冷静かつ計算尽くであるのだが。

 アムルが魔法名を告げると、巨大な魔法円が3体のジャイアントを取り込む様にその足元に出現した。

 それと同時に、とても立ってはいられないだろう程の激震が魔物どもを襲う。防ぎようのない局所地震は、ジャイアントの体勢を大きく崩した。


 そしてここでも、アムルの魔法使いとしての優れた部分が披露された。

 この魔法は範囲効果があり、普通に使用すれば標的一帯をその有効範囲内に収めてしまう。つまり、目標だけにその効果を与える事は難しいのだ。

 魔法が発動すれば敵は勿論、その周辺で戦っている仲間や、下手をすれば自分自身にもその魔法効果が及んでしまう。

 魔法で作り出した事象を直接相手にぶつける訳ではないので、魔法防御力がいくら高くともその影響からは逃れられない魔法なのだが、その様な理由で使いどころが難しくもある。

 アムルのように効果範囲を(・・・・・)別の魔法で(・・・・・)絞りつつ(・・・・)発動するなど、魔界人界を含め彼を除いてマーニャや、後は数人を数えるほどなのだ。

 そしてアムルがわざわざ効果範囲を定めたのは、近くで戦っているブラハムの邪魔にならないようにとの気遣いからでもある。


「風よ風よ、渦巻き集約せよ。その見えざる巨塊持ちて、我が敵を打ち据えよ。ヴァン・マルトー」


 続けてアムルは、混乱に陥ったジャイアントに向けて魔法を放った。

 普通で考えれば連続で使用出来ない程レベルの高い魔法を連射出来る処を見ても、アムルの高い魔法力が伺える。

 彼が呪文を唱え終えると同時に、ジャイアントの頭上で急激に大気が渦巻きだす。周囲の空気を取り込んで、目に見えてそれらが凝縮していくのが分かった。

 そして瞬時に作り上げた大気塊は、アムルが差し出していた右腕を振り下ろすと同時にその直下にいたジャイアント3体へと襲い掛かった。


「グ……グオオオォォッ!」


 巨大な風の槌を受けて、さしものジャイアントもその場で両ひざを突き蹲った。この魔法もまたただの属性魔法(・・・・・・・)と言う訳では無く、魔法と物理の(・・・・・・)合成魔法(・・・・)と言う位置づけだ。

 体勢を大きく崩された状態では、「氣」の運用も儘ならない。

 これには、魔法防御力に(・・・・・・)特化した(・・・・)ジャイアントもただでは済まなかった。


「……へぇ。さすがに頑丈だなぁ」


 それでも、元々が体力防御力に秀でたジャイアントである。純粋な物理攻撃でもダメージを与えるのが難しい魔物には、この魔法でも決定打となり得なかった。


 そしてアムルは、そんなジャアントを見てその瞳に更なる嬉々とした色を浮かべていたのだった。



アムルの魔法による攻勢は衰えを見せない。

立て続けにアムルは、凶悪な魔法を行使してゆく。

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